第79話 ラスボスっぽいのの登場は始まりの合図
「うへぇ…なきこれ…キモォ…」
纏わり付く泥、それを払いながら真っ暗なそこを切り開いていく。
「いたね~、れーちゃん。」
ドロドロに手足を縛られ、磔にされた様にどす黒い何か呑まれた同級生の姿があった。
「言ったよね、ぶん殴るって!!」
ドロドロが背中から纏わり付いてくる。そんな不快感を無視し、私は全力で走り、拳を振るった。
「届かないかぁ~。」
ほんの少し届かなかった。
纏わり付く泥は私を呑み込み、自由と身体の感覚を奪っていく。
意識が朦朧とし始めた時、ドロドロにデッカイ穴が開いた。
「凛樹!!」
この世で1番怖くて、1番強くて、1番私を愛している、最強のママの声が聞こえた。
−−−−−−−−−−−−−−−−−
「凛樹…」
泥に呑まれた凛樹、何も出来ない自分の顔を私は無意識に殴った。
「パパ…」
そんな私に迫る泥。
最後の力を振り絞った私は、目を閉じ微弱な炎を放った。
「嘘でしょ…」
目を開けた時、泥は消え、凛樹と1人の少女を抱えた、最強が立っていた。
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「凛樹っ!!」
車から飛び出した僕は、街を呑み込む勢いの泥の前に立つ。
迫る泥は、恐怖と嫌悪感を湧き起こし、思わず逃げたくなる。
しかし、踏みとどまれる。
娘が中にいる。それだけで立ち向かえる。なにより、もっと強い、最愛の人がここにはいる。
「ウチのバカ娘に傷つけてねぇだろうな!!」
愛する妻は、大切な娘の為、あの頃どころではない、正真正銘、最強の力を振るった。
泥街を呑み込み巨大な泥、その泥に放たれた一発の拳。
一閃の光が巨大な泥を貫通した。。
数秒動きが止まった泥は突如一気に集約し、どす黒い球体となった。
「神娘!!」
球体に向かって妻の名を呼ぶ。
眩い光が球体を消し去り、神娘が娘と少女を抱え降り立った。
「神娘姉…マジ尊い…」
その光景に義妹はうっとりとした表情で呟き…
「車酔いした…」
わざと僕に向かってゲロを吐いた。
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「『魔王の泥』消滅しました…」
送られた映像と調査員からの連絡に会議室が湧いた。
しかし、それと同時に、伝説的な能力者たちが力を合わせ封印しか出来なかったソレをワンパンで消滅させる存在に恐怖する。
武生…百道神娘の強さを知らない協会幹部は存在しない。
最強を証明する嘘の様な本当の伝説の数々は、人の域を超え、神々の偉業、それに値するものばかり。
『地震を地面殴ってとめた』とか、『飛来する巨大隕石を地上から拳圧だけで消し飛ばした』とか…
上げれば枚挙にいとまがない程だ。
「野放しにしていい存在じゃないんだけどなぁ…」
ヒーローでも、ヴィランでもないただの主婦である彼女は、家族の為だけに動く。
そもそも、彼女を管理し制御出来る人物が底辺ヒーローのプディングマンしかいないという状況がおかしいのだが、現状は彼頼みというのが現実だ。
「ヒーローって必要なのかなぁ…」
ヒーロー協会の上級幹部として言ってはいけない言葉を呟いていた。
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「『魔王の泥』じゃ駄目かぁ…うまくいくと思ったんだけどなぁ…」
邪悪な泥が消失する瞬間を見下ろしながら呟く男。
「本来であればアレで十分であった筈です。武生神娘が存在しなければ…」
男の傍に立つ女はそう答える。
「まあ、追加のサンプルも手に入ったし、とりあえずよしとしようか。どっちが強いかも分かったわけだし。」
男は笑いながら黒く長い髪の毛を摘んで女に見せた。
「完成も近いですね…」
スッ、と頭を垂れる女。
「そう、もうすぐだ…もうすぐ会えるよ…僕の神娘…」
愛おしく摘んだ毛髪を見つめ、男はそう呟いた。
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