第77話 偽物の暴走

「凛樹?」

 お祭り騒ぎとなった繁華街。

 その中心にいた私と凛樹。

 しかし、凛樹は突然姿を消した。そして暫く経った今、再び現れた凛樹。

 だけど私は姿も格好も、全てそのままの筈の彼女に違和感を感じた。

「アンタ…本当に凛樹?ほんの数十分で随分と陰気臭くなったわね。」

 母国で戦ったヴィランの中には、姿を変える者もいた。ほんの少しの違和感でも疑う、その直感を信じたのは間違いではなかった。


「陰気臭いかぁ…人気者…レインボークリスには私の気持ちなんか分からないよね…」

 偽凛樹がそう恨み節を言うと同時に、どす黒く、本能的にヤバイと分かる泥が私に向かって来る。

「凛樹はどこよ!!」

 泥を堰き止める様に土の壁を創りながら私は言う。

「それ、私が聞きたかったんだけど…あのバカを呑み込んで、私は本物の百道凛樹になるのに…バカって突拍子もなく動くし、予想外のことするし…本当嫌い…なんであんなバカが人気者で誰からも愛されて優遇されて…真面目に頑張っても無駄!!だったら全部奪ってやる!!私だってアイツみたいになりたいのに!!」

 その叫びは、憎悪と羨望が混じっている。

「みっともないわね!!誰だって、最初に与えられたカードで戦ってんのよ!!」

「恵まれたお前が言うなぁ!!」

 更に泥は勢いを増し、創った壁を乗り越え、私に襲い掛かる。

「巫山戯んな!!私だって血ヘド吐いて努力したの!!アンタに何が分かるのよ!!」

 7つの能力。それを自在に操れる様になるまで、私はそれこそ、学校にも通わずに毎日能力の操作を限界まで行った。その結果が今だ。

「才能も扱えなきゃゴミと同じ!!誰だって頑張ってんのよ!!死ぬ気でやりもせずにも甘ったれんじゃないわよ。」

 風を操り自身を浮かせ泥を回避し、雷撃を放つ。

「どんな綺麗事も響かないよ…アンタみたいな恵まれた人間が言っても。」

 雷撃を泥の壁が塞ぐ。

 偽凛樹の操る泥は、自動防御レベルの速度と、感情で攻勢の勢いが増す。

 彼女の感情次第…

 そんな可能性を考えながら、距離をとる。


「こうしたらどうなるかな…」

 そんな彼女は、私に考える時間も与えない。

 泥は繁華街に集まった一般人を呑み込もうと動いた。

「陰気臭い戦い方ね!!正々堂々戦いなさいよ!!」

 そう言いながらも、ヒーローとして、人を守る為に泥の中に全力の壁を創った。


「ヤバ…お腹空いた…」

 エネルギー切れ寸前だった。 



−−−−−−−−−−−−−−−−−



「クセェ…匂いやがるのぉ…」

 お小水掃除しながら、ゲロを吐いた叔母はそう呟いた。

「そりゃあ臭いでしょ…」

 一緒に掃除する僕は、恨み混じりにそう言った。

「違ぇ…匂うんじゃ…面白ぇ匂いがのぉ…」

 そう言って母さんを見る叔母。

 そんな母さんはデバイスを見つめていた。ただならぬ殺気を放ちながら。

「神娘姉がマジでキレとる…久々に見れるかもしれんのぉ…俺の憧れた神娘姉が。」

 叔母が目を輝かせて母さんを見ていた。


「少し出掛ける…帰ってくるまでに掃除終らせとけよ。」

 母さんが姿を消した。光兄ちゃんの本気の速度よりも速く、母さんはどこかに向かった。

「岩穿!!掃除任せたけぇの!!俺ぁ神娘姉追いかけるけぇ!!」

 叔母はウキウキと雑巾を床に投げて玄関に走りながら、

「おい、義兄ぃ!!車出さんかい!!神娘姉追いかけるんじゃ!!」

 父さんにそう怒鳴る。

 そして、何故か従う父さん。


「叔母さんのせいなのに!!なんで僕が掃除しなきゃいけないんだよ!!」

 2人が去って1人になった家で、僕は全力で雑巾を床に叩きつけた。



−−−−−−−−−−−−−−−−−



「ママ直伝の右ストレート!!」

 ドロドロを纏う私もどきの正面に木々を操り勢いよく飛び出し、右の拳を振るった。

 それを塞ぐ様に私もどきを覆うドロドロ。

「キモッ!!」

 ドロっとした感覚が右腕を襲うが、ドロドロごと殴り飛ばす。

「ギャァァァッ!!」

 ドロドロから人影が飛び出し悲鳴を上げる。


「そのキモいガードは反則ね。だから今のノーカン。一発ぶん殴るまで何回もやるからね。」

 右腕を一薙し、纏わり付いたドロドロを振るい落としながら言う。

「百道凛樹…」

「れーちゃん、言っとくけど、マジで殴るから。でさ、そのあと私殴っていいよ。また殴り返すけどね~。」

 私は笑いながら、再びドロドロを纏うれーちゃんに向かい走って行った。


「ママ直伝、フランケンシュタイナ〜!!」

 殴るって言ったな、アレは嘘だよ。

 ニヤリと笑いながら、ドロドロかられーちゃんを引き摺り出した。







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