第76話 最強の後継者?

「おどりゃもういぬりぃ。んで勉強しときぃや、俺がヤリとぉなったら呼んじゃるけぇ。そんときゃ秒で来ぃ、俺ぇ待たよったらぶちまわしちゃるけぇのぉ!!」

 そう言って、バイクを運んだ男を蹴り出す叔母。

「ありがとうございます!!」

 何故か涙を流し喜ぶ男。

 僕が思っている以上に、大人の世界は奇妙奇天烈らしい。


「岩穿〜、俺ぁ客じゃぞ〜、茶ぁの一杯くれぇ出すんじゃないかぁ~?」

 我が物顔でソファを占領し、遠回しに要求する叔母に、無言で水道水を差し出した。

「神娘姉も躾けがなっちょらんのぉ…それとも、水割り用ちゅうことか?」

 ニヤリと笑った叔母は、勝手に戸棚を漁る。

「ええ酒持っちょるのぉ…クソ義兄ぃ。」

 父秘蔵の酒を手に取る叔母。

「それは駄目だよ…父さんも特別な日しか飲まないから…」

 僕は止めた。その実績を積む為にそう言ったが、止まるとは思っていない。

 なんせこの叔母、最愛にして敬愛する姉、つまり母さんを奪った(結婚した)父さんに嫌がらせをするのが至高の幸福なのだから。

「ますます飲まんといけんのぉ…」

 ニヤリと悪い笑みを浮かべ、豪快に栓を切る。


「水割りなんぞケチな飲み方しとんじゃなぁ、クソ義兄ぃは!!こん程度の酒くりゃぁ毎日飲める位ん甲斐性もなかくせに俺の神娘姉を奪りやがって!!俺が全部飲んじゃるけぇ!!一気にのぉ!!」

 そう怒鳴り、豪快に酒瓶に口をつけ、一気に煽る。

 ゴク、ゴクと喉が鳴り…

「ゲェ〜ッ!!…安い酒じゃのぉ!!こん程度の酒を有難がっちょる甲斐性なしがぁ!!」

 そう下品に叫び、

「旨いのぉ…あのクソ義兄ぃが大切にしちょった酒ぇ飲み干し、悲しむ顔ぉそうすると旨いのぉ!!」

 嬉しそうに、上機嫌に笑う叔母。

 最低だこの人…


 その後も叔母の暴走は止まらなかった。

 家中の酒を空け、トイレに駆け込んではゲロを吐き、服が汚れたと下着姿になり…

「ギャハハハっ!!」

 下品に笑う。

「岩穿…オメェ、女は知ったのかぁ~?」

 酒臭いゲップをしながら僕に馬乗りになる。

「その様子じゃと知らんのじゃのぉ~。ケケケ…俺が教えちゃる…」

 嗜虐的な笑みを浮かべ僕の顔に酒臭い息を吐く。


「舞風ぁ…テメェ、ウチの息子になにしてやがんだ…」

「み、神娘姉ぇ…ここれは…違くて…」

「うるせぇぞ舞風…それと岩穿、テメェなにしてんだ?」

 余りにも恐大な母の殺気に、叔母だけでなく、僕も本気でチビった。

 嘘だ、チビるどころか垂れ流しレベルで床を湖に変えた。


「「命だけは勘弁して下さい!!」」

 僕と叔母は濡れた床で泣き叫び土下座した。

「説教は後だ!!先ずはテメェらが汚した床の掃除だろうがぁ!!」

 汚す原因となった人から怒鳴られたが、それに意見する勇気のある者など、世界中どころか、宇宙全てを探してもいない。

「「はい!!今すぐに!!」」

 僕と叔母は、必死に雑巾で床を磨いた。



−−−−−−−−−−−−−−−−−



「え、れーちゃんいないの?」

「昨晩、突然いなくなって…警察にも連絡して、夜通し探してるんです…」

 れーちゃんママは一睡もしていないらしく、肉体的にも、精神的にも疲労している様子が見える。

「麗香の友達とか嘘でしょ…どうせ陰キャの気持ちなんか分からない陽キャ…あぁ…思い出すだけで辛い学生生活…学生時代、不真面目に生きたのに真面目に生きた人間よりも良い生活してる奴らはみんな死ねばいいのに…」

 が、それ以上にそれ以外の闇が見えた。

「れーちゃんいないなら探すの手伝うよ~?れーちゃんママ、れーちゃんの行きそうなとこ分かる〜?」

「自分の部屋…私と一緒で外とか嫌いだし…陽キャとかギャルとか、ヤンキーとか死ねばいいと思ってる…」

 それは自分のことなのか、それとも母娘共々そうなのか、分からないけど、なんとなく分かった。

「しゃーないねぇ〜。凛樹ネットワーク総動員だよ~!!」

 私はデバイスを弄り、自分のフォロワーに呼び掛けた。


「先に謝っとくね~、れーちゃん見つけたらぶん殴るけど、ごめんね、れーちゃんママ。」

 私はそう言って頭を下げた。

「ヤンキーギャル怖い…」

 そう怯えたれーちゃんママにピースする。

「大丈夫、友達だから〜。絶対ぶん殴って帰らせるからね~。」

 

 友達だからぶん殴る。

 そして本当の友達になる。

 多分私とれーちゃんは真逆だ。だからなんだ?

「とりあえず泣かせないとね~。負けっぱなしとかマジ有り得ないもん…」

 グッと右の拳を握る。

「れーちゃん覚悟しといてよ~、ママ程じゃないけど、私強いからね~。」

 

 デバイスに入った通知を見て、私は街路樹を操り移動する。

「なんだ…れーちゃん私のこと大好きじゃん~。」

 多分、我ながら凶悪な笑みを浮かべていたと思う。


「久しぶりだな~本気でぶん殴るの…」

 見えて来た繁華街。

 その中央通りに立つ私に、私はママ直伝の拳を振るった。


 

 






 

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