第73話 店休日
「そもそも、今日がどういう日か分かってんのか?」
殺気を放ちながら神娘はヒーロー協会より派遣された職員に言う。
「いえ…すみません…」
何も言えずに俯く職員。
「今日は店休日…ガキ共は学校。分かるよなぁ!!」
神娘は完全にブチ切れていた。その殺気は、呑気にお茶を啜っていた僕に向いていた。
「分かるよなぁ?乱鶯!!」
不機嫌さを隠さずに殺気を更に放つ神娘。溢れ出す殺気は我が家どころか、関東一帯に震度2程度の揺れをもたらした。
「ですよねぇ…デートでしたもんね~。」
僕はダラダラと汗を流しながら妻に言った。
「だよなぁ!?なんで誘ってねぇんだ?服、いつもよりも気合い入れてんのも分かんねぇんだよなぁ!!折角デートだと思ってたんだけどなぁ!!」
妻の気迫に僕は自然と床に正座していた。
「神娘さん…」
正座しながら見上げる様に妻を見る僕。
「すみませんでした!!」
土下座した。
全力で土下座した。
「折角、お前が好きそうなのを選んだのに…」
土下座する僕にチラリと見せる下着。
「神娘…」
「乱鶯…」
可愛い。
僕の妻は世界一可愛い!!
抱き着く妻と何度も口吻を交わした。
「おい、いい年こいてなにやってんだ?話し聞けよ色ボケ夫婦。」
そんなことを言った来客は、無限の彼方に旅立った。神娘のパンチで。
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今日は店休日。しかも子どもたちは全員学校。
つまり、両親の帰りは遅いし、帰って来た後のママの機嫌は良い。
多少遅くなっても許される。ウキウキとした気分で私は友達と遊び回る。
「ねぇ〜、俺たちと遊ぼうぜ〜。」
そんな風に言い寄る男たちを街路樹に縛り着けながら、私は最高に輝いていた。
行く先々でチヤホヤされ、何度も芸能事務所から勧誘される。
私は可愛い。
そう自覚させてくれる一時は大切な時間だ。
「凛樹じゃない!!」
「あ、クーちゃん!!」
そんな繁華街で突如起こる美少女の共演。
「イェ〜ィ!!盛り上がって行こ〜!!」
「モッチーだ!!」
「あっちはレインボークリスだ!!」
クーちゃんと共に観衆を盛り上げる私は、若者の街のトップリーダーとなっていた。
「アゲテこ〜!!」
みんなが私を見てる。
その快感と共に、思うこと。
「れーちゃん大丈夫かな…」
誰にも聞こえない様に呟いた。
昨日から学校に来ていない同級生が脳裏を過った。
「私のせいだよね…」
家行くか。
決断してからの私は速い。
お祭り騒ぎとなった街から街路樹を操りながら飛び出し、駅の改札に降り立つ。
「とりあえず家行くよね~。」
デバイスを改札に翳し電車に乗る。
「れーちゃん、病気じゃなかったら一発殴るからね~。」
泣かされた恨みは忘れない。
「んで、友達になろ~。」
不意打ちして撮ったれーちゃんとのツーショットを見ながら、私は拳を固めた。
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「あんな大人にはなるまい…」
下校途中のコンビニの駐車場。大型のバイクの傍らでいびきをかきながら寝る酔っ払いを見ながら僕は誓った。
なんとなく見覚えのあるその人物を無視し、帰路を急ごうとしたが、身体が小さな竜巻に舞い上げられ、件の酔っ払いに引き寄せられる。
「よぉ…岩穿…久しぶりじゃのぉ…」
酒臭い息を吐きながら言うその人は、大きなゲップをする。
恥じらいはないのだろうか…
「なにしてんの?舞風叔母さん…」
「誰がおばさんじゃ!!舞風お姉ちゃんじゃろうが!!」
巻き起こる暴風と共にぶん殴られた。
ああ、やっぱり母さんの妹だよ、この人。
阿賀院の後継者に相応しい拳は、僕を吹き飛ばした。
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