第49話 誰の為の戦い
「ママお願〜い!!」
「お願い!!」
武道場で気を失った僕の耳に凛樹ちゃんと氷華ちゃんの声が聞こえる。
「何度も言うが駄目だ。…というより無理だろ。こんなデカブツが家に入るわけがない。」
そんな娘たちのお願いを切り捨てるのは最強生物、武生神娘。
「庭で…」
そんな凛樹ちゃんの意見は、
「猫の額みたいな庭に入るわけがない!!」
バッサリと切り捨てられる。
「ごめん…僕の甲斐性がないから…」
隅っこで体育座りをして静かに泣く中年男性。
「ち、違う!!乱鶯が悪いわけではない!!その、アレだ、うん…全部クソジジィのせいだ!!」
慌てた様子で中年男性に駆け寄る武生神娘は、ビシッ!!と武生紅雪を指した。
「えっ!?儂!?」
流石の武神も突然のことに驚いていた。
どうしよう…僕のせいでなんか滅茶苦茶な状況になってる…
−−−−−−−−−−−−−−−−−
「アンタが百道光ね!!」
俺の前に立つメリケンガール。世界が注目するルーキー、レインボークリスだ。
「そうだが…」
何故そんなヒーローがこの武生院にいるのか分からないし、何故俺を知っているのかも分からない。
だが、1番気になるのは…
「なんでウチのTシャツ着てんだよ?」
『百道のプリン』と黒字で書かれた白いTシャツ姿のレインボークリスは、
「バ、バイト…」
と、気不味そうに呟くが、
「って!!アンタには関係ないでしょ!!」
すぐにそう威勢良く言う。
「いや、俺ん家だし、関係あるんだが…えっ?バイト?」
世界的ヒーローが我が家(プリン屋)でバイトしてることに驚く。
「いろいろ事情があんのよ!!どうだっていいでしょ!!」
顔を赤くして怒るレインボークリス。
その事情が大事だと思うんだが…
そんな俺の考えなど無視し、メリケンガールは俺を再びビシッ!と指差し言った。
「アンタの実力を見せなさい!!」
宣戦布告と同時に、火炎をぶちかましてきた。
−−−−−−−−−−−−−−−−−
無駄な動きを1つでも取れば死ぬ。
そんなとんでも緊張感が奔る武生院の武道場内。
「流石お嬢だぜ…」
強がってそう呟くが、背中を伝う大量の汗。
武生院師範代、
お嬢こと、神娘が産まれた頃から知る武生院の重鎮は、余りにも理不尽な責任転嫁に相変わらずだと恐怖に震えながら笑っていた。
お嬢は産まれた時に行う能力検査で無能力と診断された。
しかし、武生院において能力の有無は重視されない。必要なのは武の才能。
お嬢は無能力者だったが、その才能を頭何千個も上に持って産まれた。
それは理解の範疇を超え、そもそも、能力者って何?程度に桁違いに強かった。
それはもう、べらぼうに強く、3歳で武生院の門下生を全員相手にして片手で倒す程度に強かった。
そんなお嬢は武神の異名を取る父、武生院家元紅雪様を超える天才だと皆が持て囃し、敬意と羨望、そして恐怖の対象だった。
「おかしいじゃろうが!!このバカ娘!!」
「うるせぇ!!クソジジィが!!諸悪の根源はテメェだろうが!!」
「ごめんなさい!!儂が悪かったです!!」
そんなお嬢が今や母親となり、元気に紅雪様をボコしている。
今だ反抗期が終わっていないお嬢だが、なんやかんや母親をしていることに、長く見守って来た俺の頬を一筋の涙が伝った。
「おい、鉄斎。」
そんな俺を呼ぶお嬢。
「なんでしょうか?」
慌てて涙を拭い駆け寄る。
「今日カトーヨーカドーでセールなんだ…お一人様一品だから兵隊集めて買って来い。」
渡された買い物のメモ。
「へい!!直ちに!!」
最強なのに庶民的な主婦として生きるお嬢。
一度動けば世界を揺るがす最強生物は、今日も家計を守るべく戦っていた。
「オメェら、今すぐ車輌と兵隊集めろ!!カトーヨーカドーにカチコミじゃぁっ!!」
オォォ!!と木霊する野太い声。
お嬢、待ってて下さい。勝ち取って来ますよ。
スーパーに向う黒塗りの高級車数台との厳つい男たち。
俺たちの戦いは始まったばかりだ。
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