第47話 ソウルフード

「え〜っ!!クーちゃん帰っちゃうの〜。」

「帰るんじゃなくて、予定していたホテルに泊まるだけよ。割と近くだし、遊びに来なさいよ。」

 連休最終日の正午過ぎ、補習を終えて帰って来た百道凛樹との別れを済ませる。

 ほんの数日共に過ごしただけだが、なんだか妹が出来た様な気がした。

「クーちゃん!!」

「凛樹!!」

 そう抱き合う私たち。

「昼食が出来たんだが…帰るんだな。」

 そんな感動など路肩の雑草程度に思う魔王が美味しそうな匂いを漂わせながらそう言う。

「食べるに決まってるでしょ!!」

 感動も感傷も、食欲の前には無力だった。


「クーちゃん、今度もんじゃ食べに行こう~。」

 昼食の焼きそばを一心不乱に啜る私に凛樹がそう言った。

「もんじゃ…あのゲロみたいなヤツ?」

 嫌悪感を全開に言った私に、尋常ではない殺気が私向いた。


「もんじゃは最強のB級グルメ…」

「それをゲロ呼ばわりなんて…」

「死にてぇかクソガキ…」

 何故か全員を敵に回していた。

「今日はこの後、武生院に行く予定だし、ちょうどいい…」

「月島のもんじゃストリートの真髄を見せてやる…」

 ゴゴゴ…という擬音が相応しい殺気を出す百道夫婦の殺気。

「ちょっと待って、中央区なら築地場外市場とか…」

 そんな反論には聞く耳さえ持って貰えなかった。


「もんじゃをゲロ呼ばわりしたことを後悔させてやる…」



−−−−−−−−−−−−−−−−−



 武生院に向う車中、もんじゃをゲロ呼ばわりされた怒りも少し落ち着いた私は、大事なことを思い出して震えていた。

「凛樹…アンタ顔色悪いわよ…」

 そう私を心配するクーちゃん。

「モフ白のこと忘れてた…ママに殺される…」

 ガタガタと震える私。

「モフ白?何それ?それより、本当に食べて大丈夫なのよね!?もんじゃ!!あんなのゲロでしょ!?」

 そう言うクーちゃん。

「はぁ!?ゲロじゃねぇしっ!!マジ美味いしっ!!」

 もんじゃ愛を否定され、頭からモフ白のことは消し飛んだ。

「絶対美味しいって言うからね!!もんじゃ舐めんな!!」

 月島のソウルフード。それを否定することは許さない。


「もんじゃよりお好み焼き食べたいのに…」

 そう呟いたクーちゃんに、ママが容赦ない殺気を向け気絶させたのはその数秒後だった。



−−−−−−−−−−−−−−−−−



 月島もんじゃストリート。

 ソースの焦げる匂いを主として、その他様々、食欲を強烈に刺激する香りが漂うその下町から少し離れた場所に佇む壮厳な建造物。

 平城を思わせるその建造物が武生院である。

 武生院はどの自治体にも属さない。武生院という独立した存在となっているが、地元中央区では門下生が食べ歩き友好関係を築いている為、ちょっとした地元の守護者的扱いになっている。

 そんな武生院のお膝元で、武生神娘という存在は現人神の如き扱いを受けていた。

 大阪の街に降り立ったランディ・バースの如く。 「神娘さん、ウチのもんじゃ食ってって!!」

「神娘ちゃん!!最近半グレがこの辺で暴れてて…商売上がったりよ!!」 

「有難や…有難や…」

 商店街を歩けば、たちまち人集りが出来る妻。

「とりあえずもんじゃ食って帰る。」

 そう言った神娘の言葉に、全員が笑いながら答えた。


「「「当然ウチだよな!!」」」


 もんじゃストリートを踏破するまでに数時間を要し、結局、どこも美味いという結論で終るのだが、ゲロ呼ばわりしたクリスティンが1番楽しそうにしていたのは納得いかなかった。




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