第33話 強さの特権

「そもそも、こいつはなんの動物になるんじゃろうか…?」

 モフモフを見ておじいちゃんがそう言った。

「氷華の弟。」

 ママに怒られるのは怖いけど、弟を守るのはお姉ちゃんの務めだ。

 必死にモフモフにしがみつきながらそうおじいちゃんに言った。

「氷華…そうは言ってものぉ…」

「おじいちゃんお願い!!約束しちゃったし、それに、こいつすっごく良い奴なんだよ!!」

 お姉ちゃんもそうお願いしてる。

「いや…わしが良くても神娘が許さんことには…」

 おじいちゃんも戸惑っている。

 結局、全ての決定権はママが持っているということだ。


「連休中だけなら…」

 おじいちゃんからそんな許可が降りた。



−−−−−−−−−−−−−−−−−

 


「すみません、少しお尋ねしたいことがありまして…」

 武生院の門にて、警官とヒーローが低い腰でそう頭を下げながら言う。

「ここに女の子2人を人質に取った怪獣が入って行ったという通報があったのですが…そんな自殺願望を持った怪獣は来てないですよね?」

「いるわけないでしょう。ここを何処だと思っているんですか。」

 警官の言葉に笑ってそう返す僕。

「ですよねぇ〜。」

 そう笑う警官とヒーロー。

 誤報だったと帰って行く2人を見送り、屋敷に帰った。


「ごめん、なにこいつ。」

 庭に立つ真っ白なモフモフとした巨大生物を指して僕は父に問う。

「おお、神也。こやつは今日から凛樹ちゃんと氷華ちゃんのペットになったのじゃよ。」

 ほほ、と笑う父。

 真っ白なモフモフと戯れる姪っ子たち。そんな微笑ましい光景を見ながら僕は父に更に問うた。


「こいつ、怪獣だよね?」

 そんな僕から目を背け、遠く空を見ながら父は言う。

「怪獣か動物か、それを人の一存で決めるのは、烏滸がましいことと思わんか?」

「いや、どう見たって怪獣でしょう。」

 更に問い詰める。

「しつこいのぉ…ぶっちゃけ、孫娘の可愛い姿が見れればそれで万事オッケーじゃよ。それに万一アレが暴れようと、わし余裕で勝てるし。」

 そうのうのうと言ってのける父。

 この孫バカジジィ…

 思わず殺気が漏れそうになる。

「ヒーローと警官が来てましたよ。怪獣がいたって。」

 そう言う僕に、父は遠い目をして答える。

「アホじゃのぉ…こいつ程度なら、どうとでも出来るわい。ましてや、この娘らの母親が誰じゃと思っとるんじゃ?」

 凛樹と氷華の母親。僕の姉。


「怪獣如きに一喜一憂するのが滑稽じゃの。」

 そう言う父に僕は言葉を返す。

「アンタの娘ですけど?」

「お前の姉じゃぞ。」

 何も言い返せなかった。

「考え方次第じゃよ。神娘に比べれば、怪獣如き愛玩動物じゃろう?」

 ぐうの音も出ないのは、あの姉の恐ろしさを身に沁みて知っているからだろう。



−−−−−−−−−−−−−−−−−

 


 どうしよう…

 一宿二飯の恩として、連れて来られたイベント会場。

 メインステージや広場から離れた場所でプリンを売る。そんな納得出来ない仕事だったのに、群がるファンやカメラマン。

 注目を一身に集めるその状況に、ゾクゾクと身体が震える。


 気持ちいい…

 みんなが私を見てる。みんなが私に注目してる。

 その快感は国が変わっても変わらない。

 私はレインボークリス。世界一位のヒーローの娘にして次期世界一位の最強で最高に可愛いヒーロー。

 やっぱり私がNo.1と再認識させる観衆。

 私は可愛くて最高!!

 ハイテンションでフラッシュの海でポーズをとっていた。


「プリン売れよ。それがテメェの仕事だろうが…小娘…」

 一瞬耳元で聞こえたドスの効いた声。振り向くと溢れ出る圧倒的殺気。

 出店の奥、不機嫌さ全開で私を見る武生(百道)神娘と目が合い、心臓が掴まれた様な感覚に襲われる。


「ア、アンタたち!!プリン買いなさいよ!!百道のプリンを買いなさい!!本当に美味しいんだから!!」

 直ぐさま売り子に転身する。

 怖い…ガクガクと震える膝。今にも泣き出したいくらいだけど、そこはプライドと維持でそう強気な宣伝を行う。

 そう宣伝を終え、人だからが百道のプリンに向うのを見て、バックヤードに引っ込む。


「怖かった~!!」

 マジ泣きした。

 本当に怖かった。


 多分、私は一生、この人武生神娘に逆らえないと思った。





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