第32話 難問
「準備よし。」
車に積み込んだ冷蔵した大量のプリン。
5月の大型連休の中日、今日はヒーロー協会の主催するイベントがある日だ。
前日から仕込んでおいたプリンと冷蔵設備の積み込みを早朝から妻と一緒に終わらせ、車に乗り込んだ。
「協会からの任務とはいえ、収益が上がるのは有り難いなぁ…」
「ヒーローというのも面倒だな。引退したっていいんだぞ?」
そう夫婦で会話しながら、僕は車を走らせる。なるべくバックミラーを見ない様にしながら。
「プリンを売るヒーローなんて聞いたことないわ。」
そう後部座席から聞こえる。
「死にたいんですか、このバカ娘!!」
悪態つくレインボークリスのホッペを引っ張るアイギス。
車内には神娘の放つ殺気が充満している。
一泊朝食付(米一升)を無料で行える余裕は我が家にない。
じゃあ売り子を手伝え、という条件で一泊させたアメリカンヒーローガール。
正直、不安しかない。
「お腹空いた…」
朝食後2時間、そう言って腹の虫を鳴らすレインボーミカに、ますます不安が高まった。
−−−−−−−−−−−−−−−−−
「ねぇ〜おじいちゃん、ペット飼ってもいいよね~?」
武生院に帰り、おじいちゃんに抱き着いてそう甘える。
氷華とモフモフは外で待たせている。
「ほほ、構わんよ。」
デレデレと相貌を崩して即答した。
「やった~!!おじいちゃん大好き〜!!」
言質をとった私は、おじいちゃんをさらに抱き締める。
「それで、どこにおるんじゃ?」
「外、氷華が遊びながら待ってる。」
そう言っておじいちゃんと共に武生院の外に行く。
「やっぱ駄目じゃ…」
モフモフを見たおじいちゃんがそう言った。
「え〜!?なんでよ~!!」
そう不満を告げるが、なんで駄目かは私も分かる。
「ヤダ!!モフモフは氷華の弟だもん!!」
氷華もそう不満を告げる。
「そうは言うが、これ見たら神娘がブチギレじゃぞ…」
モフモフを指しておじいちゃんが言う。想像した私と氷華はガタガタと震え始めた。
「「ママに殺される…」」
「えっ…!?」
怯える私たちを見たモフモフは、私たち以上に怯えていた。
−−−−−−−−−−−−−−−−−
ヒーローイベント。
連休中に開催された、トップヒーローや人気ヒーローと会える協会主催のイベント。
多くの子連れファミリーやヒーローマニア、ファンが集結するその地には、多くの出店も出ている。
そんな出店の大半は現役ヒーローの副業や元ヒーローによる飲食店の出張なのだ。
そんな出店の中で、一際注目を集める出店は、国内No.1ヒーローであるアルティメイター以上の人だかりが出来ていた。
それその筈、次期世界一位と呼声高いレインボーミカが売り子をしているのだから。
『百道のプリン』一部を除き知名度はそこそこであったその出店に人が押し寄せる。
その殆どがレインボークリス目当てのカメラマンだが、売り上げにも十二分に貢献している。
世界的なヒーロー、レインボークリス。
その能力も然ることながら、その可愛らしい容姿もあり、世界的な人気を誇る。
では、何故そんな世界的なヒーローがプリン屋の売り子をしているのか…
その答えを知る者はあまりにも少ない。
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