第20話 世界一位の娘

 大型連休2日目、僕はゲッソリとしながら店を開けていた。

 昨晩の疲労が残るが、想像以上の来客数で、ツヤツヤとした妻と2人、接客と調理にてんてこ舞いとなり、閉店まで休む暇もなかった。

 

「疲れた…」

 グッタリとソファに倒れる僕。

「夕飯が出来るまで寝ていても構わん。明日も忙しいだろうからな。」

 全く疲れを見せずに、台所に向う神娘。

「ありがとう…」

 そう言うのが限界だった。あっという間に睡魔に負けた僕は、台所から聞こえる音を聞きながら眠りに落ちた。


「それで、この人たちは誰?」

 目覚めた時、見知らぬ金髪の異国の女の子と、同じく異国の茶髪の女性が食卓にいた。



−−−−−−−−−−−−−−−−−



 私は、元世界一位のヒーロー、ワンマンコマンドーの娘、『レインボークリス』こと、クリスティン・メイトリクス。

 『レインボー』のヒーローネームの通り、7つの特殊能力を持つ、スーパーヒーロー候補筆頭のスーパーガール。

 世界最多の複数能力持ちであり、父譲りの身体能力でハイスクールに通う17歳でありながら、世界最高峰のヒーロー超大国である祖国で、既にトップヒーローのランキングに名を連ねている。

 そんな私が、遥かに質で劣る国に留学して学ぶことなどない!!

 そう思っていた。


「食べ過ぎじゃないですか?」

 お付きとして来た父の秘書が私にそう言う。

「私の能力は物凄くカロリーを使うの!!別に好きで食べてるわけじゃないわ!!」

 降り立った空港で、スシに天ぷら、ラーメン、すき焼き、焼肉…空港内の飲食店をはしごしながら食べ続ける私はそう反論する。

「楽しんでますよね?」

 白っとした目を私に向ける秘書。

「た、楽しんでなんかいないわよ!!必要なエネルギー補給ってだけだわ!!」

 3割本当で、7割嘘だ。

 正直、ヒーローとしての留学は一切期待もないし、絶望しかなかったが、旅行としては、凄く行きたかった。

 この国の食べ物は凄い。

 祖国は大好きだし、愛しているが、食事に関してだけはこの国を認めているのだ。

「それに見なさい!!このカロリー!!こんなにカロリーが低いんだから、もっと食べないと足りないわ!!」

 なんせ、美味しくて、(祖国の食事に比べて)凄くヘルシーだから。

「満喫してるじゃないですか…」

 呆れた様に言う秘書も、なんやかんやラーメンを啜っていた。


「次、行くわよ!!」

 空港内の飲食店を制覇する勢いで食べ尽くすクリスティン・メイトリクス。


 7つの能力を持つヒーロー、レインボークリスは、非常に燃費の悪いヒーローであった。






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