第17話 No.1

「これで俺も年貢の納め時か…」

 連行中、そう呟くヴィランは、

「アンタに目をつけられたのが運の尽きだった。」

 そう私に向かって言う。

「しかし、No.1ヒーローに捕まるのなら、悔いは無い。」

 そうどこかスッキリした様子で言うヴィランに、私は思った。


 私は全くスッキリしてないのだが…


 トップヒーローと呼ばれる、英雄的ヒーローの頂点。

 それがNo.1ヒーローである。

 そのNo.1に君臨するヒーロー、『アルティメイター』が私である。

 強化系の能力を持ち、如何なる超能力や特殊能力にも、鍛え上げた肉体と能力による桁違いのパワーで圧倒するパワー系ヒーローなのだ。

 そんな私がヒーローになった理由は1つ。

 

 モテたいからだ。


 私がまだ子供の頃、輝かしいトップヒーローたちは、世間の人気者であり、高所得者であり、何より、女優やアイドル、アナウンサーといった綺麗所と結婚するのが当たり前になっていた。

 それに限らず、女性関係のスキャンダルやゴシップに暇なく。

 ヒーロー=モテる職業だと、私は信じた。(今も信じている)

 

 とにかくモテたい。

 そんな思いで努力を重ね、トップヒーローまで駆け上がり、遂にNo.1になったというのに…

「何故モテないっ!!」

 周りのトップヒーローたちは結婚したり、スキャンダルを起こしたり、ゴシップに取り上げられるのが日常なのに、私には浮いた話1つない。

 

 現在連行中のヴィランでさえ、戦闘前にアジトで恋人とよろしくやっていたのに!!

 そんな現場に突入した私の気も知らずに、吹っ切れた表情をするヴィランが憎かった。

 ヴィランでさえ恋人がいるのに、何故私に言い寄る女性は1人もいないのだろう…


「…あの女はなんだ?」

 裏返りそうな声を必死に抑え、そう質問する。

「あいつは何も知らねぇただの愛人だ。俺はヴィランだが、関係ねぇ女を巻き込むのは不本意だ。捕まえのは勘弁してくれ。」

 恋人ですらなかった…

 え?なに?一夜限りのワンラブ?巫山戯んな!!

 もう、こいつを許す理由は無くなった。

 連行中の事故ということにして始末しよう。

 そう拳を握った。


「あいつのことはアンタに任せる。アンタは本物だ。ヴィランの俺がヒーローのアンタに言うのも変だが、アンタだけは信用出来る。」

 握っていた拳を解いた。

「市民を守るのが私の仕事だ。ヴィランの言葉など関係なく守ってやる。」

 私はワンチャンを狙った。


「何故だ…」

 振られた。

 正確に言えば、アプローチする隙さえ与えられていなかった。

「あの野郎、ぶっ殺してやる…」

 あのヴィランを思い浮かべ、拳を握った。


「アルティメイター!!」

 決意を固めた私の元に、連絡員の協会職員が現れる。

「探しましたよ…なんでこんな田舎に?」

 息を切らしながら問う職員に、空を見ながら答える。

「知らなくてもいいことがある。」

 あわよくば、ワンチャン狙ってました。とは言えるわけがなかった。

「アルティメイター…」

 何かを察した様に呟く職員。

 いや、待て、何故お前はそんな神妙な表情が出来るんだ?

 それじゃあ、何か凄く深い過去を背負った私が、ここで決意を固めたみたいになるじゃん!!


「それで、なんの連絡だ?」

 真実を知られた時、(私が)あまりにもいたたまれない空気になる状況を払うべく、冷静を装ってそう言った。

「その様子ですと、既にご存知とは思いますが、『シャイニングマン』の研修期間をアルティメイターが担当することになりました。」

 なんで知ってる前提なのか分からないし、そもそも、シャイニングマンが分からない。

 私が知っているのは、頻繁に顔を合わせる女性ヒーローと、アイドルヒーローだけだ。

 そんな私の心中など知らず、職員は荒野を見つめる。

「思うところはあるでしょう。この地で起こったあの決戦を1人で終わらせたあの女の息子ですからね…」

 何故か訳知り顔で言う職員。

 そういや、そうだったね、ここ…

「シャイニングマンの情報をくれ。…詳しくな。」

 ボロが出ない様に入念に調べておこう。

 主に、シャイニングマンに可愛い姉がいないかを!!


 アルティメイターは出会いを求めていた。



−−−−−−−−−−−−−−−−−



「光お兄ちゃん、何見てるの?」

 寝転がり、通知の届いたデバイスを見ていた俺の横に、可愛い妹、氷華が眠そうな目で来る。

「協会からの連絡だ。研修先が決まったんだよ。」

 連休明けから始まる研修。その担当ヒーローが決まったという連絡だ。

「アルティメイターが担当ってことは、お兄ちゃんは将来のNo.1ヒーローだぜ。」

「誰?」

 妹に褒められたい。そう思って言ったが、氷華はアルティメイターを知らなかった。

「No.1ヒーロー、アルティメイターだ。一番強いヒーローだよ。」

 そう言った俺に、氷華は眠そうな目を擦りながら聞く。

「ママとどっちが強いの?」

 

「よーし、氷華。もう寝る時間だ。いい子は布団に入ろうな。」

 何も答えずに、氷華を誘導する。

「…まだ眠くない…氷華小学生だから…」

 そう言いながらも、既に舟を漕いでいる氷華を抱えて布団に寝かせる。

「眠くないもん…」

 そう意地を張る氷華だったが、毛布を被せると、直ぐに寝息を立て始めた。


 世界一可愛い妹の世界一可愛い寝顔を見ながら、俺は思った。


「家にいる方が研修になるんじゃねぇの?」


 劣化版神娘と呼ばれるNo.1ヒーロー、アルティメイター。

 彼が不憫でならなかった。







 

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