第5話 悟られる訳にはいかない

『君に恋してしまったから仕方がない』略して君恋のエンディングはバッドエンド、ハッピーエンド、ノーマルエンドその全てを合わせると三百種類、その内十五のエンディングでわたくしは彼女達に殺されたのである。


 それは即ち現時点で単純計算で五パーセントは回避できた事になるのだから………と思いたい。


 ちなみに殺される原因は普段から彼女達を虐めていたからであり、その描写シーンであったのが昨日の出来事なのである。


「おはよう、ウル、メイ」


 彼女達奴隷はわたくしがお母様に駄々をコネて買って頂いたペットである。


 もちろん今ではペットだなんて思える訳もないのだが、それよりもわたくしは彼女達に最初の任務をお願いするのであった。


 そう、あのシーンの翌日あるイベントによる死亡フラグをへし折る為に。


 そんな感じで三人でミーティングをしていた時、扉から乾いたノック音が三回鳴る。


「お入りなさい」

「おはようございますお嬢様」


 わたくしが入室を許可すると一人のメイドがわたくしの部屋に入って来た。


 当然わたくしはメイドの挨拶など無視なのだが挨拶に挨拶を返さないのは心が痛む。


 そしていつも通りメイドにより支度して頂きわたくしは朝食を取りに行く。


 今日も髪の毛で出来た金色のドリルは健在である。


「おはようございますフランさん」

「おはようございますお母様。 そしてお父様、お兄様もおはようございます」

「ああ」

「うむ」


 そしていつも通り家族の団欒が始まる。


 なんと気持ちの悪い空間であろうか。


 喋る内容はまさに貴族至上主義そのもの。


 貴族、特にその中でも上の者達は褒め称えその他の人達は扱き下ろす。


 そしてそれを当然であると喋る家族も、それに同調する自分も気持ちが悪くて仕方がない。


 しかし、今わたくしの前世の記憶が蘇った影響で貴族至上主義ではなくなった事を悟られる訳にはいかない為必至に今までの自分を演じきるしかない。


「あら、フランさん。 ご飯をあまり食べてないようですけど体調の方は大丈夫ですの? 今日は高等部初日ですが無理そうなら休んでもよろしいのよ?」

「いえ、大丈夫ですわお母様。 お気遣いありがとうございます」

「そう? それなら良いのですけど………もし具合が悪くなったら直ぐに人に話して帰宅して来るのよ?」

「はいお母様」


 貴方達の会話が気持ち悪くて食事が喉を通らないのであると叫びそうになるのをぐっと堪える。


 今楯突いた所で勝ち目が無いことくらい否が応でも理解している。


「それではお母様、お父様、行ってきます」


 あれから家族に怪しまれることも無く食事は終わり、わたくしは待機していたドミナリア家の財を施された馬車に乗り学園へ向かうのであった。

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