されど、紙の月

独自のリアルな世界観で繰り広げられる探偵物語。SF作品でありながら、AIと人間の違いは何かという問いを投げかける良作だと思いました。

これぞまさにSF、という一作。
今作、前作、そしてもう一度今作と読ませていただきましたが、この文字数にも関わらずどちらの作品も、読了感も読み応えも満点です。キャラクターも魅力的だし、中盤にかけてさらに謎が深まっていくストーリー展開は見事でした。
読み解いていくと小さな事象にも論理と根拠が隠されていたり、ネーミングひとつをとっても趣向が凝らされていたり、隅々までたのしめる。「なんとなく」で描かれた作品ではないからこそ、読者はこの世界観に没入できます。

SF作品はあらゆる未来が想定される。
本作品はメタバースやAIを中心としたシリーズ作品で、前作を知らなくても楽しめる短編としてお薦めしたい。
AIやアンドロイド、SF的な設定はもちろんだが、印象に残るのは独特な雰囲気だ。
ハードボイルド作品としての側面を巧みに演出し、作中に流れるそれは実に味わい深い。
SF作品、あるいはハードボイルドな世界観。
付け加えるなら、想定される未来の一つとしての悲哀も描かれている。
ドラマ性も高く、あらゆる読者にお薦めしたい一作になります。

物語はロボットと人間との相違が強く印象づけられる書き出しから始まります。
AIに心はあると思いますか？

何が起こるのか、ここからどうなるのか。読者が続きが欲しくなるような引き方がとても上手く、気が付けばすっと読み切っておりました。
お洒落というよりも洒落た文体。洒落てはいるけれど読みやすい。
構成、文章力、キャラクター。どれをとっても魅力的でした。
今作から読み始めたのですが、前作の方も後ほど読ませて頂きたいなと思います。
シリーズ物のようですので、続編にも期待です！

世界にムーブメントを起こすAI音楽家「MOON」。「彼女」は新曲を発表した直後、謎の失踪を遂げる。主人公の探偵はその捜索を請け負う――。
読了後まず思ったのは、なんて今日的な題材なんだろうということでした。AIを巡る話題や論議が世間を騒がす昨今。その只中で生きる私たちにはこの物語の冒頭は、すぐそこにある未来だと感じ取れるでしょう。そのリアリティにやられます。
そしてちょっと懐かしいハードボイルド風味のストーリーを追っていけば、これはAIのものがたりであると同時に、人間のものがたりであると気付かされます。人間は、なにを持って人間たり得るのか。そのひとつの答えをきちんと示しているところも目から鱗…続きを読む

　SFハードボイルドシリーズ＜８８２３＞シリーズ第２弾！全４話完結済みの短編です。
　バーチャルクライム専門の探偵８８２３（ハヤブサ）の今回の仕事は、人気の絶頂で失踪したＡＩ音楽家「MOON」の捜索です。

　人に酷使され、ＡＩ同士ですら傷つけ合う。そんな人工知能たちの苦しみや葛藤を歌うMOONは、実在するエピソードまつわるメッセージ色の強い楽曲を発表して人気を博し、ＡＩにも情動があると証明したと評判を呼びますが、ある日を境に失踪し、その謎を追うが８８２３というのがこの物語のイントロ。

　数多のSF作品において語られてきた「人工知能に心はあるのか」「心と思っているそれは単なるプログラムでは…続きを読む