錬金術に変わるものを作りましてよ

「ねえ、ラヴォアジエさん。あなたは錬金術師ですのよね?」



 そう私が確認を取るように言うと「は、はぃ」と自信があるのか無いのか分からないトーンで返されました。

うーん。このようなタイプはと言えば。

本当に自信が無いのか。

はたまた、本当にやってのけるのか。

どちらかであると、私は考えていましてよ。

しかし、まあ。

あからさまな、如何に錬金術師ですと言う格好。



「改めて言うとするか。私はオルレアン領の領主、マドレーヌ・オルレアンって言うんだ。それでお前はラヴォアジエ、で良いんだな?」

「え、は、はぃ!錬金術師です!れっきとした錬金術師ですぅ!しょ、証拠もあります!これです!」



 金属の王国の紋章と4大魔素が刻み込まれたメダル。

これは、国家公認錬金術師であると言う証。

4大魔素と言うのは、火と水と風、土の事ですわ。

錬金術師はそれらの属性を駆使し、混ぜ合わせて生成する職業。

片方だけでは無く、最低でも2つ以上の魔素を使いこなすのが必須です。

しかし、彼女は錬金術を用いずに錬金術を使うそうですわ。



「ラヴォアジエさん。まさか、蒸気を水に変える……なんてありきたりな事を見せるのは無しですわよ?」

「き、機材を!機材を使っても良いでしょうかぁ!?」

「良くってよ」



 ここでマドレーヌが耳打ち。



「アンネ。大丈夫なのか?相手はもしかすると爆弾なんて使うかもしれないんだぞ」

「その時のためのあなたとあなたの衛兵ですわ」



 さて。何を見せて下るのかしら。

魔法に似た幻覚物質を燃やして見せますの?

または爆発させますの?

もしかして、無から何かを生み出すのかしら?

ラファが剣を手にかけています。

シャルもいつでも出られる準備をしてますわ。



「で、出来ましたぁ!ではでは。お見せしますね!」



 怪しげな3つ金属製の変な機材。

どうやら、閉じ込めるような容器ですわね。

それがどうしたのかしら?



「で、では!空気を使わず、空気と同じ量よりも燃えるものをみしぇ、見せましゅ!!」

「水の用意を!」



 あら。マドレーヌが慌てて用意させていますわね。

これでは落ちついて見れないじゃないですか。

屋敷が燃えても、大丈夫。

しばらくは露天が私たちを包み込んでくれますわ。

ですが。



(へえ。使ですか)



 それを聞いた時。

凄く凄く!

惹かれました。

空気より燃えるもの?

その様なものは何かしらを介さなければ、できません。

それが私たちの常識ですから。



「おいおい。馬鹿にしてるのか?」

「し、してません!あるんです!あるんですよぉ!」

「では見せてくださる?その空気より燃えるものとやらを」



 それを聞いて、マドレーヌは「はぁ!?」と素っ頓狂な声が響く。

はしたなくてよ?

それを聞いたラヴォアジエさんは慌てているようです。

落ち着きなさい。



「まずは、この水銀の灰を入れます!」

「その前に、装置や金属に魔素の反応があるか確かめてくださる?」

「承知いたしました。失礼致します、ラヴォアジエ様」



 ジョブを持つ者は魔力を感じるひいては魔力を感じることが出来ます。

まあ、これはシャルにしかできない事ですが。

大抵はそのような装置を使います。

あまり精度は良くありませんけどね。



「大丈夫です、アンネ様」

「ありがとう。さて、始めてくださいませ」



 そう言うと、彼女は灰を入れると火をつけて燃やし始めました。

燃えていきます。

金属が燃えていきます。

ええ。暖炉よりも早く燃えていきます。

それを袋に集めています。

しばらくすると、燃え尽きました。



「では!も、燃やします!」



そう言うと、集めた空気より燃えるものに、火を近づける。



「い、勢いよく燃えたぞ!?」

「ど、どうでしょうか!?領主様!わ、私を雇ってくださいますか!?」



 へえ。

なるほど。なるほど。

空気より燃えました。

しかも、物質に残った蒸気だけで。

蒸気の多くは臭いがします。

独特の刺激的な臭いが。

ですが、これはしません。



「ねえ、それまだ残っていますか?」

「た、多分」

「では、それを嗅がせて下さってもよろしくて?」



 そう言い、ラヴォアジエさんから袋を受ける。



「お嬢様!?危険です!」

「おいアンネ!?何してんだよ!」


 

 思い切りそれを吸う。

予想通りならば。それは毒でもないはず。

心配そうに見つめないでくださいまし。



「無害です。吐き気も何もありません」

「ひ、冷えましたよぉ~」



 ラヴォアジエさんの力は本物みたいです。

彼女が欲しいですわ!

今すぐにでも!手元に置いておきたい!



「マドレーヌ。彼女を雇いましょう。かなり面白い方ですわ」

「危なっかしい奴だろ。いきなり燃やすなんてよ!……けど、面白いと思ったのは私も同じだ」

「で、では!」

「ああよろしくな!」

「ええ、よろしくお願いいたしますわ。ラヴォアジエさん……いえ、ラグランジュ」



 そう言うとラヴォアジエ……いえ、ラグランジュは先ほどの自信が無い表情からはじけるような笑顔に変わりました。

ふふ。中々可愛いですわね。




――ナロウ歴1785年 4月26日 昼頃

ラグランジュ・ラヴォアジエが正式雇用される。

この時に行った実験で発生した物質は『酸素』と呼ばれるようになる。

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