追放された方って本当に居ましたのね

「薬が……ヤクが足りない……」

「申し訳ありませんけど、危ないオクスリはダメですわ」

「モルヒネもダメでありますか」

「ギリギリ適応ですわね」



 薬品。

それは魔法の世界では、あまり重宝されません。

薬草さえあればどうにかなる。

もしくは回復術が使える方が居れば良い。

ですが、それはあまりにもいけません。

使えるのは僅か。しかも回復量も性質も様々ですわ。

薬草は使えなくもありませんけど、その分知識がいります。

ですが、気休め程度。

せいぜい擦り傷が治る程度です。

高度な医療?

それは回復術師に頼むことですわ。

人体の仕組みもわからない世界です。

一度人体を解剖したとされる禁書を読みましたけど、すごかったですわ。

人間はこのようになっているのですね。

動物や魔物とも共通する部分もありましたわ。

不思議な事もありますわね。



「へえ、錬金術師が追放か。最近多いな」

「そうですわね」



 まさか現実でナロー系小説な事が起きるとは思いもしませんでした。

追放された側は大抵「ざまあ」すると決まっています。

現実では、そんなことありませんけどね。

似たような本も多くありますから、今度マドレーヌやラファにも読ませましょう。



「騎士団や冒険者……不況ですわね」

「冒険者は特に多いな、入れ替わりも激しいから仕方ないけど」

「ある程度仕事は回しているつもりですわ。いっそ魔物の群れでも出ないかしらね、マドレーヌ?」

「それなら魔王様にでも頼むんだな。私はお断りだ」



 ふと思うのは。私、医療も錬金術の知識はありますが、錬金術は使えません。

使える方を呼べればうれしいのですが。

そうすればもっと豊かに、病に怯える事も少なくなりますわ。



「ねえ、マドレーヌ。あなた、錬金術の知識はありまして?」

「それは王国のお偉いさんの仕事じゃないのか。ほとんどはそこからだしよ」



 確かに、私たちが今日使う技術のほとんどは錬金術です。

錬金術とは石を金に変えるだけでなく、水を別のものに変えるなど摩訶不思議な方法で性質を変えてしまう術ですわ。

人があまりにも少ないので、生成された薬品はとても高価で、家が買えるくらいの値段のもあるそうです。



「良いよな、錬金術。石から金を錬成して売っぱらえば私ら一生贅沢出来るぞ!」



 確かにそうかもしれません。

ですが。

一部の錬金術の中にはそれらを用いらずとも再現できるものもあるのです。

水が冷えると氷になるように。

熱すれば湯気が出るように。

それと同じ現象が起きることがありましてよ?



「マドレーヌ様、失礼します。門を叩く者がいますが如何いたしましょう?追い出しますか?」

「そいつは何か言っているか?」

「自称錬金術師だと」



 まあ!いいタイミング!

これは見ものですわね。

もしかしたら。

新聞を見る。

追放された者の名は。



「わ、私ぃ!ラグランジュ・ラヴォアジエ!って!言います!」



 へえ。どこかで聞いたことありますわね。

錬金術が使えない錬金術師の名のはずです。

でしたら。



「ねえ。追い出す前に少しよろしくて?」

「おい、お前まさか」

「そのまさかですわ。彼女が錬金術師か確かめましょう」



 だって、彼女は魔法を使わずに錬金術が使えるのですから。

いざとなれば、シャルとラファ、衛兵の皆様で対処しましょう。



――ナロウ歴1785年 4月26日

錬金術師である、ラグランジュ・ラヴォアジエがオルレアン領主の屋敷を尋ねる。

後に錬金術体系を法則や方法を守れば使える現代でも基礎となる法則や方法を多く考案。

『近代科学の母』と呼ばれる様になる。

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