完璧で可憐な令嬢と言えば私ですわ!
「お嬢様、農場が完成しましたが、様子は如何でしょうか」
「取っても良くってよ。オルレアンの皆様にお手紙をお送りしましたわ」
立派な農場が出来て、活気が出てきました。
ウシやブタ……あら、ニワトリも居ますのね。
ヒヨコがピヨピヨと鳴くのも、母親に着いていく姿も可愛らしいですわ。
ブドウの木も苗木ではありますけど、これからしっかりと育っていくでしょう。
しばらくは家畜で稼ぐしかありませんわね。
ワインはそのあとです。
「農場にするとは、中々だな。チーズもそうだが、やっぱチーズと言えばワインだしね」
「これでワインも近い将来飲み放題ですわよ?マドレーヌ」
「酒は士気が上がりますゆえ、ぜひ欲しいところではあります」
「生真面目なお前が言うとは珍しい、飲めるんだな」
「それは下士官や兵士に振舞うものだ。もちろん、自分は手を出していません。アンネ殿」
まあ、私と殆ど同い年ですからね。
私もいたずら心で飲んだことありますけど、少しクラっと来ましたわ。
ですが、シャルはお酒が強いみたいです。
どの程度かは分かりませんけどね。
「少しだけ出かけてもよろしいかしら?」
「いつものか。執務くらいしておくさ。これが終わったらカルディナルで一杯飲んでくる。行くか?」
「ええ。是非」
彼女は月に2、3度カルディナルへ遊びに行くそうです。
実際はもっとなのでしょうけどね。
たまに香水やタバコ、酒が混じった臭いがしますから。
意外と自由人ですわね。
さて。その間どう過ごしましょう。
オルレアンを見て回るのも良いかもしれませんわ。
今回は都市部を見ましょう。
前の時は悲惨な状態でしたから。
さあ、馬車を出しましょうか。
シャルと共に私は都市部へと向かう。
揺れも心地よいですわね。
それとも、シャルが操るのもあるからでしょうか。
だいぶ復興が進んできましたわね。
かつて見た景色はありますけど、活気があって素敵ですわね。
農村部と違う活気です。
忙しないのは変わりませんけど、人の動きがとても激しいですわ。
馬車が進んでいく。
「あんたが噂の人か?」
おお、第一市民発見。ではなく、遭遇ですわね。
他の方と比べると少し良い服です。
しかし、何の用でしょう?
握手かしら?
「だとしたら?」
「ああ、領主様に言って欲しいんだ。『資材をもう少しくれ』って」
さて。
ここで返すべき言葉は。
「ええ。もちろん。お伝えいたします。そういえば。少し聞いても」
「なんです?」
「生活はどうです?」
「まあ、食えない日は減りましたね。後は衣料品とか薬とかって所です」
医療は回復術が使える方が行うものです。
ですが、高額なので多くの方々は薬でどうにかしています。
しかし、効くのもそうでないものもあるそうですわ。
療法もそれぞれ違うそうです。
医学の知識はありますが、知識だけ。
この時にはこの方法、と言われても戸惑うでしょう。
私の医療よりも民間の治るかも怪しい方法の方が有効と皆様考えていますから。
「ありがとう。確かにお送りしますわ。それではごきげんよう」
馬車が出る。
私たちは屋敷へと戻る。
考えたことと言えば、多くあります。
食料。生活。治安。医療。軍事。
様々です。
民はとても素晴らしい方々ばかり。
中にはあまりよろしくない方も居ますけど、それも個性です。
しっかりと決めて、何が欲しい。アレをして欲しい。
それを考える方。伝える方や実際に行う方。
まるで王族や貴族と変わりません。
だからこそ、思う事があります。
「ねえ、シャル」
「何でしょうか」
「王族の、王が支配する時代は終わると思う?」
「どうでしょう。少なくとも似たようなものは出るかと」
ああ。
そうか。
シャルも同じことを考えていた。
きっと他の多くの身分も性も出自も関係ない方もそう考えている者も少なくないでしょう。
だからこそ。
「シャル、私は国を変えます。きっと死ぬ思いも沢山するでしょう」
「本気ですか」
「本気よ」
「でしたら、それを見届けるまでです」
だからこそ、私は。
ナロー系小説に出るような悪役令嬢になる。
しかし、ただの悪役令嬢ではない。
誰よりも。
傲慢で。
不遜で。
我儘で。
身勝手で。
冷酷で。
残酷で。
そんな悪役令嬢。
いえ。
それよりも恐ろしい者になりましょう。
いつでも誰にでも。
だって私は。
私は常に完璧で可憐な令嬢ですから。
「おっほほほほほほ!」
この高笑いは宣誓の様なものですわ。
そう。
今から私は誰よりもどんな物語よりも恐ろしい悪役令嬢になりましてよ?
――ナロウ歴1785年 4月20日
屋敷内に謎の声が響く。
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