ヤン・デレ子
下駄箱で靴を履き替え、教室に向かう。
いつものルートで教室に向かい、
いつもの女と偶然を装った必然でドンっとぶつかられる。
…新手の当たり屋だ。
ハーイ、ミスター!アナタノ身体ノ悩ミヲ解決シテアゲマース!
とでも言って白髪の波平カットに牛乳瓶の眼鏡、白衣を着て登場し、
人体実験の勧誘でもされれば、多少はテンションが上がるのだが。
「あ……玉城(おれ)くん、おはよう……今日はいつもより36秒遅かったね。
私、心配になっちゃって…会いたくて、会いたくて…震えてたの。」
ギリギリ聞き取れるくらいの小声でモジモジしながら話をする。
一見すると奥ゆかしさの感じられる清楚美人に見えるが、中身は…。
「ああ、おはよう。ヤン・デレ子さん、今日は機嫌が良さそうで何よりだよ。
もう鼻からタバスコは絶対に飲まないからね。」
俺が返答をするや否や、デレ子は目をカッと見開き俺に近寄ってきた。
「え……………なんで!?なんで急にそんなこと言うの!?
私何か悪いことした?悪いことしたなら、言って!謝るから!捨てないで!!
お願い!!!」
今度は急に音量を上げすぎたマイクみたいにボリュームが爆音になる。
なんというか…感情の起伏が激しいタイプだ。
「いや、そういうことではないんだ。単に鼻からタバスコを飲んでから1週間ほど、
ジャッキーチェンみたいなデカッ鼻になってしまて、
その間チャイナ服を着なければならないはめになってしまってな。」
「なんだ、そうですか……安心しました。
でも……その…チャイナ服とっても似合ってましたよ♪」
ニコッと笑った顔はとてもチャーミングなのだが、
何故だろう…若干の恐怖を感じるのは。
「チャイナ服姿で君に会った覚えはないのだが…」
「うふふ、細かいことは気にしないでください♪」
デレ子の発言からはいつも謎の圧を感じる。
俺もまだまだ研鑽が足りない…のだろうか、あまり長話をしたいタイプでは無い。
「うふふ…玉城君…私のこと、好きですか?」
頬を赤らめながら、上目遣いで俺を見る。
「………。」
ここからが勝負どころだ。
下手を打つと今度はハバネロを肛門にぶち込まれることになるかもしれん。
「…同じ部活動で研究を共にする…とても大切な…人だ。」
一つ一つ丁寧に言葉を選ぶ。語弊が無いように、勘違いが無いように。
間違っても、好きとか嫌いという単語は避けなればならない…
「うふ♪そんなあ、照れちゃいます。どんなところが好きですか?」
「…君はとても美人だ…スタイルも良いし、勉強もできるだろう?
この前の中間試験なんかは俺に次ぐ2位だったじゃないか。素晴らしい…」
「あとは?」
「あと…?」
「あとは?それだけ?」
「………。」
「性格は?」
「………。」
「私のことが好きなら(※注、一度もそんなこと言ってません。)
性格のことだって褒めるよね!普通!!」
「いや………君の性格は、その…とてもジェットコースターみたいで、
面白いよ…」
「ジェットコースター?」
「あ…いや。」
「…へえ、ジェットコースター好きなんだ。」
「いや…」
冷汗が出てきた…だれか助けてくれ。
「私の性格が好きってことは、
それを表現したジェットコースターも好きってことだよね!
そいうことだよね!?」
「いや、まあ、そう言えなくもない…か?…ははっ?」
顔を引きつらせながら笑って誤魔化す。
「え○じゃないか連続100回乗ってきて。」
笑っているのに、無表情で無機質に話すデレ子…
このカオスな空間に他の生徒諸君は気おされ、廊下であるにも関わらず、
俺たちの半径10m以内には誰も近寄らないブラックホールが生まれていた。
「あ、心配しないで♪私がずっと見ててあげるから♪1人じゃないですよ。」
「…いや、乗りたいのは山々だが…そもそも高所恐怖症で…」
「ジェットコースター好きですよね?」
「いや…見るのは…な、ははっ。」
「好きですよね?」
「………好きです…あ!いや、ただ最近忙しくてな…、
行く時間が作れそうもないなー…なんて。はははっ。」
「なるほど…確かにお忙しい身ですよね、それはもちろん知っています。なら…」
おもむろにスマホを取り出し、どこかに電話を掛けているデレ子。
…嫌な予感しかしない。
「富○急ハイランド貸切りました。今からヘリで行きます。」
「は!?」
「行って帰って2時間。一周約3分を掛けることの100回で300分、
半日あれば十分です。」
「バカなことを言うな!今から授業だぞ!」
「公認欠席を取りました。問題ありません。」
どのようにして…?
聞こうと思ったが様々な意味を含めて恐怖で…聞くことができなかった。
「………。」
「玉城君。…逃がしませんよ?」
「…ちなみに断ったら?」
デレ子が俺に耳打ちする、…どうやら俺の尻は4つに割れてしまうらしい。
「行こうか!」
俺は血の涙を流しながら笑った。
…その後ヘリで連れていかれ、到着と同時にえ○じゃないかに乗せられ、
ノンストップで100週した。
100周したとは言ったが、おれにその記憶は無い。
もともと、高所恐怖症の俺だ。早い段階で気を失ってしまい記憶がない。
意識が戻るとまたヘリに乗っていて、彼女の様子を見て乗り切ったのだと理解した。
「ああ、感じる!愛を!愛されてる…嬉しい、嬉しいわ、玉城君。
やっぱり、あなたじゃなきゃダメ!」
「………。」
膝枕されているのに、まったく嬉しくない…。
この何時間かは生物の区分で言うと、人間よりも鳥類に近かったのではないだろか。
俺は再び意識を失った。
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