第32話 情報開示①

「まず最初にどうしてここの場所が分かった? それに足元にある袋は何だ?」

 俺の言葉に琴音は袋を手に持ち、中身を見せながら答えた。


「包帯とか消毒液に。おにぎりとか軽食な物です」


 包帯? そういえばさっきから体に、何か巻かれているな。

 自分の体を見渡すと、全身に包帯が巻かれており、血が滲んでいた。

 琴音が俺の体に、巻き付けられている包帯を見て、少し悲しそうな表情をしている。

 すぐさまに袋の中の包帯を取り出し、俺に近寄ってくる。

 俺は手を前に出しジェスチャーで、静止をしたが。

 琴音は止まる事なく俺の下に近寄る。

 巻かれている包帯を外し、新しい包帯を、慣れた手付きで俺の体に巻き付ける。


「慣れた手付きだな」


 俺は思わず琴音に言う。

 琴音はそれを聞いて、少し複雑そうな顔をしていた。

 何かまずったか? と思っていると琴音は淡々と、話し始めた。


「別に慣れている訳ではないです。先輩は覚えてないだけで、私、結構こうやって先輩の手当てをしてたんであすよー」


 琴音は少し悲しげな笑顔を見せる。

 琴音の言葉に俺は一つも、ピンとはこなかった。

 どうやら俺自身は、生前の記憶を完全に覚えていない。

 いや──一部の記憶を封印しているだけか。

 今、そんな事を考えても意味ないか。

 琴音は集中して包帯を巻き、胸の辺りまで包帯を巻く。と、琴音はニコッと笑顔見せ、少し離れ、おにぎりを渡してくる。

 俺はおにぎりを受け取り食べる。

 直後、笑い声が聞こえ、声が聞こえる方に視線を向ける。


「何だよ」

「いや怪しむ事もなく食べるんだなと思って」


 怪しむ? 確かに俺は何も考えずに口に入れた。

 琴音ならば大丈夫だと思ったから、俺は素直におにぎりを食べた。

 そのまま何も考えずに食べ、口の中になくなるのが分かると同時に、フゥーと息を吐く。


「荷物に付いては分かった。どうしてこの場所が分かった?」

「一発では分かってないですよ! 先輩がいそうな場所を虱潰しをしたんです」


 琴音は少し怒り気味で、頬を膨らましている。


「何だふて腐れているのか?」

「もう少し気の利いた事を言えないんですか?」

「俺が言えるとでも?」

「そんなじゃモテないですよ」


 ほっとけと内心で思いながら、咳払いをし、そろそろ本題に入ろうとする。


「約束通り、先輩が聞きたい情報を言って下さい」


 いざ言って下さいと、言われると困るな。

 まずは俺の生前の記憶と魔王についてだ。


「琴音はどうして、今の俺を見てレイと分かった? それに破滅に導く魔王とは一体何だ?」

「一つずつ教えますね」


 琴音は俺とは反対に冷静だった。

 まずは何から答えるか、考え中の様に感じ取れた。

 実際はどうかなんて分からない。

 やがて琴音は口を開く。


「私と多分、黒嶺だけはレイ先輩の記憶を持っています。先輩も多分気づいてると思いますが、先輩の存在は消えています」

「俺だけじゃなくて家族もだろう?」

「そうですね。ある時、先輩は消えそれと同時に、まるで最初から存在が消えている感じでした」


 琴音は淡々と語ってくれている。

 その中で俺は疑問しか浮かばない。

  ある時を境に俺の存在はこの世界から消えた。

 それなのに何故、琴音は認識できている? 黒嶺の場合。

 多少は分かる。

 俺は疑問に思って胃る事を琴音にぶつける。


「琴音からすれば俺はいつ消えた? 俺の認識では約二十年前に俺は死んだ。それなのに琴音は姿がまるで変わっていない」


 俺の言葉を聞いて、琴音は動揺とした。

 琴音の体だ小刻みに震えている。

 まるで壊れた目覚まし時計が、音を鳴らしている様だった。


「先輩が消えたのは三ヶ月前の事ですよ!」


 その言葉に次は俺が動揺をする。

 一体どういう事だ? 俺は最低でも死んで、異世界に転生してから十七年は経っている。

 それなのに──もし琴音の言葉通りならば、俺と琴音達では時間軸が違う。

 そんな事はありえるのか?


「俺はクロムとして転生してから、十七年経った。異世界で過ごしている中、ずっと復讐の事を考えていた」

「やっぱり先輩や黒嶺の人間離れした力。それは異世界の物何ですね、少し納得ができました」


 琴音は顔を下に向けている。

 俺は掛ける言葉がなく、琴音の方を見る事しかできない。

 俺と琴音の間に沈黙が生まれる。

 その沈黙はすぐ破れた。


「俺はレイの時とは姿、形も違う。それなのに何故認識をできた?」

「信じられないかもしれないですけど、私も先輩達、同様に特殊な力を持っています」

「それは俺を魔王と言った時の攻撃もか?」


 琴音は黙る。

 バツが悪そうに顔を曇らせている。

 今の今まで、あの時の攻撃を忘れていた。

 気にする必要もないと思っていたが、琴音との会話で腑と思い出した。

 一拍を置く事もなく、言葉にしていた。

 琴音の様子から、あの攻撃をしたのは琴音で確定だろう。

 だが、別に今それを問い詰める必要はない。


「それで琴音の特殊な力は何だ?」

「え? 怒らないんですか?」

「別にその必要がないからな」

「と、言われても私もちゃんと、分かってないんですよね。ただ先輩は分かるんですよ」


 本当かよと内心で思い──琴音に言おうとしたが、やめた。

 多分、琴音が言っている特殊な力。

 それは魔法ではなく……異能だと思う。

 二つなのかそれとも一つか。

 攻撃の異能か探知の異能。

 一番有力なのは探知だろう。


「俺を認識できているのは、まだ不可解な点があるが、話しを進めよう。次は魔王に付いて教えてくれ」

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