第19話 いずれ魔王と呼ばれる

「あ、あ? い、一体何が起きてる?」

「起きたかセルピコ」


 俺の言葉にセルピコは雄叫びを、上げながら立ち上がり、大剣を振り回そうとしてくる。

 大剣の為、隙が大きい──攻撃を。

 と、思ったが俺の体は上手く動かなかった。

 どうやら擬似魔法の疲労感が、俺が思っていた以上に合った。

 鉛の様に重い体を動かし、左の拳を振り切る。

 セルピコの顔面を捉えるが、一切のダメージを感じていない様子。

 感覚的に手打ちか、すぐさまに次の行動をしないと、反撃を貰ってしまう。

 セルピコは大剣を振り下ろす。

 次の瞬間、ドーンと轟音が鳴り響く。


「あの状態で避けたか」

「フゥ、流石にヒヤッとした」


 俺はセルピコの斬撃を、紙一重で躱す。

 大剣は地面に深く突き刺さっている。

 セルピコはそのまま、大剣を切り返し、振ってくる。

 斬撃が届く寸前に、大剣の付け根に蹴りを合わせ防ぐ。

 だが、このままだと俺の足が斬られる。

 普段はならば断然俺の方が力が強い。

 しかし、擬似魔法での疲労感により、上手く力を出せない、

 セルピコは力技で大剣を斬り上げる。

 身を翻し斬撃を避ける。

 だが、俺は体勢が、崩れてしまい尻餅をつく。

 くそ、早く立ち上がらないと、セルピコの追撃がくる。

 と思い、身構えたその時!


「その前に邪魔なそっちの女からやる!」


 セルピコが俺ではなく、少女に向かって大剣を振り下ろす。

 やばい! このままでは少女がやられる。

 いくら俺のコートを、着ているとはいえ、セルピコの一振りを、喰らったら一溜りもない。

 一体どうする? 今、立ち上がり向かっても間に合わない。

 再び擬似魔法を使うか? いや次使ったら疲労感で倒れる。

 だとしたらこれしかない! 俺は右手に握ってる刃物を投げる。

 セルピコはそれに気付き、刃物を一振りで弾き返した。

 一瞬だが、隙が生まれ、次の攻撃をするモーションが遅れる。

 最短で距離を詰め、円を描く様に蹴る。

 セルピコが俺の攻撃に、気付いた時には遅し、俺の蹴りはセルピコの顔面を捉えた。

 そのまま蹴り抜く。

 これで勝ったと思った時、横から魔法陣が展開され、光輪が現れる。

 これはリズの得意魔法。

 セルピコに攻撃を意識し過ぎた為、リズが魔法陣を、展開している事に気付けなかった。

 このままでは直撃してしまう。

 だからといって避ける事もできない。


「ならばこうする!」


 光輪から光のエネルギーが、放たれろうとした。

 その瞬間に右の拳を突き差す。

 突き差した右手が燃える様に熱い。

 だが、これくらいで負けていれない。

 右の拳で光輪事、魔法陣を破壊する。


「普通魔法陣を壊す!?」


 リズは面を食らっていた。

 俺でも驚きだよ。

 素手で魔法陣を壊すのはな。

 あの刃物があれば、もっと簡単に魔法陣すらも壊せる。

 ──少女を守る為に、刃物を投擲したから素手しかない。

 後ですぐに刃物を、回収して応戦をする。

 三勇傑と呼ばれた勇者を、二人相手に素手は流石に分が悪い。

 休む暇が一切ない──疲労感が溜まる一方だ。

 それに比べて二人は無傷に近い! それにこのまま少女を、守りながの戦いが長引く程。

 俺が不利になる。

 一体どうやって早く方を付ける? 俺は引き出しが多くはない。

 なるべく奥の手は使いたくない。


「くそテロリストが!」


 パージの男が雄叫びを上げる。

 威勢のいい奴だなと思った。

 次の刹那、強力な電撃の一撃が飛んでくる。

 再び右で拳を作り、電撃に合わせ相殺する。

 電撃を相殺する事は簡単にできる。

 だが、多少のダメージはくる。


「くそくそ! ぶ、ぶっ殺してやる!」

「あのガキ、完全に我を忘れていやがる」

「だから魔素を貸し渡すの反対したのよ」

「本当てめぇら余計な事しやがって」


 俺は二人に呆れながら言った。

 それにしてもセルピコの奴、頑丈にも程があるぞ。

 俺の蹴りが見事に命中した癖に、平気な顔をして立っている。

 男は再び雄叫びを上げる。


「ぶっ殺す! 電磁砲レールガン

「あのガキ! 俺らを巻き込む気か!」

「クロムを道連れならばいいかもしれない」

「え? 本気?」


 リズの言葉にセルピコは、驚愕していた。


「どうでもいい事を、喋ってるんじゃねぇよ」


 電磁砲レールガンか、生前、この世界で生きていた時に、本で見た事がある単語。

 火薬を使わずに、電磁力の原理で弾を撃つ。

 それをあの砲台で撃つのか。

 ただ、原理は電磁力から──魔素に変換されて、放たれる。

 一撃必殺の魔法と、捉えてもいいだろう。

 異世界人と現代人の合わせ持った力。

 考えれば余計に苛つく。

 セルピコ達を睨みつける。


「おいクロム、俺らを睨む前に目の前」


 セルピコの言葉を聞き、前を見ると、電撃の塊が飛んでくる。


「チッめんどくせぇな!」


 俺は腰を捻り、全体重を乗せ拳を振う。

 電撃の塊と俺の拳が激突する。

 なに? 全く消える気配がない。

 何ならば俺が推されている! 拳──いや体が後方に下がっていく。

 このままだと電撃に飲み込まれる。

 セルピコ達の会話からでも、この攻撃が強力なのは分かっている。

 もし、飲み込まれてしまったら、最悪、俺でも死ぬかもしれない。

 だったら異能──擬似魔法。


「……黒刻クロド


 電撃の塊を大きな影で覆い被せる。

 イメージをしろ、擬似魔法は余計にイメージが大事。

 俺が強くイメージをしたが、電撃の塊は影を壊し──突き破る。

 電撃の塊は徐々に、俺へと近付いてくる。

 やばいな、このままだと直撃してしまう。

 万事休すか。


「「まじかよ」」

「くそテロリスト!」

「お前が死ね」


 電撃の塊は俺の前で消滅をした。

 俺はパージの男がいる方向に、目掛けて指で銃の形を取る。

 次の瞬間、俺の前方から蒼く光る、蒼電の一撃が放たれる。

 次の瞬間、轟音が鳴り響く。

 それと同時に爆発が起こる。


「何をしたの?」

「見ての通り、彼奴の攻撃をまんま返しただけだ」

「そろそろ。この戦いに終幕をつけるか」


 これ以上、長引けば本当に敗北する。

 電撃が当たる直前、異能をフルパワーで使い電撃を消した。

 パージの男に返す様に、擬似魔法を使った。

 そのせいで大分疲労感が溜まってきた。

 そろそろケリをつけないといけない。


「そうだね! 神聖魔法セイクレ」

「剣流・炎虎えんこ


 リズは無数の方向から魔法陣を展開する。

 セルピコは腰を落とし、大剣を背負う。

 無数の魔法陣が、金色の色に変換し、光輪が現れる。

 光輪から光の一撃が飛んでくる。

 迎撃しようと構えた瞬間、セルピコの大剣は鋼色から赤く刀身が変わり炎を纏う。

 大剣を振り回し、炎が虎の形に変わる。

 次の刹那、二人の攻撃が飛んでくる。

 俺の懐にセルピコが入り、剣を振り上げてくる。

 それと同時に無数の光の一撃が飛ぶ。

 これは簡単に避けきれないな……


「我が黒い刃よ目の前の物を切り裂け!」


 次の刹那、黒い刃が光の一撃と相殺する。

 俺の詠唱に、セルピコの動きが止まっている。


「止まってんじゃねぇよバーカ」


 俺はセルピコの顔面に思い切り、膝をブチ込む。

 セルピコは避けようとしたが、避けるより前に俺の膝が入る。

 セルピコは鼻血を流し、仰向けに倒れる。

 大剣だけはしっかりと握られている。

 セルピコに歩みを進めた時、斬撃が飛んでくる。

 体を屈み──斬撃を躱す。

 そのままリズの腹部に、指を突き立て──一瞬で握り拳を作りそのまま押す。

 次の瞬間! リズは腹部を押さえながら後ずさる。


「何をした!?」

「この世界の技さ」

「そっか……この世界の破壊に意味なんかない」

「それを決めるのは俺だ。リズ、そしてセルピコ楽しかったよ。さよならだ」


 俺はセルピコから大剣を奪い、リズとセルピコに斬撃を振りかざす。

 血飛沫が舞い──大剣が血に染まる。

 後はパージの連中の殲滅だけだ。

 俺は大剣を握り、地を蹴って残党のパージの下へ向かう。


「……はぁはぁ終わった」


 !? 危ねぇこのまま長引いてたら確実に負けていた。

 残りのパージを全滅させた瞬間に、片膝を付く。

 信じられない程の疲労感がある。

 そういえば何か忘れている様な?


「あ。そうだ。おい大丈……夫か?」


 周りを見渡しても、少女の姿は一切なかった。


「仕方ねぇ刃物を回収して帰るか」


 今度会った時、あの少女には情報と、一緒に俺のコートを返して貰う。

 それまでの間はあの少女に貸してやるか。


















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