第9話 決着……?

 次に手を出したのは俺──的確に速く拳を、繰り出す。

 男は紙一重で躱し、一歩後ろに後退する。


「おい、どうした? さっきまでの勢いはどうしたんだよ!」


 俺は男を挑発しながら、腰を捻り全身の力を使い、左ストレートを男に出す。

 男は再び上半身を反らし躱そうとした。

 だが、俺は体を前進させ、追撃する。

 男は防ぎ切れず、もろに攻撃を喰らう。

 そのまま拳を振り切る。

 バタンと男は倒れる。

 他の自衛隊の人間達は、体を震わせていた。


「お前ら、俺とまだやるか?」

「や、やるに決まっているだろ! 俺達は国を守る自衛隊だ!」

「いい意気だ、でもな無意味なんだよ」


 強く握り拳を作り、力のままに拳を振う。

 自衛隊の人間達は風圧で全員飛ぶ。

 後二、三回、同じ事を繰り返し──自衛隊は全滅をする。

 俺はたった一人だけ立っており、戦場となった街を眺める。

 コンクリの地には、数え切れない程の薬莢やっきょうに、無様に倒れている自衛隊の人間。


「これは凄いね!」


 背後から声が聞こえ、声がする方に振り向く。

 と、そこには栗色の髪を持つ少女が、血塗れになった子供を持っていた。


「……ジャンヌか」

「はい、この子でしょ? 君が言ってたの」

「そうだ。そこに寝かしておいてくれ」


 ジャンヌは俺の言葉に従い、子供を寝かす。

 子供は恐怖で、押し潰された様な顔で死んでいた。

 俺は子供の顔に手を近づけ触れる。

 直後、子供は目を瞑る。


「君、悪魔の様な人間の癖に優しいんだね」

「優しくはなんかない。俺がこの場所にいなければこの子は死んでいなかった」


 悪魔……ジャンヌの言葉が、頭から離れない。

 ジャンヌの名前と、言葉で馬鹿みたいな想像をしてしまう。

 俺は悪魔で、こいつは神の使いである聖女。

 今は中立であり──俺の味方。

 もし、こいつが敵になるならば厄介だ。


「なぁお前は?」

「何かな? 悪魔王子」


 俺はジャンヌに疑問に思った事を、言おうとしたが、ジャンヌの一言でやめた。


「誰が悪魔王子だくそ野郎」

「私、野郎じゃないよ?」

「そんなのは分かっているは!」


 駄目だ、この女と喋っていると、考えている事全てが飛ぶ。

 この女をどうしてやろうかと、思った。

 その時、ジャンヌは顔を、強張らせ声を荒げた。


「クロム君! 後ろ」

「あ?」


 俺はジャンヌの言葉を聞き、後ろを振り向くと、黒衣を纏った人間がいる。

 手には黒い刀身の刃物を持ち、俺の横腹に深々と突き刺さっている。

 次の瞬間、黒衣の人物は俺に向かって、手をかざし、呟く。


黒雷ブラサガ

「なっ!?」


 男の腕先から、黒く電撃の様な物が走っている。

 俺はやばいと思ったが、体が全く動かずもろに魔法を喰らう。


「ぐ、うぅぅ」


 俺の体には強烈な黒い雷が走る。

 全身に痺れが現れ、それと同時に痛みも出始める。

 痛みに耐えながら、黒衣の人物に蹴りを入れる。

 黒衣の人物は、手から刃物と魔法を離し、数メートル下がる。


「く、はぁはぁ、ブ、ファ」


 俺の体は魔法の痛みに耐えたが、黒衣の人物が離れた瞬間。

 膝から崩れ、多少の血を口から吐く。

 ここまでダメージを、負ったのは久しぶりだ。

 異世界の時、あの男と戦った振りだな。

 そんな事より──上手く、魔素が練れない。

 体に魔素を流し、傷を塞ぐ事も魔法を使い、追撃する事もできない。

 それにこいつ、どうやって俺に刃物を突き刺した? 俺は横腹に刺さっている刃物を抜く。


「てめぇ何者だ?」


 俺は立ちながら黒衣の人物に、向かって問い掛ける。


「………」


 やっぱ無言で通すか。

 くそ、いきなり情報量が増えすぎて、頭がパンクしそうになる。

 ただ一つだけ明確にする事だけは、決まっている。


「ぶっ殺してやるよ!」


 俺は完全にキレ、頭には血が昇る。

 ジャンヌの前では、力を隠すつもりではおった。

 だが、そんなのはもう関係ない。

 今は俺に傷を、負わしたこいつを殺す。

 ただそれだけだ。

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