第010話 放浪
奇跡的に軍を無事に出ることができたルークは、途方にくれていた。
「行く場所がないな・・・」
軍の連中のお陰で少しは絶望感が紛れたとは言っても心の虚無感は晴れた訳では無い。
「働くのもどうしたらいいものか」
幼い頃からずっと軍にいたため、どのようにして生計を立てて行けば良いのか分からない。
「・・・駄目だ、しばらく何もできそうにない」
いずれにせよ今は何もやる気がでない。
「そういや、昔、父さんが言ってたな『途方に暮れたときはとにかく立ち止まるな』ってあの時はよく分からなかったけど今がその時なんだろう」
ふと父の言葉を思い出し、ルークはただひたすら歩くことにした。
ルークの父親の言葉は物理的に歩き続けろというのとは意味合いが異なるはずだが今のルークには気が付かない。
訓練漬けの二十年間を過ごしてきたからか、ずっと動いていると気が紛れた。
目的地などない。分かれ道があればコインでどちらに行くか決め、腹が減ったら食べ、眠くなったら眠る。
タバサに話を聞いたときの状態と比べたらちゃんと動き、食べ、寝ているのでまだましだと思えた。
とはいえ、深い眠りにはつけてないのか寝ていても疲れは余り取れてはいなかったが。
一体何日が経過したのだろう。
そんな生活を続けていると、
「そろそろ金が尽きてきたな」
路銀が底をついてきたことに気づく。
軍の銀行に金は預けてはあるが、手元にある金はもうほとんどない。
「そういえばあの金はどうなるんだろうな。まぁ、今はどうでもいいか」
銀行に行き、金が引き出せなかった時に考えよう。
元々ルークに余り欲しい物はなく、基本的にほとんどの給金を軍の銀行に預けてきた。
軍を辞め、故郷に戻ったとき、アメリアとの結婚資金とそこから始まる新婚生活の費用に充てようと考えていた。
今となってはそれもままならない。
「いっそのこと山にでも籠もってみるか」
戦場では自給自足を余儀なくされることもよくあったためやってやれないことはない。
ふと、ルークは視界の隅にあった山をなんとなく見やる。
「なんだ?」
何だか違和感を感じたルークは思わず呟いていた。
上手く頭が回っていない。もう一度ゆっくり辺りを見る。
「火事か?」
落ち着いて見てみると今度は気づくことができた。
ルークの立っている位置から辛うじて見える山の中腹に村がある。
その村からかろうじて煙が発生しているように見える。
煙が見えたからといって火事かどうかは分からない。もしかして不要になった木や草を燃やしているだけかもしれない。
「ふぅ」
ルークは一度深呼吸をしてから今度は目以外の感覚も含めてその村を『視る』。
すると、大勢の怒り、悲しみ、恐怖、歓喜、様々な感情が入り混じっているのが感じられた。
「・・・襲われているな」
そう呟いたときには既にルークは全力で走り出していた。
「!?」
自分の行動に自分自身で驚く。絶望に打ちひしがれて何もできないと思っていたが、まだこんな行動を取れるだけの心が残っていたのかと。
「間に合ってくれよ」
ベストコンディションには程遠いがそんなことは言ってられない。
ルークはとにかく今できる全力で走っていった。
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