第006話 激怒

「・・・そうか。お前はずっと苦しんで来たんだな」


ルークにはアジスの態度がどうしても演技とは思えなかった。


「ああ。本当に後悔し始めたのはお前を死んだことにしてからお前の身の回りに起こったことを聞いてからだ。それまで、俺は自分が出世していくことに夢中で悪いことをしているという気は全くしていなかった」


アジスはずっと頭を下げたまま答える。


ルークはしばらくアジスを見てから、溜め息をつくと


「・・・分かった。お前を許そう」


絞り出すようにアジスに言い放った。


アジスは驚き、


「!?・・・本当に許してくれるのか?」


ここで始めて顔を上げる。


「2度も言わせるな」


ルークはアジスに背を向け、執務室の窓に向かいながら答える。


「ありがとう。俺はその言葉で救われた」


アジスが再び頭を下げたのが気配で分かった。


「だが、一つだけ教えろ」


確認しておかねばならない。ルークはアジスに訪ねる。


「ああ、何でも答える。遠慮なく言ってくれ」


ここで改めてアジスの方に向くとアジスは真っ直ぐにルークの目を見ていた。


「お前を焚き付けた奴は誰だ」


こらえられない怒りが、文字通りルークの髪の毛を逆立たせる。


アジスの態度からよく分かった。


ルークは勘違いをしていたのだ。


いくら出世欲に目がくらんだからといって当時チームリーダーだったアジス一人でこんな計画を実行できる訳がなかったのだ。


黒幕がいる。恐らく罪悪感すら感じず、のうのうと生きてきた奴が。


「・・・」


「言わないのか?この怒りがお前に向くことになるぞ」


比喩ではなく、ルークの怒気により空気が震える。


「・・・ザラス副大隊長だ。だが、」


バリィィィン


『だが、絶対に手を出しては駄目だ』


そうアジスが言い切る前に、ルークはアジスの執務室の窓をぶち破り、下の広場に飛び降りた。


「くっ、まずい」


ジリリリリリリ


アジスは即座に警報ブザーのスイッチを入れる。


間髪入れずに集まる精鋭兵士。


「状況説明は後だ!一刻も早くルーク元副隊長を拘束しろ!!」


「「「はっ!畏まりました!!」」」


アジスの指示に返事をするやいなやすぐさま動き出す精鋭兵士。


(取り返しのつかないことが起こる前にルークを止めねば)


アジスは時計を見る。


(今の時間なら、訓練場だ)


ザラスの居場所に検討をつけたアジスは近くにおいてある剣を携え訓練場に急いだ。





(あいつはきっと訓練場にいる)


アジスの執務室を飛び出したルークはザラスが訓練場にいるとあたりをつけていた。


思い返してみれば自分ではろくな訓練もしないくせに訓練場にいっては手駒になりそうな兵士を物色しているずる賢いやつだった。


全く持って世渡りの上手いやつだ。


(警報がなっているな。・・・どうでもいいが)


ルークはもはや自分はどうなってもいいからザラスだけはぶちのめすということだけを考え、走る速度を上げる。


(見えてきた)


訓練場の無駄に分厚い鉄扉が視界に入る。


戦地が万が一ここまで来たときのために訓練場に立てこもって応援が来るまで耐えられるように頑丈にしているらしい。


「ザラスゥゥゥゥ!」


ルークは怒りのままに標的の名前を叫ぶ。


さすが、臆病者のザラスだ。ルークの姿をいち早く認めるや慌てて訓練場の扉を閉めさせる。


今の行動だけでもルークに対して負い目があることが確信できた。


閉まり始める扉。


ルークはギリギリ間に合わない。


(知ったことか)


「おぉぉぉぉぉぁ!」


ドゴォォオ


ルークが全力で扉を左腕で殴ると分厚い鉄扉がひしゃげ吹き飛ぶ。


流石の生身の体も無事では済まない。ルークは左腕を血塗れにしながら速度を変えずに走る。


一方、ザラスは反対側まで移動し、何やら喚いていた。


非常事態だと気づいた訓練場の兵士がルークの前に立ち塞がろうと動き出すが


「動くなっ!!」


ルークの殺気のこもった言葉に身動きができなくなる。


するとルークはすぐさまザラスの目の前まで到着し、怒りをぶつけようと無事な右腕に力を込めながら叫ぶ。


「お前だけは絶対に許さねぇ!!」


「やめ」


バキィィィィ


ザラスの静止の声を無視しルークは無傷な方の右拳でザラスを殴りつけた。


ドサ


ザラスは天高く舞い上がり無様に地面に落ちたのだった。


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