第35話
傷を隠すことを諦めて、セレニティとしての生活を楽しんでいたのだが、なんとかこの時代にあるものを使って隠す方法はないかと模索したこともあった。
セレニティは街に出た時に傷を隠せるような仮面を探したが逆に悪目立ちしてしまう。
化粧もかなり厚塗りしなければ赤みを隠せそうになかった。
なぜ隠そうとしたのかといえばスティーブンの悲しそうな顔を見たくなかったからだ。
二週間に一度、スティーブンは律儀にもセレニティの様子を見るためにシャリナ子爵邸にやってくる。
そして傷跡を見ては悲しげに眉を顰めていた。
(どうにかできればいいのだけれど……)
しかしなかなかいい方法は見つからずに今に至る。
そしてスティーブンとはすっかり仲のいい友人のような関係になっていた。
スティーブンは優しくて聞き上手だ。
何より落ち着いた雰囲気は今まで会ってきた男性達とは少し違うように感じていた。
小説の中でシャリナ子爵邸にスティーブンが持ってくるお土産はぬいぐるみや花が多かったが、今はお菓子一択である。
セレニティはスティーブンに「どんなお土産がいいだろうか」と問われた際に「美味しいお菓子を是非!」と頼んだ。
スティーブンはセレニティに言われた通りに流行りの美味しいお菓子をシャリナ邸に届けてくれる。
最近ではスティーブンがシャリナ子爵邸に来た際には、まったりとお菓子を食べながらおしゃべりをして一緒に時間を過ごしていた。
しかしジェシーが邪魔してこない。その理由はというと……。
「スティーブン様、こちらにいらしてくださいませ!」
「さぁさぁ、是非こちらにっ」
「スティーブン様、行きましょう!さぁ、早く!」
スティーブンはセレニティと過ごしたあとに、あっという間に両親とジェシーの三人に連れて行かれてしまう。
二回に一回は「用事がある」と断っているようだが、スティーブンは断りきれずにジェシーと共にお茶をしているようだ。
ジェシー達は自らの欲を優先しているのかスティーブンの気持ちは全く関係ないらしい。
そのお陰でセレニティに被害はないのだが、スティーブンは毎回大変そうだ。
さすがに申し訳なく思い、今回はスティーブンのためを思って回数を減らすように提案すると「セレニティ嬢が気にすることはない」と言われてしまった。
「ですが、大変ではありませんか?」
「俺が好きでここにいるんだ」
「……え?」
「君と話していると、とても楽しいよ」
「……?わたくしもスティーブン様と話していると楽しいですわ」
「そうか。ならよかった。今日は君が好きそうな土産を持ってきたんだ」
「本当ですか!?」
「セレニティ嬢は本当に甘いものが好きなのだな」
「えぇ!こうしてお腹いっぱいにお菓子を食べることはわたくしの夢でしたもの」
セレニティはそう言って、スティーブンから大きめな箱を受け取った。
中を覗くと可愛らしいカップケーキがたくさん入っている。
「わぁ……!とても可愛らしいケーキですわね」
「ああ、流行っているのだと姉上に聞いたんだ」
カラフルなデコレーションがしてあるカップケーキを見て笑みを浮かべて手を合わせた。
スティーブンをチラリと確認すると、彼はセレニティの言いたいことがわかったのか笑みを浮かべながら頷いた。
セレニティはカップケーキを一つ取り出してから思いきりかぶりついた。
マリアナの注意が入る前にスティーブンは手を上げて彼女を制止する。
マリアナもスティーブンから言われてしまえばこれ以上、口を出すわけにはいかないのだろう。
視線を感じつつも「ん~!」と頬を押さえてカップケーキを堪能していた。
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