第12話
セレニティが空腹感に感動していることにも知らずに、マリアナはセレニティが先程まで見ていた鏡を取り外そうとしている。
しかしセレニティの目はワゴンの上にあるサンドイッチ釘付けだった。
その間にもぐーぐーとお腹の音が鳴り、口の中には涎がじんわりと滲む。
感じたことのない体の変化にセレニティはゴクリと唾を飲み込んだ。
「マリアナ、こちらのサンドイッチを一ついただいてもいいかしら」
「はい。もちろんですよ」
「いただきます……!」
マリアナは重たい鏡を運んでいる。
セレニティは震える手でサンドイッチを掴んだ。
口元に運んでから、意を決して唇を開いた。
咀嚼すると口いっぱいに広がる野菜のシャキッとした食感にハムの肉肉しい食感に感激していた。
スパイシーなソースとパンの甘さを感じて目を見開いた。
(……な、なんて美味しいの!)
食べ物がこんなにも美味しいと思ったのは初めてだった。
次はジャムが挟んであるパンを手に取った。
セレニティはまた一つ、また一つと口に放り込む。
「むぅ~~~!」
セレニティが嬉しそうにサンドイッチを頬張っているとマリアナがポカンと口を開けながらこちらを見ている。
あまりにも口の中にサンドイッチを詰め込みすぎたせいか咽せていると、マリアナが水が入ったグラスを差し出してくれた。
「セレニティお嬢様、大丈夫ですか!?」
「ゴホッ……」
ゴクリとサンドイッチを飲み込んで、セレニティは体を固くした。
いつもならば吐き気が込み上がってくるのだが、いつまで待っても胃が重たくなる感覚がない。
(嘘……信じられない)
セレニティはもう一度、水を飲み込んだ。
そしてセレニティはサンドイッチを口に運び、水を飲み込んだりを繰り返していた。
真っ白な皿が空っぽになって、ワゴンに何も入っていないコップを置いたセレニティは自分の両手を見て震えていた。
「……わ、わたくし」
「セレニティ、お嬢様……?」
「──わたくし、ご飯をたくさん食べられたわ!」
「はい……?」
「信じられないわっ!こんなに食べられたのは初めてだわ!」
セレニティはマリアナの手を掴みながらぴょんぴょんと飛び跳ねていた。
そして普通に食事ができる喜びを噛み締めていた。
マリアナは手を揺すられながら、ポカンと口を開けてセレニティを見ている。
「ウフフ……!あはは」
「お嬢様、お気を確かに……っ!」
「あらマリアナ、わたくしは正気よ。美味しいサンドイッチをありがとう!お水もとっても美味しかったわ」
「えっ……?はっ、はい!」
マリアナはずっと塞ぎ込んでいたセレニティが急にはしゃぎ始めたことに驚いていたが、すぐに安心した表情を見せた。
「デザートをいかがですか?」と言ったマリアナにセレニティは「いいのかしら?」と問いかけるとマリアナは「もちろんですよ」と言って微笑んだ。
セレニティはすぐに生クリームいっぱいのパンケーキをリクエストする。
「セレニティお嬢様、今から本当に食べられるのですか?」
「えぇ!わたくし、生クリーム山盛りのパンケーキを食べることがずっとずっと夢だったの!」
「わ、わかりました」
マリアナは首を傾げて不思議そうにセレニティを見ながらパンケーキを取りに向かった。
セレニティは甘いものが大好きだった。
怪我をするその日までは毎日デザートを食べていたのだ。
その幸せそうな表情を思い出すことができる。
塞ぎ込んで食べ物を口にしなくなったセレニティが急に態度を変えたのだからマリアナが疑問に思うのも当然だ。
しかし、セレニティはそれどころではなかった。
(こんなに動いても意識を失わない……!息も苦しくないわ)
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