第10話 ヒーロー?死神?
アイスを両手で握り、畳の上にドカリと腰を落とす。
手が結露か何かで濡れて、畳が少し濡れている。なんとなく、そんな感じがする。俺の汗か…?
取り敢えず、いくつか分かったことがある。まず、頭の中を整理しよう。
アイスのふたを親指を使ってべりべりと開けていく。
まず、たかやまくんが何らかの方法であのナニカと繋がっていること。そして、それによれば俺がなんかマークされているってこと。あれは、妄想の範疇を超えているから多分マジな話だ。
で、まず第一、なんで俺があいつにマークされてんのかって話だが、考えてもしょうがない。正直、答えは無いだろう。たかやまくんが分からない限り俺も分からん。しょうがない。
…
プラスチックのスプーンをアイスに突き立て、地表をすくう。
俺がやれることは、だから…たかやまくんをあの意味の分からない状況から解放すること。
口にいれる。
舌の上にじんわりと甘さが広がると同時にザラザラした感覚が伝わってくる。
できるかどうかは分からんが…まぁ、やるだけやってみるしかないだろ。
で…問題はどうするかだ…。
再びアイスを口に運ぶ。
おそらく、今のところできることと言ったらあのナニカ…ショットガンヒーローについて調べる事だけだ。
今まで、調べた情報で大体わかってるのは、奴は神出鬼没なこと、おそらく人間じゃないこと、使っているショットガンがM1897っていう古いやつであること、おそらく発症者を殺して回っていること、被害者が現在までで200人近くになりそうなこと。そして、たかやまくんの情報から…やつは人の精神的領域に何らかの手段で介入できること、俺をマークしてること。
…奴に関しては……正直もうこれ以上の情報は無いだろう。どうやって、人の意識に介入しているのが分かれば別だが……。
精神的領域………。
そういえば、巷の発症は異常な精神疾患としてみなされる外無いんだっけ?この精神疾患は唐突に現れた。
…ショットガンヒーローは人の精神的領域に干渉できる。
……
もしかして、天津症候群と同じ原理…?いや、同じような存在か…?
……天津症候群についてもっと調べるほかねぇ…。
アイスのカップをたたみの上に置き、あいた左手にケータイを持つ。検索エンジンを起動し、天津症候群と入力。
天津症候群に関する最新情報はこちらと上のほうに検索エンジンの企業がわざわざ用意したバナーが表示される。
スルーして、マスコミのネット記事を見る。…どこどこで発症。……取り敢えず、さかのぼり、まずは定義から確認しなおす。
天津症候群。2025年11月8日に発生した天津における暴動以降、ゆっくりと日本に広まった奇病。症候群と名付けられているのは、おそらく体温上昇やストレスの急速な増加など複数要因が混じり怒りを進行させていると予想されているからだ。しかし、現代ではそういった症状が発症によるものなのかそれとも怒りを覚えた際のただの反応であるのか分からず、正確には精神疾患として診断書を書く外無い。発症すれば、周囲に対しての怒りや不快感を段階的に発露し、周囲に対し暴力行為を働こうと試み始める。その後、時間経過とともに暴力行為はエスカレートし、最終的には相手を殺害するまでに至る。発症者によりその後の行動にはバラつきがあり、ある者はそのまま拘束されるまで死体を殴り続け、またある者は周囲の他のターゲットに狙いを移している。全ケースに共通して確認されているのは、意思の疎通が難しくなることだ。基本的に発症者は罵詈雑言を常に発し続け、こちらからの呼びかけにはそれをもって応酬する。また、「もうやめて、ゆるして」という呼びかけに対し、「あっそっらそっら、うるせぇ」という様な前後の文脈が繋がらない返答も多い。原因は不明。菌やウイルスなどの存在は確認できず、また感染が確認できない。つまり、ただただ、唐突にそこら中の人々がたがの外れた怒りを覚えているだけとしか正確には言えない。
…原因は不明……。
現在、天津症候群に苦しんでいるのは日本国だけであり、その他の国では見られていない。発症元である可能性の高い中華人民共和国ですら天津暴動以降見られなくなった。一体何が起きてるのか、本当に分からない。
現在、言えるのは俺たちの想定の範囲を超えた何かが起きているということだけだ。
…
ケータイをたたみの上に置く。正直、これ以上探しても信頼に足る情報が手に入るとは思えない。いま得た以上の情報を得るには、真実を見極めるための目が必要になってくる。俺にはそれは無い。
……精神的領域。正直言って、俺たちの目に観測不可能な領域だ。どうしようもないだろう。…いや、精神的領域がどうしようもない?精神的領域の主導権を握っているのはあくまで本人の筈だ。そう考えると、たかやまくんがその気になればなんとかできるのでは……?
いや、分からん。分からん。なんとかできるんだったら…思うだけでなんとかなる存在なら、もうすでになんとかなってるんじゃないか?特に本人からやつに対する好意とかは感じなかった。何がトリガーになってるのか全く分からねぇ。
……専門家に聞いてみるか。
ケータイを再び手に取り、電話帳から一つの名前をタップする。
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