伯爵夫人の秘密の占いサロン

 空の遥か高くを、鳥の群が飛んでいた。

 晴れ渡る空を流れる雲の下、白い翼を大きく広げて、南へと。

 鐘が鳴り響く。

 黄色い花びらが舞い散る。


 私は今、とある侯爵家時期当主の結婚式に招かれていた。

 花嫁衣装に身を包むのは、以前私のドレスを仕立ててくれたシリー家の息女・オーロ様だ。

 晴れやかな表情で、青空の下に清らかなベールをはためかせている。

 流石は大商家の娘。貴族同士の結婚式には見かけないような参列者がちらほらと見える。

 その中で、号泣しながらワインを飲んだくれているあの青年は……まあ、邪推しすぎもよくないだろう。


 冬が明けて、季節は春。

 新たな人生を歩む二人に向けて、私も心からの祝福を送った。



 取りあえず一通りの知り合いに挨拶も終えて、私は一人ぽつねんとワイングラスを傾けていた。

 ううん。どこのワインだろう。美味しい。

 そんな私の元に、つつつ、と遠慮がちに近づいてくる影があった。


「あのぅ。ムウマ伯爵夫人でいらっしゃいますか……?」


 それは、私と同じ年頃のご婦人だった。

 こちらの顔色を探るような、それでいてどこか期待に胸を膨らませたような表情で、おずおずとスプリンググリーンの便箋を差し出してきた。

 おやおや。こんなところで。


「私、ラトナ=シビラと申します。あの、オーロ様から、これを頂きまして」

「オーロ様のご紹介ですね。はい、分かりました。ご希望の日時はありますか?」

「あ。はい! ええっと、私、前からずっと、メオ様の占いに興味があって――」


 今、私の占いサロンは、以前よりもかなり厳格なルールの下で活動を再開させていた。

 完全招待制で、ご新規様は長文の誓約書に署名をもらった上で、既存のお客様からの紹介によってのみ受け付けている。誓約書の内容は、フィオにアドバイスを貰いながら作成した。


 以前の頃よりはかなり件数は減ったが、それでも、こうしてちょくちょくとスプリンググリーンの便箋を持った女性が訪ねてくる。

 ちなみに、当サロンは男子禁制。

 誓約書の中には、例え自分の親や夫君であったとしても、占いの内容やサロンの場所を明かしてはいけない旨が書かれている。


 わざわざそんな規則を作らなくとも、元から男女比は0対10なのだが、敢えて規則にすることでプレミア感を演出しているのだ(ちなみにこれはすっかり常連となったシノン様の提案)。

 今のところ、違反者は出ていなかった。


 こうしてムウマ伯爵夫人の秘密の占いサロンは、国内のご婦人たちの間で、ひっそりと広まり、流行しているのである。


 私のカードに、未来を予言する力はない。

 人の心の内を見透かすこともできない。

 カードによる暗示は、全て可能性と選択肢の提示。

 その結果を受けてどうするかは、すべて次第です。


 それでも宜しければ、どうぞご相談ください。

 美味しいお茶とスイーツもついてきますよ。

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