第11話
◆
胸中を様々な感情が荒れ狂う。
それは恐怖であり、悔恨であり、寂寥であった。
胸を掻き毟りたいほどの感情が渦巻いているのに、指一本動かせない程の空虚さを感じる矛盾した心情。
そう、この気持ちは───
◆
「あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁ……」
転生二日目の早朝、俺は会いたかったキャラに会えた喜びと、
あの時はトラウマを乗り越えられたと思ったが、どうやら俺の想像以上に根が深かったらしい。
「……気晴らしに散歩でも行くか」
前世から散歩は好きだ。どちらかと言えば出不精なので嫌な事があればタバコで済ませる事が多かったが、それで気が済まない時はタバコ片手に夜道を出歩いたものだ。
タバコがない今、散歩で済ませるのがいいだろう。売ってる店があればタバコも買えるしな。
「よし」
善は急げと言うし、すぐ行こう。
来紅との約束を守るべく露店市場へ行くことも考えた。しかし、こんな気分の時に会っても不快な思いをさせてしまうかもしれない。
ならば、気分転換を終えてから会いに行くのがベストだろう。
そうして適当に準備を済ませた俺は、外に出て日差しを目一杯浴びる。
「絶好の散歩日和だな」
出不精でも適度な日差しを浴びれば気分が良くなるものだ。
今世で初の散歩を楽しむべく頭を切り替えた俺は、歩きながら近場の道具屋でタバコが売っていたかを思い出す作業を開始した。
◆
「お父さんのバカ」
私は昨夜の家出から、ずっと走っていた。
この時ほど固有スキルにHP自然回復の効果があってよかったと思った事はない。最低限の管理さえ行えばスタミナ切れなんて起こらず、気の済むまで走れるのだから。
しかし、それが災いしたのか。
何せ勢いで飛び出した挙げ句、涙で視界が
私が、そうなっても走り続けたのは、走って気を紛らわせていないと悪い考えに押し潰されそうで怖かったからだ。
「いつも子供扱いしないでって言ってるのに、何で分かってくれないの。お父さんのバカ」
父が私を大切に思ってくれている事は知っている。私も、そんな父の事は大好きだ。勿論、いつも味方してくれる母の事も。
そんな大好きな父だからこそ私の事を分かって欲しかったし、いつか分かってくれると思っていた。思っていたのだ、なのに……
「お父さんの事、嫌いになりたくないよぅ。でも私の事を分かってくれないお父さんは嫌いなの」
頭の中がグチャグチャになる。無意識に漏れた支離滅裂な言葉は紛れもなく自分の本心だ。
けれど、自分でも不自然だと分かる言葉で、誰かに理解してもらうなど出来る筈もない。怒り、後悔、自己嫌悪、様々な感情が入り乱れて訳が分からない内心にも嫌気が差してきた。
もう何も考えたくない。そんな事を思っていると、ちょうど目の前に道具屋が見えた。
「……のど乾いたなぁ」
家を出てから一晩中、叫んで泣いてと水分を消費したのだ。HP自然回復では、そこまで癒やしてくれないのだから。
涙を拭い、髪を整え、最低限人前に出られる身だしなみになった私は、ようやく歩いて道具屋に向かった。
この後、また走るが。
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