第16話 属性魔法×性格診断×修行
自分がどの属性を得意とするかは、それを診断する魔道具の水晶を使用する。
例えば火属性が得意なら水晶が赤く光り、水属性が得意なら青く光るといった感じだ。
光の強さはそのまま魔力量を表す。
魔力訓練を続けてきた俺が触れるとものすごい強さで光り輝くんじゃないかな。
「てことはなんだい、あたしがどの属性を得意とするかは、実際に使ってみてしっくりくるかどうかでしか調べようがないってことかい」
「性格でもある程度判断できるぞ」
空は人として欠けている。
土属性はめんどくさがり。
水属性はめんどくさがりを超えてめんどくさい。
火は視野が狭い。
風は自己顕示欲が強い。
「へえ、だったら師匠は空ね」
「よし破門」
「悪口を並べたのは師匠じゃない!」
「雄弁は銀、沈黙は金。覚えておけ」
言ってから思った。覚えさせる言葉間違えた。
ササリスは金銀問わずに大好きだった。
つまりどっちでもいいってことか、とか脳内で自己完結してる可能性がある。
「でも、確かにあってるのかも。この中だとどれもあたしに当てはまらないからね」
「え? ササリスは水だろ?」
「師匠があたしをどう思っているかはわかった」
無自覚って怖い。
「騙されたと思って使ってみろよ」
「使うって言っても、どうやって?」
「糸魔法を使う時に魔力を手に集めるだろ? その時に糸を編まず、代わりに水へ変換するんだ」
「そんな曖昧な感覚で言われてもさ、できるわけが……」
彼女の手のひらにはこぶし大の水球が浮かんでいた。
「できるはずがないわよね」
その水球が、見えない刃物で切り裂かれたように消滅する。
「いや、おま、いま糸魔法で切り裂いて……」
「できるはずないよね」
「でも、糸」
「あたしの得意属性は水じゃない」
「はい」
めんどくせえ。
「信じてないね? あたしが水属性なら、火と地が苦手なはずよね。逆説的に、どちらかを使えればあたしは水じゃないのね?」
「なあ、やめとけって」
「師匠は黙って見てな!」
ササリスは目を閉じて瞑想した後、手のひらに魔力を集めた。魔力を集めたまま、何も起きずに、魔力は霧散した。
気まずい。
「い、いまのは地属性だから! あたしも自分は地属性じゃないだろうなって思ってたから!」
「何も言ってないけど」
「次! 次の火属性が本命だから!」
ササリスは目を閉じて瞑想した後、手のひらに魔力を集めた。魔力を集めたまま、何も起きずに、魔力は霧散した。
「ふぅ」
ササリスがいい笑顔をしてる。
「師匠、その性格診断表間違ってるみたい。水属性はとても性格がいいって変えておいて」
「やっぱりあってるじゃないか」
ササリスの得意属性は水でした。
◇ ◇ ◇
ササリスの魔法練習に付き合ってしばらくたった休憩時間中のこと。
「師匠に聞きたいことがあるんだけどさ」
少し気難しい顔をしながら、隣に腰かけていたササリスが放った言葉は、ほんの少しだけ震えていた。
「なんだ」
「師匠言ってただろう? 情報はタダじゃないって」
「何かくれるのか?」
そういうわけじゃないんだろうなと思いながら、一応聞いてみる。
「逆だよ。あたしが師匠に教えれたことなんて、この場所のことくらい。明らかに釣り合ってない」
隣に座るツリ目の少女が、俺の真意を探るような視線で貫いてくる。
「師匠の目的はなんなんだい」
それに対する答えは簡単だ。
(こうしてササリスに魔法を教えることそのものだよ)
このエピソードは、きっとシロウとササリスが出会ったときにこんな感じで語られる。
◇ ◇ ◇
「あの、ササリスさんは誰に魔法を習ったんですか?」
「敬語はよしな。あいつと同じ顔にさん付けで呼ばれるのは気味が悪い」
「わ、わかった。ササリスは誰に魔法を習ったの?」
ササリスがいたずらな笑みを浮かべる。
「クロウに、だよ。そのころ彼はたった4歳だった」
「4……っ⁉」
「異常だったよ、あたしから見てもあいつは。聞けば生後数日で魔法を使ってたんだとか。それも、習ってもないルーン文字を操ってね」
驚愕の表情を浮かべるシロウを、ササリスがにやにやと反応を楽しんでいる。
「そんな相手に、本当に勝つ気なのかい?」
◇ ◇ ◇
ここで主人公が相手の異常さに気付き、臆病な心が顔をのぞかせるが、それを振り払うように力強く立ち向かう勇気を見せるのだ。
これこそ理想のダークヒーローの立ち回り。
原作のクロウくんにはぜひともお手本にしてもらいたいものである。
(ということで、魔法を教えるエピソードの確立そのものが俺への報酬みたいなところがあるんだけど、せっかくだ。一挙両得の展開に持っていくか)
ササリスには俺が何を目論んでいるかもシロウに開示してもらわなければならない。
ということで、ここでは正直に答えるのではなく、まわりまわってシロウに開示される情報を前提に語ろう。
「俺の目的か、そうだな。父親を捜している」
「父親を? 見つけてどうするんだい」
「お前が知る必要は無い」
感情を乗せない、抑揚のない声と冷たい目で言い放つ。
よし、こんな感じでいいだろ。
あとはササリスが深読みして「もしかするとあいつは父親を殺すつもりなのかもね」とか言ってくれれば最高だ。
そうでなくても、俺が親父殿に好感を持っていないと伝えてくれればそれでOK。
なにせクロウくんってばシロウくんの対極キャラだからね。
父親に憧れる彼と真逆の執着心こそ求められるアイデンティティなんだと俺は思います。
「手がかりとかないの?」
「ん?」
「師匠の父親の手がかりだよ」
「知ってどうする」
ササリスは「あーもうなんでわっかんないかなぁ」と口を尖らせた後、顔を赤らめた。
「手伝ってやるって言ってんのよ、師匠の父親捜し」
言いながら、彼女は視線をそらした。
「い、言っとくけど、これは優しさじゃないからね! 師匠にはこれからも色々教えてもらう。それが交換条件だからね!」
ツンデレだ。
こってこてのツンデレがやってきた。
「なに笑ってんだい」
「いや、悪い。それより、アルカナス・アビスって知ってるか?」
アルカナス・アビスは親父が俺に残した鍵が導くこの世界のどこかの地名のことだ。
聞いておいてなんだが、ササリスが知ってる可能性にはあまり期待はしていない。
原作4シリーズ既プレイの俺が知らないんだ。
スラム街を出たことがないササリスも多分、知らないのではないだろうか。
「アルカナス・アビス。いや、聞かないね」
まあ、そうだろうな。
ゲームでは語られていないが現地では有名って可能性も追ったけれど、よくよく考えれば鑑定した時に秘境って書いてたな。
ポピュラーなスポットだったら秘境とは呼ばないよな。
「そうか」
期待が大きかったわけじゃないから落胆は少なかった。
「でも、知ってるかもしれない人なら、心当たりがある」
だから、ササリスの言葉は俺を激しく驚かせた。
「いい時間だし、腹が減る前に食料調達に行こうか。そこにその人も来るからさ」
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