第8話魔法の知識
今日も今日とてアリアの素振りを見たり、模擬戦をしたりして過ごす毎日だ。たまに買い出しに行ったり、狩りにしたりしているが、一日の大体の時間はアリアと過ごしている。
「今日は魔法の修行をしようと思う」
「はい、よろしくお願いします」
「一応聞いておくが、フーバー王国にいた頃に魔法の修行をしたことはあるか?」
「いいえ、座学は習いましたが、武力を持つようなことはできませんでした」
おそらく、クーデターを避けるためだろう。王族に力を持たせなかったのは一見正解に見えるが、国が滅んでしまった今では王族の生存率を下げてしまう結果になるな。
「勇者時代の仲間に魔法が得意な奴がいてな。一応、そいつに魔法を教わったんだが、俺が教えられる魔法はあまり多くない。それでも、魔法を覚えておくのは旅で大きな有利になるはずだ」
俺は空に向かって《火球》を放つ。手の平から火の玉が出て、上空で爆発した。
「これは《火球》というごく初歩な攻撃魔法だ。だが、攻撃だけでなく物に火を付けたりするのにも使えたり、何かと重宝する。覚えておいて損はない」
一緒に暮らし始めて最近気づいたことだが、アリアはあまり表情を変えない。そのことを聞いてみたら、王族として何事にも動じないようにポーカーフェイスを身に着けたのだといっていた。
そのアリアが、目を輝かせていた。アリアはまだ十五歳だ。成人年齢ではあるが、まだまだ若い。なのに随分と大人びていると思っていたが、初めて子供のような顔を見た。
「凄い……凄い! 炎が手からボッって出て、空でブワッって広がって爆発しましたよ‼」
俺と目が合ったアリアは、恥ずかしそうに顔を赤らめ、ゴホンと咳払いをした。
「それで、どうやったら魔法を使えるようになるんですか?」
「言っておくが、魔法は一朝一夕では覚えられないぞ?」
俺はアリアの背後に回り、後ろから抱き締めた。
「えっ、ちょっ、何を⁉」
暴れるアリアを宥め付ける。
「落ち着け。これも修行だ」
「セクハラです‼」
暴れるアリアを無視して、俺は触れている部分を通して、アリアに魔力を流し込んだ。
「あ、あ、あ⁉」
アリアは雷に打たれたように痙攣する。最初は身体に違和感があるだろうが、これはしょうがないことだ。我慢してもらおう。
「これが身体に魔力が流れる感覚だ。これからお前の身体を通して魔法を発動する。感覚で覚えろ」
俺はアリアの身体を通じて、アリアの手の平から魔法を発動させる。
他人の身体を経由して魔法を発動すると、当然燃費は悪くなる。その為、アリアの手の平から出たのはゴルフボールサイズの火の玉だった。
「まあ、最初はこんなもんだ」
俺はアリアから離れようとすると、軽く肘鉄を食らった。筋力も順調についているようでなによりだ。
「今の感覚を忘れない内に再現してみろ」
俺は腹をさすりながらアリアへの指導を続ける。
「何も出てきませんが?」
「最初はそれでいい。体内で魔力を循環させられるようになることが魔法への近道だ。これは感覚的なものだから、自分がしっくりくるまでやってみろ」
それから、アリアの日課に体内での魔力循環の練習が組み込まれた。
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