第15話 今度は緑川さんとプールデート


 一昨日、橋本さんとプールに行った。今日は、緑川優子さんと一緒に行く。彼女は徒歩通学だから、午前九時半に学校ある駅に改札内側で待つことにしている。おかげで朝は俺もゆっくりとする事が出来る。




 私、緑川優子。クラスで密かに噂になっていた工藤祐樹君と一緒にプールに行く。彼を思い切り意識したのは体育祭の時。半イケメンなんて言われていたけど、落着いていて背が高く頭もいい。


 何かのきっかけで近付こうと思っていたら橋本心菜が抜け駆けしようとしたのが分かって、こちらものんびり出来ないと思い、カラオケに誘った。


 仲の良い門倉野乃花と水島里奈とは前から彼の事で噂をしていたから、共同戦線を張る事にして心菜の抜け駆けを阻止しようとしている。


 でもあの子は私達にない武器を持っている。私達だってスタイルには自信あるが、男の子は女の子の大きな胸が好きなのは定番。


 工藤君がそれに狂う事は無いと思うけど、私達もアピールしないといけない。だから本当は恥ずかしいのだけど、野乃花と里奈に相談して皆でプールに誘う事にした。

 誰が彼の心を射止めても恨みっこ無しにしている。だから今日は私の良い所をアピールしないといけない。


 彼とは学校のある最寄り駅に午前九時半に約束している。学校へは徒歩通学だから電車の乗るのは久しぶりだ。




 俺は、午後九時十五分に約束の駅の改札に着いた。改札を出ずに内側で立っていると駅に近付いて来る女の子がいる。


 背中の中頃まである艶やかな黒髪を後ろで一つにまとめている。顔は細面で目は切れ長二重の綺麗な目。すっきりとした鼻筋に可愛い唇。身長は橋本さんと同じ位か少し大きいという感じ。ぱっと見、美少女と言ってもいい部類だ。

 彼女が改札まで来ると


「工藤君待ったぁ?」

「いや、今着いた所」

「そう。良かった。行こうか」



 プールのある遊園地まで俺達の乗った駅から十二駅ある。大分遠い。ここからだとまだ二人で座れた。並んで座ると

「工藤君って泳げるの?」

「うーん、まあまあかな。二千メートル位なら。間に浮いて休めばもっと泳げる」

「えーっ、二千メートル!何それ?どうして覚えたの?」

「まあ、仕方なく」

「仕方なく?」

「うん、仕方なく」

 なんか理由ありそうだな。これ以上聞かない方がいいか。


「緑川さんは、泳げるの?」

「ぜーんぜん駄目!」

 俺をプールに誘った人が全然泳げないなんて。どういうつもりなんだろう?


「でもね。遊園地にあるプールって泳ぎに行くところじゃないでしょ」

「まあ、そうだけど」

「だからいいの」

 なるほどそういう理由か。



 最初は弾んでいた会話も続かないままに二人共無言になっていた。早く遊園地に付かないかと思っていると


「ねえ、工藤君。私さ、うまく言えないんだけど、何と言うかさ」

 言葉が続かない。だって男の子に興味を持ったのって初めてなんだもの。こういう時なんて言えばいいんだろう。



 緑川さん、話が止まってしまった。何を言いたいのかな。こっちから言う様な雰囲気じゃないし。


「あのさ、私、工藤君の事…」


遊園地にもうすぐ到着するアナウンスが流れると

「また、後でね」


 そのまま、また少し無言のまま目的の駅に着いた。順番で降りると二人で急いでチケット売り場に行った。一昨日と同じ位並んでいる。まさか橋本さんと一昨日来たなんて言えないでいると

「結構人がいるわ」

「まあ、オンシーズンだからね」

「じゃあ、仕方ないか」



 十五分位並んでやっとチケット売り場のカウンタに来た。カウンタの向こうのお姉さんは一昨日と同じ人だ。一瞬だけ俺を見た後に直ぐにニコッとされた。


 俺は何も知らない振りをして二人分の遊園地入場券とプール入場券を買うと緑川さんと一緒に園のゲートをくぐった。

 プールの入口方向に歩いていると


「チケット売り場のお姉さん、何で微笑んでいたんだろう?」

「さあ、緑川さんが綺麗だからじゃないですか」

「そうかなぁ、あれは工藤君を見て微笑んだような気がするんだけど。知合い?」

「知合いでは無いです」

「そう、気の所為かな?」

「多分」


 嘘よ、あの顔は以前知っている人に向ける笑顔。多分工藤君は直近で誰かと来て、その時、今のお姉さんからチケットを買ったんだ。間違いない。でも誰と?

 里奈と野乃花のスケジュールは分かっている。だとしたら残っているのは心菜か。あの子、また抜け駆けしようとしている。何とか阻止しないと。



 俺達はプールの入口で係員にチケットを見せると中に入った。直ぐ左手にある更衣室の前で

「工藤君、着替えたらここで待ち合わせしましょ」

「はい、分かりました」


 俺は更衣室に入ると一昨日とは違いサポータは一枚にして海水パンツを履いた。そして貴重品とキャップを防水バッグに入れて更衣室を出ると、まだ緑川さんはいなかった。



 二十分くらい待っていると彼女が更衣室から出て来た。ラッシュガードは着ているものの白をベースにひまわりの花がプリントされたセパレート水着。胸はそれなりにあるけど、驚いたのはその体のバランスだ。

 まるでモデルの様なスタイルは周りの男の人の注目を浴びている。


「待ったぁ」

「うん、ちょっとだけ」

「ふふっ、工藤君、そんなに私の体興味あるの?」

「えっ、なんで?」


「だって、私が更衣室から出てここまで来る間、思い切りガン見していたでしょ」

「あの、だって緑川さん、綺麗なうえに物凄くスタイル良くて、その何と言うか…」

「そっか、そっかあ、工藤君は私をそんな目で見ていたのか」

「いや、そんな目でって…」


 ふふふっ、第一段階は成功かな。この水着着るのだって恥ずかしいんだから。


「工藤君、何処に座る?」


 プールの周りのテーブルを見ると結構埋まっている。でも監視員の傍のテーブルが空いている。

「あそこどうかな」

 指を差して聞くと


「そうしようか」

 橋本さんと違って、簡単に賛成してくれた。良かった。


 俺達はテーブルについて、防水バッグをテーブルの上に乗せてから軽く準備運動をしていると

「工藤君、凄いね。何か運動しているの」


 彼の体は制服の上からは分からなかったけど、腹筋が綺麗に割れていて、贅肉の一欠けらも付いていない。そして結構細身。理想的な体だ。つい顔が熱くなってしまった。


あれ、緑川さん顔が赤いけど大丈夫かな?そう思いながら

「一応、父親の言い付けで小学校三年から空手を習っている」

「そ、そうなの」


 イケメンで、優しくて、背が高くて、頭が良くて、武術の心得があり一緒に居て安心出来る。こ、これって超優良物件じゃない。これは何とかしないと。


「工藤君、そろそろプール入ろうか?」

「はい」



 流れるプールに入った後、彼女が

「工藤君、泳ぎかた教えて?」

「いいですけど、ここだとちょっと狭いかも」

「大丈夫。君が私の手を掴んでくれれば、何とかなると思う」

「そうですか?」


 手を掴みながら彼女が

「後、どうすればいい?」

「体を伸ばして足をバタバタさせてごらん」

「分かった」


 ブクブクブク。


ブハッ。


「工藤君これ駄目、沈むだけ」

 本当に知らないんだ。困ったぞ。教えると言っても、でもあの方法は女の子には…。



「あの、浮輪借りましょうか?」

「えっ、いいよ。工藤君が教えて」

「じゃあ、お腹触っていいですか?」

「えっ、お腹?」

「はい、お腹を下から押さええているので、ゆっくりとカエルの様に手と足を動かしてみて下さい」

「分かった」


「じゃあ、行きますね。僕の手にお腹を載せる感じで水面と平行になって下さい」

「こ、こう」


 わ、工藤君に体を触られている。でもこうしないといけないみたいだし。私は言われた通りにして手足をカエルみたいに動かすと


「美味いですね。その調子です。少し手を下げますよ」


 彼女の顔が水に触れるか触れない位の位置で止めながら

「顔は上げたままにして下さい」

「く、工藤君。ちょっと待った」

 

 俺は、ゆっくりと手を離しながら彼女の足が底に着いたのを見計らって手を離すと

「これ、結構ハード。ねえあれにしない」



 彼女が指差したのはウォータースライダーだ。またあれか。

「何でそんなに嫌な顔するの?」

「えっ、そんな事ないですよ。行きましょうか」



 十分位並んでスタート順が来るとあの時と同じ係員が俺の顔を見て驚いた後、ニコッと笑って

「彼氏さんが前で、彼女さんが後ろですね。彼女さんは彼氏さんのお腹に手を回してしっかりと握って下さい」

「はーい」



 俺が縁に手を置いて滑り落ちない様にしながら待っていると緑川さんがゆっくりと俺のお腹に手を回して来た。いやでも彼女の胸が俺の背中にくっ付く。橋本さん程じゃないけど、やっぱり結構なボリュームだ。背中にムニューって感じ。



 私、男の人とこんなにくっ付いたの初めて。恥ずかしくて顔が赤くなっているのが分かるけど彼には見えないから良かった。

「はい、スタートして下さい」


 縁から手を離すと急にスピードが上がる。緑川さんが胸と一緒に顔も俺の背中に着けて手をぎゅーっと握っている。


 もうそればかり気になって滑っている感じじゃない。


 

 凄い。工藤君にピタリくっ付いている。でも何故かとても安心感がある。顔までくっ付けているとクルクル回っているのにホッとする。これいいかも。


 ザッブーン。


「うわーっ、面白かった。もう一度やろう」

「う、うん」


 なんと、四回もウォータースライダーに乗って午前中が終わってしまった。


「工藤君、お腹空いた。お昼にしようか」

「そうですね」



 俺達は、売店から焼きそば、ホットドッグ、たこ焼きと炭酸ジュースを買ってテーブルで食べ始めた。彼女とは全部半分ずつ食べている。



 ふふっ、工藤君と同じ物を半分ずつ食べている。学校じゃこんな事絶対に出来ない。でもウォータースライダー良かったな。

 彼に体をくっ付けている、ううん、委ねているととても安心する。やっぱり工藤君の彼女になりたい。もっと押さないと。


 

 俺達は食べ終わった後、少しゆっくりとして、それから二人でトイレに行った後、波の出るプールに行った。橋本さんの時と違い、あそこが変に反応していないので助かる。ちょっとだけ元気になってはいるけど。


 緑川さんも波が来るたびに俺にしがみついて来る。仕方なしに波が来た時、腰を持って少し上げてあげると喜んで俺の首に手を回しながらぴったりと体を付けて来た。正面からだと感じ方が違う。とても恥ずかしいし、少し元気になっている。不味い。



 男の人とこんなに体をくっ付けているなんて、昨日までの自分ではとても考えられない。でも工藤君となら出来る。もしかして相性良いのかな。いけない変なこと考えてしまった。


「あの、緑川さん、そろそろ上がりませんか?」

「そうだね。そろそろ上がろうか」

 これ以上工藤君とくっ付いていると何か体の中がムズムズして仕方ない。


 俺は簡単にシャワーを浴びて、頭をタオルで拭いた後、備え付けのドライヤで乾かして外に出た。まだ緑川さんは出て来ていない。

 二十分位して出て来た。


「ごめん、髪の毛が乾かなくて」

「構わないよ」



二人で遊園地のゲートを出ると緑川さんが

「工藤君、今度は二人で遊園地に来たいね」

「そうですね」



 俺達はホームで電車を待っていると

「ね、ねえ工藤君。朝の事なんだけど」

「はい」

「私ね。恥ずかしい話だけどまだ彼氏出来た事無いんだ」

「嘘でしょう。そんなに魅力的なのに」

「本当だよ。告白はされたよ。でも全然感じが合わなくて。でもね今日工藤君とここに来てとても強く思ったの。出来れば私と…」


 ホームに電車が入線するアナウンスが響いてその後、電車が入って来て彼女の声がかき消された。最後なんて言ったんだろう?


「あの、緑川さん。最後聞こえなかったんだけど」

「あっ、うん、いいや。工藤君、友達になってくれるよね」

「そう言ってくれると嬉しいです」

「じゃあ、遊園地は約束ね。いつ頃来れる?」

「うーん、夏休みは最後の方なら」

「あ、あのさ。まだ日付決めれないなら、連絡取れる様にしよう。工藤君スマホの連絡先教えてくれないかな?」

「いいですよ」

 やったあ、工藤君のスマホのアドレスをゲット。ふふふっ。


 工藤君とスマホの連絡先を交換した後、

「じゃあ、また後で連絡しようか」

「はい」

 

 電車に乗った後、緑川さんは、俺の肩にずっと頭を載せたまま十二駅乗っていた。もうすぐ着くところで

「あっ、ごめん。寝ちゃった」

「いいですよ」


「じゃあ、またね」

「はい」

 工藤君の乗った電車が走り始めた。彼との運命分からないけど初日は上手く行けたかな?


―――――


 緑川さんとのプールデートは爽やかに書きたかったけど、力量不足を痛感!


投稿意欲につながるので少しでも面白そうだな思いましたら、★★★頂けると嬉しいです。それ無理と思いましたらせめて★か★★でも良いです。ご評価頂けると嬉しいです。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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