第25話:ヴァルゼムとの戦い・中編

「〈叩き割り〉!」

 ヴァルゼムが大胆に踏み込み、大上段から渾身の一撃を放つ。


『!』

 持ち前の瞬発力と反射神経で回避する。


 その一撃は、ヴァルゼムの尋常ならざる筋力に大剣の重量が相まって、地面を抉るほどの威力であった。


 だが同時に、剣が地面にめり込んだ今こそが、千載一遇のチャンスであると確信した。

 長剣ロングソードで素早く斬り込む。

 躍るように側面に回り込んで、狙うは急所。剣を振りぬいたあとの体勢では、防御が難しい首。


「〈バニッシュオフ〉!」


 必殺の一撃――である筈だった。

 だが、刀身を半ばまでにめり込ませた大剣を、あろうことか地面をも切り裂いてそのまま振りかざし、受け流される。


 絶好の機会だと思っていたが、いまや体勢を崩したのはこちらだった。


(こうなることを読んでいたのか?)


「〈竜滅――〉」


 ヴァルゼムは大剣を片手で持ち、もう片方の手で刀身を掴み、下から上に振りぬいてそのまま跳躍した。


『ぐっ―――!』


 胴に受けたその一撃により、魔力で竜鱗を再現した鎧、〈不壊の鎧エヴァーラスティング〉とはいえ、その衝撃を殺しきれない。

 いや、この攻撃は――


「〈――破断〉!」


 ヴァルゼムは跳躍したあと、大剣ごと身を翻してそのまま剣を振りかぶる。


 その攻撃は剣撃によって浮き上がってしまった胴を正確に捉え、正中線に沿うように打ち下ろされた。

 咄嗟に剣で受け止めるものの、全身に痺れがくるほどの威力だった。


 そのまま地面に叩きつけられ、背中から衝撃が走る。

 剣で受け止めて致命を免れたものの、長剣がギリギリと悲鳴を上げ、黒く輝く大剣が迫ってくる。


(なんだ、これは……)


 先の攻撃は剣の威力だけではない、説明不能のが威力を底上げしているようだ。

 これが、「技」というものなのだろうか?

 本来は剣を用いない、竜の自分には分からない。



「終わりだ。竜の化身よ」


 ヴァルゼムは傲岸に見下ろし、断言する。


 ――敗北だ。

 剣を使った戦闘で、この男は倒せない。


 だが。


『私には――使命がある!』


「なに?」


『〈赤のルベル羽衣ストラ〉』

 古代の竜のみが持ち得る〈竜魔法〉の一つ。


 周囲に張り巡らせた魔素マナを自身に集め、凝縮し、爆発させる。

 視界一面に広がる白。


「ぐぅっ!」



 この〈竜魔法〉は一瞬で発動できる上に高威力。

 だが、代わりにしばらく〈焔のオーラ〉が消えてしまい、自身の強化がなくなる。

 さらに、〈赤のルベル羽衣ストラ〉の発動により、ついにこの世界で活動するための結びつき――魔力が無くなってしまった。


(すまない、盟友。あとを頼む――)



 §§§§§§



 全身を覆い尽くすような灼熱の感覚。

 薄れていくソニア嬢の顔。


 寸前の記憶はこんなところだ。



 いまは、なんだろう。

 視界が、妙に白い。



 徐々に周囲の風景が赤みを帯びてきて、それが粒状の粒子となって雲散霧消していく様をまじまじと見つめる。


 なんだこれは。魔法の炎か?


 なんか、背中にゴツゴツとした感触を感じる。

 ひょっとして寝てるのか?外で?


『盟友よ』


 そんな声が聞こえた気がした。

 脳の奥――というか、耳朶に触らないような、妙な声。



「あの、赤い竜か……?」


『〈この世ならぬもの〉だ、奴らがすぐそこにいる。攻撃されるぞ』



 ……は?

 相変わらず、何言ってんの……?



 当惑すると共に、抜き差しならない状況にあるということはすぐにわかった。


 赤白い粒子が消えていくと共に、俺を見下ろす大きな人影が見えたのだ。

 手には、途轍もなく大きな剣を持っている。


「貴様……よくも……」


 声からして、壮年の男のようだ。

 低く、それでいて力強い響き。

 しかも、なんかよくわからんけど敵意に満ちた声色。恨みを買っていることは明白だった。


 考えるより先に飛び起き、腰に佩いていた剣を引き抜いて構える。



「そのような手品で、この俺を殺せるとでも思ったか!〈大強撃〉!」



 咆哮と共に、力任せに剣が横薙ぎに振るわれる。


(えっ、なんだなんだ)


 未だ困惑はしているが、それでも身体に染みついた特殊能力スキルは俺を裏切らなかった。


「〈バニッシュオフ〉!」



 大剣の一撃に合わせて、剣を縦に打ち払う。

 何とか大剣の軌道は逸らせたものの、信じがたい衝撃が腕に、そして上半身に伝わってくる。


(めちゃくちゃ強い!特殊ポータルのネームドモンスターなんかよりずっと!)



 理由や過程はよくわからないが、話が通じないであろうことは、男の声でわかった。

 誰だかわからないが、反撃するしかない!


「〈七星破衝〉!」


 分身を形作って敵を取り囲み、同時攻撃する剣技〈七星破衝〉。

 この剣技はかなり剣を使い込まないと覚えられない、剣技の最終スキルだ。


「なに!」


 大男が驚愕している。


〈七星破衝〉の優れている点は、剣技の中でも最大威力を持っている事。

 そして、反応系スキルでの防御が出来ないことにある。



「ぐはぁっ!」


 前方、側面、背後からの同時攻撃。

 普通の人間が同時にここまで攻撃されれば、成すすべなく死ぬものだ。



「どういう……ことだ。貴様……今まで手加減をしていたとでも言うのか……」



 死んでいない。


 どころか、憎悪と闘志を更に漲らせている始末。


 ようやく、霧のような粒子が晴れていく。

 大男の顔が見え、俺と大男は共に驚愕の表情を浮かべた。



「……まさか……ヴァルゼム……?」

 なんで〈ウィズダム戦記〉のラスボスがこんなところにいるんだ?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る