第10話
「あっちゃぁ・・・・食えるもの、なんも無いや」
月代が目を覚ますと、既に起きていた陽太が寝ぐせの付いた頭を掻きながら困った顔をしていた。
陽太のこのアパートに来たのは、月代は今回が初めてだった。
住所は教えられていたものの、陽太から、このアパートには来るなと言われていたからだ。
昨晩は酔っていたせいもあり、部屋の様子を見る事無く布団に入ってしまった月代だったが、改めて見てみた部屋の中は、散らかってはいないものの、むしろ生活感があまり感じられないような気がした。
「陽ちゃん、自炊してないでしょ」
「ん?あぁ・・・・1人分作るの、めんどくさくてな」
決まりの悪そうな顔を浮かべる陽太に小さく笑いを漏らすと、月代はフードの付いた陽太のパーカーを羽織り、財布とスマホを手に持つ。
「月ちゃん、どこ行くの?」
「近くにコンビニあったよね?なにか、朝ご飯買ってくる」
「えっ、いいよ」
「いいからいいから!ちょっと待ってて」
我がまま聞いて貰っちゃったし。
そう呟いて、月代はフードを目深に被ると陽太のアパートを出た。
「ただいま、陽ちゃん」
いくつかの総菜パンと缶コーヒーの入った袋を手に月代がアパートに戻ると、玄関に、出る時には無かった男物の薄汚れたスニーカーがある事に気づいた。
「陽ちゃん?誰か、来てるの?」
恐る恐る足を踏み入れた月代に、部屋の奥から陽太の鋭い声が飛んだ。
「来るなっ!」
思わずその場で、月代の足が止まる。
「どうしたの、陽ちゃんっ」
「来ちゃダメだっ!」
だが、月代はそのまま部屋と廊下を隔てるドアを開けた。
とたん、強烈なアルコールの匂いが鼻に付いた。
そして、月代の目に飛び込んできたのは、フローリングの床に横たわる父親の姿だった。
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