クリスマス編 君に渡したくて

向こうからひーちゃんが、後ろからは香椎さんがやってくる。

橋の横には白い雪が溜まる川にかかる歩道橋。

その真ん中で俺は立ってる。

少しだけみぞれ混じりの濡れそうな雪が降ってくる。

冷えるし濡れるし早く家に帰った方が良い。



ほぼ同時にふたりが真ん中に来る。

香椎さん?折角家帰ったんだから歩きやすい靴か服に着替えたら良かったのに…?

何か大きな箱を持ってる?

…ケーキ、クリスマスケーキだ?

なんかわかっちゃった。

去年の事を思い出しちゃうけど…もう意地なんて張らない。

もし頂けるなら喜んで受け取ろう。



さて、、ひーちゃん?

ひーちゃんはサンタ帽をかぶって何かを担いでる?


ひーちゃんはえへへ!って笑うと、



ひー『かしちゃんさきにどうぞ?』


香椎さんは微笑みながら首をかしげると、


香椎『ふふー!サプライズ!

玲奈サンタからクリスマスケーキのプレゼントだよ?』


お爺さんの声真似をしてるんだろうけど…ただの香椎さんなんだよね…。

昔から香椎さんは何でもできるけど声真似だけは全然似てない。


ケーキも箱はずしりと重く、大きなケーキなのかな?

嬉しい、絶対美味しい…!

俺どうしよう、何も返せない!



香椎さんは笑って、


香椎『ケーキ作ってるから気にしないで?喜んでくれたら嬉しいな!感想は聞かせてね?』


いつもながら惚れ惚れする綺麗で可愛い最高の笑顔に目が奪われる。

俺…。

ぽんぽん!ひーちゃんが俺の背中をたたくよ。



ひー『にいちゃん!はい!これでしょ!』


ひーちゃんは俺を屈ませると自分の真っ赤なサンタ帽を被せる。

そして香椎さんに、担いでた物?俺のカーディガンに何か包んでる?中身を取り出す為、俺のカーディガンを香椎さんに渡して取り出した中身をそっと見えないように俺に手渡す。


ひーちゃんはニパって笑うと、香椎さんに向き、


ひー『かしちゃんだけじゃないよ!うちのにいちゃんもサンタさんだもーん!』


ぼくかえるよ?って言ってひーちゃんはジュース2本抱えてヨタヨタしながら歩道橋から降りていく…。

いや、戻って来た?


ひー『にいちゃん、ぼく2ほんはむりだった。

ねえちゃんよんで?』


電話したら2分で望は来た、


望『お邪魔しましたー?』


ジュース2本と香椎さんのケーキをほくほく顔で望は持って帰る。

目が爛々としていた…家に帰ったら追求されるな…。


香椎さんはニコニコ微笑ましいって表情で望やひーちゃんを眺めていた。

香椎さんはケーキ渡したし、みぞれになりそうだから濡れちゃうね?私そろそろ帰るね?

メリークリスマス♪って言って、俺のカーディガンを羽織って帰ろうとする。


うん?それ俺の服…?

いや、今はそれどころじゃ無い。

なぜこれをひーちゃんが知ってる?


俺は冷や汗をかいていた…。


俺の様子に訝しげな表情の香椎さん。

そうだろう、急に俺が黙り込み、震え出したんだから…。


俺はを買った時のことを思い出す…。

※201話 お金の使い道 読んで頂いてからの方がこの先楽しめます。


☆ ☆ ☆

初めてのバイト代が出た時、俺は景虎さんに金の使い方は人間性だって言われ、さらに景虎さんはお前は何に使うって問いを投げかけた。

…俺はまっさきに思いついた。バイト代で家族にご馳走したい!

喜ばせて、どんな場所で働いてるか家族に知らせたい!って家族を俺カレへ招待してご馳走したんだ。


景虎さんはお会計結構負けてくれて、


景虎『お前の勝ちだ!』


なんてバカをやりつつね?

俺の手元に3万残った。


…でもさ!初めてのバイト代で何を買う?

俺の頭に最初に浮かんだのは家族と…玲奈さんだった。

彼氏が居るって噂で聞いた。(当時)

諦めなきゃって何度も思った。

でもこないだ突然再会出来て、一目見たらやっぱり…。

自分の気持ちを無心に見つめる。

恥ずかしいとか人の目がとか釣り合うとか俺なんかがとか完全に無視して出た答えは、


『玲奈さんに何か贈りたい。』




俺は卒業式で玲奈さんから逃げた。

それで忘れようってしたけど香椎玲奈を忘れることなんて出来なくって。

色々悩みつつも俺はフラフラとバイト代を持って生まれて初めてエイオンモールの宝飾店へ入る。

何故だろう?アクセサリーが良いんじゃないか?って思った。

高校生になったから?もう子供じゃないから?


俺は宝飾店で自分が子供だと思い知らされる。

まず客層大人!値段もすごい大人!


一応一万自分で足して約四万持って行ったんだけど…。

四万で買える物なんて置いて無くて…

(探せばあったのかもしれないけど。)


俺は慌てて、モールのもう少し若いジュエリーショップへ恐る恐る入ってみる…ダメだ…なんか違う…。


ゴージャスなお姉さん店員が話しかけて来る!怖い!

でも、俺にはどうしようもないだろ?

なら聞くしかない!

これはきっとバイト初めて人と接する事を学んだからだと後で思った。

前なら声かけられたら大丈夫です…とか言って逃げてた…。


かくかくしかじかで…。

俺は恥を忍んでお姉さんに打ち明ける、女の子に初めてプレゼントする事、予算がこれしかない事、どうしたら良いんでしょうか?と。


お姉さんはため息をついて、


お姉さん『こうゆうのキュンってくるわー。

うちはゴールドや宝石入ってるからお値段的にどうしても無理だと思う。

でね、この先の曲がったとこのシルバーアクセの店の派手なお姉さんにうちに紹介されたって今の話したらきっと良いの見繕ってくれるよ。少年がんば!』


俺はお礼を言って、言われた通りシルバーアクセショップへ行き、派手なお姉さんにその旨話す。


お姉さんは親身になって色々出してくれた。

シルバーって銀?銀も貴金属か?

さっきの18金や宝石付きに比べればまだ…なんとか…。

本当は前みたいにバレッタ的な物ならいつも身につけられるし良いんじゃないか?って思ってたんだけど、そうゆうのはすっごい高いらしい。

そっか、貴金属だからいっぱい使えば値段が跳ね上がるのか!

ピアス?耳に穴開いて無かったような?指のサイズ?わかりません…。

お姉さんはネックレスをおすすめしてくれた。

俺はそんな事もわからない。

高校生になってバイトを始め、自分でなんでも出来る気でいたけどこの買い物は俺は子供なんだって俺に知らしめた。



お姉さんは派手な見た目だけど親切で優しくて伊勢さん大人になったらこんな風になるのかな?って思った。


俺は迷惑なことに時間をかけて有名ブランドのティハニーのシルバーのネックレスをチョイスした。

中でも結び目をモチーフにしたスッキリした綺麗なデザインのネックレスが気に入った。玲奈さんが着けるのを、喜んでくれる事を想像しながら…。

お姉さんは新しいデザインだけどきっとこれから定番になっていくデザインだよ!って。

そしたらギリギリ足りない…。

俺は恥ずかしくて、情けなくって真っ赤になりながら謝って出直そうとする…。


お姉さんは笑って、


『いいって、それ位!

初めての彼女へのプレゼントでそこまで真剣に、必死な男の子はなかなか居ないよ。お姉さんがおまけしたげる。秘密だぞー?』


イタズラっぽく笑い、お姉さんは小箱を綺麗にラッピングしてくれて、紙袋に入れてくれた。


買った直後は高揚感があった!

…でも、帰り道不安になってきた。


なんて言って渡す?どうやって渡す?

そもそも彼氏居るじゃん…。

俺早まったかも、でも香椎さんが幸せならそれで良いだろ…。

でも、でももし、これを贈って何かきっかけで俺を思い出してくれたら嬉しいなぁ…。


当時はそんな事を思い悩んでいた。

数日後、稲田さんたちがクラスで喋っていた内容に俺はさらに不安を煽られる。



『男のプレゼントでさあ、定番贈るやつだっさ!』

『わかりみ!シルバーとか贈ってくるやつな!

しかもめっちゃ細いやつw』

『うち、シルバーは金属アレルギーが…!』

『ハートとか翼とかだっさいやつとかな!』

『手入れめんどいんだから金で贈って欲しいー!』

ぎゃはははは!



俺は震えた、

大丈夫、翼やハートでは無い…。

シルバーダメなの?!手入れ?手入れ要るの?!

定番…これから定番になる良いデザインだよ!って言ってた…。

香椎さんって金属アレルギーあるのかな?

ああ、俺ダメだ。



帰り道、ぐるぐる色んな事が頭の中を回る。

お姉さんだって商売だ…そりゃ薦めるだろ?

シルバーってダメなのかな?手入れ要るのって知らなかった。

そもそも連絡先も知らない間柄でプレゼント…しかもアクセサリー…。


俺は自己嫌悪に陥った。

部屋に戻り、買ったネックレスの入った箱を手に取る…。

これどんなだっけ?

結び目をモチーフにしたネックレス…俺なりに悩んで1番良い!玲奈さんに似合う!って選んだネックレス。


…包装を破って中を確認したい衝動に駆られる。

これで良いのか?本当に玲奈さんに贈れる物なのか?

俺の中のネガティヴが騒ぎ立てる。


渡す予定なんか無いし、渡さない方が良いのかもしれない。

それでも俺は買わずにはいれなかった。

いつ渡す予定も無く『それ』は机に仕舞われる、いつか日の光を浴びるのを『それ』は待ち続けてる。


☆ ☆ ☆


…はずだった。

それが、今、小さなサンタの手から俺に手渡された。


玲奈さんがジッとこっちを見てる。

訝しげに、気遣わしげに俺を見てる。

何か持ってる事は察しているんだろうけど、言葉も発せず黙って見てる…。



俺は何か言わなきゃって思うほど、言葉は喉でつっかえる。

思いが、言葉が出口を求めて暴れてる。


『おれ…。』


『うん、』


玲奈さんは優しく微笑みながら待ってくれてる。


『俺さ、こないだ話したけど…バイト始めたんだ…。』


『うん、聞いた。偉いね?』


『それでね、最初に貰った、初給料で、

…家族に、バイト先…バイト先はカレーとハンバーグの店で…』


俺は、あたまがいっぱいいっぱい。

しなくてもいい説明をしちゃう、そこから話さなくって良いでしょ!ってとこから話しちゃう。


みぞれも降って寒い時間、橋の上は寒さとみぞれで人は全く通らない、

でも、玲奈さんはちゃんと俺の目を見ながら、

うん、

うん、そうなんだね。

嬉しかっただろうね?

優しいお兄ちゃんだね?


玲奈さんは話を聞いてくれる。

もっとコンパクトに話しまとめて!俺!

それでも、さっぱり話しはまとまらない。

それでも、やっと本題へ入れた、



『それでね、俺、家族にご馳走と一緒に浮かんだんだ…。


「玲奈さんに贈り物がしたい。」』


玲奈さんが息を呑み、手を口に当てる。


『…そうなんだ…。』


玲奈さんは恥ずかしそうにちょっと俯く。

すぐにっこり笑ってまたこっちをそのキラキラした大きな瞳で見つめる。

…俺はその大きな瞳が直視出来ない…。

「これ」にそんな価値があるのか?

玲奈さんは優しく、思いやりのある娘…彼女の負担になるんじゃないか?

迷惑じゃないか?



俺はまた、言葉が出ない、また喉でつっかえる。

苦しい、苦しくてたまらない。


玲奈さんは、優しく、


『いいよ?承くんのペースで話して?

きっと一生懸命だったんだよね?

聞かせて欲しいな、どんな事があって、どんな事を思ってたのか?』



俺は、ポツポツ語り出す、

中学校の卒業式で逃げたこと、

玲奈さんを忘れようって思ったこと、

玲奈さんに彼氏が出来たって聞いたこと、

忘れる為、自分を変えたくて、大人になりたくてバイトを始めたこと、

さっき話した部分だけど、

その初給料で家族にご馳走と「香椎さんに何か贈り物がしたい」って思ったこと、

その為に初めて宝飾店やジュエリーショップへ行って自分が子供だって思い知らされたこと、


一生懸命、一生懸命に「これ」を選んだこと…。



玲奈さんはうんうん頷きながら全身で聞いてくれる。

気づけば日は落ち始め、薄暗くなってきた、玲奈さん薄着!帰さなきゃ!


『ううん、承くんの話しを最後まで聞きたい!』


玲奈さんは続きを促す、

でも、もうわかるでしょ?

玲奈さんの視線は俺の目と手元を行ったり来たり。



ひとつひとつは綺麗な色だった感情が混じりあい、汚れた色になっていく。

俺は香椎玲奈に嘘がつけない。



俺の手の中の小さな箱は何度も何度も眺めていたけど、なんか買った時より光沢が薄くなり、ひーちゃんが紙袋から取り出して、俺のカーディガンに包んで持ってきた。

「これ」はみぞれの水滴を含んでしまい、

薄暗くなった歩道橋のライトの下で見るとより一層、薄汚くみすぼらしい。



俺は悲しかった。

「これ」は当時俺が一生懸命バイトした初めての給料で買った物。

一万足したけど俺史上では1番高い買い物(当時)

その後、俺が望テニス道具一式に10万ぶち込んでるのを玲奈さんは見てる訳で。

俺の精一杯なのは間違いない…なのに俺は好きな娘に、子供の頃からずーっと憧れてた娘に、こんな物しか贈れない…。


玲奈さんは優しいから

「これ」をじっと見つめて待ってくれてる、

俺の憧れのお月様は今日も綺麗で可愛い。

ドレスアップして、それはもう絵にも描けない美しさ。


俺は気づく、玲奈さんの胸元…

マフラーで隠れていた物。

薄暗いライトに照らされてるのに燦然と輝くゴールドにルビー…だと思う…ジュエリーショップで見たもんこうゆう奴…



なんて綺麗なネックレスを着けてるんだろう…。

香椎玲奈に負けない輝きと品を感じる眩いばかりの美しさ。

正直高校生の着ける物じゃ無いでしょ?薄暗い中キラキラと信じられない程輝くまさにジュエリー!


それを見たら尚更、手の中にある「これ」がひどくつまらない物に感じる…。


俺は、悔しくて、悲しくて、自分が小さく、子供で無力だって痛感させられる…。





気づけば、俺は泣いていた。

泣きながら、



『玲奈さんに、俺、ずっと、ずっと渡したくて…、

でも、俺の力じゃ、俺じゃ足りなくって…。』



最後は声にならなかった。



俺はやっとわかった。

この贈り物の一連の葛藤は結局、


この世界で1番綺麗なこの娘に喜んで欲しいだけだったんだ。

俺には力もお金も地位も無いそんな俺がこの娘になにが出来る?



それでも、これが俺の精一杯だった。カッコ悪くてカッコ悪くて情けなくって俺はもう玲奈さんの顔を見れなかった。


あんな素敵なネックレス持ってたら「これ」は必要無い。

俺は一度差し出しかけた「これ」を謝って引っ込めようとした。



きゅっ。



その手を玲奈さんが握って離さない。

玲奈さんも泣いていた。



『もうこれ私の!「これ」はもう私のだもん!

返せって言われてももうダメー!』




泣き笑いの顔で玲奈さんは去年と同じセリフで俺の手を両手で握って手の中にある、「これ」をそっと奪い取った。


☆ ☆ ☆

ごめんなさい、収まりませんでした!


玲奈『私、まだ言いたい事あるよ!』


次回クリスマス編最終回!

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