第255話 悲しい夢

顔を真っ赤にして紅緒さんは言い切った。


『…でもね、あそこで

募集したから、真面目で誠実な頼り甲斐のある男の子が私の所に来た!

承くんが来てくれた、無駄じゃなかった!』


顔が火照る、こんなに好意をあからさまに伝えられる事なんて無かったから。

暴力的なまでの魅力で殴りつけられる。



紅緒永遠の失われたって言ったら語弊があるけど、病気時代の話は重く、悲しみに満ちていた。

その中で彼女の見出した夢は、


紅緒『私の夢は赤ちゃんを産みたい。』


真っ赤になって俺の目を見て言う…。

凄まじい破壊力…。



紅緒『それが1番の夢。

最初の話、その為なら体育祭や文化祭、修学旅行や卒業式のイベント。

友達やクラスメイト、彼氏。思い出、なにもかも諦められる。』


紅緒さんの顔は凄みのある美しさ。

覚悟、決意の表情。


紅緒『もし、妊娠したなら…中退だってありうる。

そうゆう…行為…もごもご。

…それだって許しちゃう…。』


真っ赤になって真面目な顔で言うとわんこ。


紅緒『だって!赤ちゃん作るってことは!そうゆうことでしょー!

承くんは知らないかもしれないけど!赤ちゃんを作るにはね!』


『女子高生が声高に!赤ちゃんの作り方解説しちゃダメ!!

そんな焦らないで!』


流石に俺は口を挟む。


真っ赤になってたり、真面目な顔だったり紅緒さんも限界でしょ!

もう、わかったから!


そして、1番気になってた事、知りたいが知りたく無い事が紅緒永遠の口から飛び出した。



紅緒『…私の時間がどれ位あるのかわからないの。

病院を退院時、先生に懇願して聞き出した再発する確率が…

大体身体のピークを迎える25前後までの心臓の疾患再発率が約30%…。』



30%?!思ったより高い。

紅緒さんは暗い目をしながら続ける。


紅緒『身体の衰えが始まる30代の後半になると40%…。50前後で約50%って言われてるのね…。』


年をとるほど再発率が上がる?


『そんな…。』


俺はその無慈悲な確率に寒気が止まらない。

3割再発するって聞いたら平常な心で生きられるか?

そこからさらに確率は上がっていく…。



紅緒『再発すると半分位は三年前…そろそろ四年前か?みたいになるし、再発すると症状は重く、リハビリ困難でもう心臓移植しか無くなっちゃう。

残りの半分は再発すると死んじゃうって。

はは!降水率30%で?雨降ったらまたあの地獄みたいな暮らしか即死なんだって。

降水率30%の雨で洗濯物濡れたら死亡!みたいな感じかな?パラパラ雨だったら寝たきり?』


紅緒永遠の1日は…そんなに重いのか。

せっかちだと思ってた。

次の日に仕事が持ち越せない。

今日出来る事は今日しよう!

ロインなかなか終わらない。

今思うとそうゆう心情から来てたんだ。



紅緒『だから、赤ちゃんの為なら、子供を作る為なら私は何でもする。

…最初は誰でも良いと思った。

私は不良品。

見てくれは良いけど保証どころか明日にも壊れるかもしれない保証の無いジャンク品。

だから変な募集もするし、誰でも良い。

…でも、私が死んだ後、子供をちゃんと育てて、子供をパパやママに会わせてくれて、私の家族のパパやお兄ちゃんたちに報告してくれる人。

…私が死んでも…覚えててくれる人…誠実な人が良かった。』



泣きながら紅緒さんは続ける、早く産むほどリスクは減るし長く一緒に居られるでしょ?

出産だって若い方がリスクは少ない…でも、心臓や血圧の関係上、帝王切開になっちゃうだろうから傷跡は残るからそこはごめんって。



紅緒『でもね、私は信子ちゃんのマンガみたいにクールでかっこいい王子様なんて必要としていない。

私を愛してくれて、子供を愛する頼れる男の人が良いな。

私は赤ちゃんが欲しい、出来るなら好きな人の赤ちゃんをこの世に残して逝きたい。』



切ない表情で訴える紅緒さん。

赤ちゃんが欲しいって…まさか15でそんなセリフを聞くことになるとは…!

まだえっちい事どころかキスした事ない俺にとって赤ちゃんを作るって!

高校生だよ?さすがに色々情報は…でも、俺は…!






紅緒『子供の為なら、私は何でもするし、なんだって捧げる。

…私が出来なかった事を託しちゃうけど、私の分まで幸せに長生きして、私の家族に私が出来なかった事を…。

私はパパママに親不孝しかしてこなかった娘、せめて…。』



泣きながら高校生の女の子が自分を責めて、自分がダメでも、赤ちゃんが私の心残りを、自分が出来なかった事を子に託す。

よく聞く話ではある、プロに育てる、英才教育を施す、子供の頃からそれだけさせる。など。

紅緒さんのはちょっと違う、自分が両親に味合わせられなかった幸せな親子時代を、入学式や卒業式などイベントを、自分ができないかもしれない親孝行を子に託したいと。

悲しい夢それが率直な感想だった。

その為ならこの綺麗な娘は命すら投げ出す覚悟だ。


紅緒『だからね、出来たら私を…見て欲しい…。

すぐ死んじゃう可能性のある女の子なんて重いし後味悪いし事故物件なのは自分だってわかってるんだ。


…でも、見た目だけは良いでしょ?

みんなが褒めてくれる、私を好きにして良いよ…?』



ぞわ!って感じるエロスと迫力!

でも、俺はそんな事できない。目を見てしっかり言う。


承『…でもさっき言った通り、俺好きな子がいるから…。』


紅緒『…わかってる。

でも、付き合って無いんでしょ?

だから少しだけ私をみて欲しい。そんな顔向け出来なくなるような事はしない。

一年、一年友達以上の女の子として見て欲しい。』


俺が躊躇してると、

もう、こんな可愛い子が好きにして良いって言ったら性欲ケダモノの男子高校生ならかぶりついてくるって思ってたのに…って紅緒さんは呟く。

性欲ケダモノって…。

紅緒さんはやれやれって顔はするがやっぱりね?って目をして俺にお願いする。


紅緒『じゃ!じゃあ!最後に、一個だけお願い!

さっきひーちゃんに聞いた。

ひーちゃんの胸の傷跡を兄ちゃんが褒めてくれた!って言ってた。

…私も、手術痕…すごく気になるし、恥ずかしい…。

ひーちゃんにしたようにしてくれないかな?おねがい!』



えー?!まずい。それはマズい。

だって、俺、ひーちゃんの胸の傷に…ちゅってした…!

175話 人と違うってこと 参照。



紅緒さんは恥ずかしそうに、俯いたまま、紺のブレザーをしゅるりって音をたてて脱いだ。

あ!止める間も無く、首のリボンタイは付けたまま、ブラウスのボタンを外していく。

ちょっと何してるのかわからない…!


ほんの数秒で、ブラウスの前部分は全開になり、首元だけリボンタイで締まってるけどもう一度言うけど前全開。

薄暗い室内でもわかるほど真っ赤になり、目を逸らして腕を前で組んでブラジャーを見せないようにしてるけど半分位は見えちゃってる…。

水色のフリル付いてる…。


紅緒さんは細いからよくわからなかったけど細いわり盛り上がっていて、小さいながらも主張はしている…。

ダメ!目をそらせ!



紅緒『やっぱり…こんな傷跡ある女の子なんて…嫌…だよね?

はは、わかってはいたんだ。

前にクラスの女子が言ってた。男の人はナイーブだから、傷跡やタトゥーで勃たなくなることあるらしいよって…。』


紅緒さんは悲しい顔で俯く。

勃たなくとか言っちゃダメ!ってツッコミも出来ない。


うちのひーちゃんもコンプレックスだった。

友達に手術痕がぐちゃぐちゃだ!とか言われて。

…俺は…。



俺は意を決して、言う。


『ひーちゃんと同じ事して文句言わないでよね?』


紅緒『え?ひーちゃんに何したの?』


紅緒さんは少し怯むけどもう、気にしない。


やるなら照れずに堂々と!ひーちゃんにしたように!


『紅緒さんのこの傷痕は紅緒さんが頑張った証拠なんだよ。

大きな大きな手術だったんでしょ?

死んじゃうかも?!って家族も家族の様な社員さんたちも心配したんでしょ?』


続ける。



『紅緒さんの心臓は人とは違うかもね。

でもすっごく頑張ってくれてる心臓で紅緒さんとリハビリ頑張りながら一緒に生きてきた、頑張って手術した印がこの『傷跡』なんだ。

…もし紅緒さんが居なかったら高校生活きっとつまらなかっただろうね。』


紅緒『…うっ、うっ承くん…。』


紅緒さんは泣き出した。


『だから知らない人が見たらただの傷だけど俺たちから見たら、これは、

『紅緒さんが頑張った印』なんだよ。

紅緒さんは頑張ってる!頑張りわんこ!』



紅緒さんのはだけたブラウスから見える胸部に残る大きな手術痕。

おっぱいよりは少し上、でも小さな谷間を見ないように、

俺はその傷痕にチュッてキスをする。


『紅緒さんの心臓ありがとう、頑張ってくれてる。

紅緒さん超傾いてる!俺さっきの告白超揺さぶられたもん!

紅緒さんは魅力的な女の子だよ、自信持って。』


紅緒さんは目をキラキラさせながら、


紅緒『え?じゃあ?』


『ひーちゃんと同じにしただけ。

…嘘は絶対についてない。

調子に乗るなとわんこ。』


俺は恥ずかしくって恥ずかしくって紅緒さんの目と胸元見れないよ!


紅緒さんはにへらって笑うと、



紅緒『承くんのそのリアクションなら私の魅力は通用するって事だよね?

ふふ!

見ててね?私の魅力絶対わからせてやるんだから!』



恥ずかしそうに胸元を直すと本当に花の様な笑顔で俺の目を見ながら言い切った。


紅緒『じゃ、一緒にグラウンド戻って後夜祭楽しもう!』


『え?こうゆう時って別々に行かない?』


紅緒『私の告白断って、私が粘って保留にしたって皆に説明しないと承くんボコされるよ?』


『確かに…。』


結局いつも紅緒さんに巻き込まれてしまう。

俺だけじゃ無い、クラスのみんなも知らないうちにこの花を中心にクラスが回っている事に気づいただろう。


俺と紅緒さんの決して恋人ではない新たな関係が始まる。

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