第254話 見つけた夢【side紅緒永遠】

そんなわけでさ、一時帰宅から戻ったらおばあちゃん亡くなってた。

訳わからなくて一度病室出て名札確認したけど間違いない。


ベッドの布団が取り払われて、お花が、菊の花束が置いてあったんだ。

慌てて看護士さんに聞いたら亡くなったって知らされた。

私は受け入れられなかったけど、手を合わせて、冥福を祈る。


2人部屋だけど、今はおばあちゃんだけだったから部屋はがらんと何も無い。

あるのは空いてるベッド二つと菊の花束。

私はその花束を見つめながらおばあちゃんを思い出す。


次の日、リハビリなど日課をこなしてまたおばあちゃんの部屋へ行く。


変わらない、花束があるだけ。

次の日も変わらない。

…ううん、変わっていくものがある。


毎日、毎日花は色褪せ、乾き、萎れて行く。

その日私は気がついた。


『この花は私だ…。』


おばあちゃんが褒めてくれた花。

でもそれは限りのある命を燃やして咲く花。


私はいずれこうなる…。

このカラカラに枯れて、色褪せ、萎びた花に。

毎日、枯れていく花束を見つめた。



次の日、花束は無くなっていた。

もう、私は病室へ行かなくなった。


それでも、考える、考える、考える。

何が望み?何がしたい?なにをしたら?



ある日、私は三度目の一時帰宅に備えて注意事項などを聞いていた。

もう冬になる。

倒れてから三年になろうとしていた。


その日も日課をこなす。

そしてその時が来た。



『ばぁぶ!』


家族のお見舞いに来たお姉さんが赤ちゃんを抱いて、通り過ぎる。

赤ちゃんは愛らしく、こっちを見てケラケラ笑っている。


(可愛い!赤ちゃんきゃわわ!)


私だって女の子だもん、いつか大好きな人と結婚して、赤ちゃんを産みたい!

…産みたい…。



私は唐突に気づく。


私は女だ。

私は赤ちゃんを産める…。


人は子を成して次世代へ繋ぎ続けてきた…。

下腹部に手を当てる。なんの取りえもない貧相な身体でも、生理はある。

…私は死ぬかもしれない、でも、子供を産めば次が、夢は広がる!


私が死んでも、子供が居たら、私の面影を見つけてくれるかも?

私が出来なかった、体育祭、文化祭、遠足、卒業式、ママやパパに見せてあげられるかも?


赤ちゃんに押し付けるって訳では決して無い、でも忘れ形見が居たら、みんな寂しく無いし、また夢が見れる!


私の、ママの悲願を私の赤ちゃんが叶えてくれるかもしれない…。

私が死んでも赤ちゃんひとり産んだら引き分け!ふたり産んだら?2倍だよ?

え?何がって?可能性だよ!


私には夢が出来た。


私はもう、迷わなかった。

毎日精一杯出来る事をこなす。あと綺麗になろうって思った。

まあ、見てくれは良い方だったから?栄養をしっかり摂って、髪や肌をケアし始めた。

1日だって無駄には出来ない。

砂時計の砂は数えきれないほどあるように見えても間違いなく一粒一粒落ちていく。

私に明日があるとは限らない…。


こうして、冬が終わり、春になる頃私は病院を退院した。

厨二病とは無縁だったけど、もう中3になる頃だったよ。


承くんが口を挟む。


承『厨二じゃない?』


『うるさいな!』


中3になったけどそんなに変わるでもない。

毎日、リハビリに病院には通う。

週一で診察を受ける。

入院から在宅治療みたいな感じ。

無理しなければ何しても良い。

でも体力は無い。

それでも退院して最初に行ったことは信子ちゃん家へ行き、仏壇を拝ませてもらう事だった。

お願いして部屋を見せてもらい、本棚の大半が空いているのを見てご家族も全部手放したくは無いんだな。わかるなって思った。

そして愛犬イギーと会う。


『イギー…名前と裏腹にマルチーズなのよね。』


そう、全然犬種違うの!…信子ちゃんはジョジョ知らないか…。

モコモコフワフワの可愛い子。撫でながら信子ちゃんはどれだけ君に会いたかったしらないでしょ?って話しかける。

でも、最後は一緒に居れて良かった。


最後にお墓にお参りして、ご家族に別れを告げてママと家へ帰る。

その時に、



信子ママ『永遠ちゃん、また、また信子会いに来てくれる?』


信子ママは泣きながら言った、

ああ、きっと信子ちゃんの両親はまだ信子ちゃんの事が…。

無理も無い。そりゃそうだろう。


『もちろん!でも、きっとここには居ないです。

信子ちゃんは家に帰りたいっていつも言ってたんです。

きっと家か天国か?天国から家を飽きずに見てるんじゃ無いですか?』


信子ちゃん両親は泣き出した。

きっと信子ちゃん両親は私に信子ちゃんを重ねてる。

もちろん、今も年2回は伺ってるんだ。


それからは話したかもね?

リハビリしながら勉強して、マンガ読んで、ゲームして、勉強して。

病院にはかなり高頻度で通院して、時々検査入院して。

でも、家に居れるだけで幸せだったの最初の3ヶ月だけ。

夏位には中学校行ってみたい!って思ってたけど、ちょっと具合悪くて夏にまた少し入院して、秋、冬はまた家から通院。調子は良くなり通院頻度は減っていく。

もうこの頃には今と同じようなスタンスで暮らしてた。

月一回の定期診察、3月に一度精密検査。


家で勉強してても、ゲームしてても、マンガ読んでても、うちの前は東光生が数多く通るでしょ?

だからね、そのお兄さんやお姉さんを観察する機会が多かった。

毎日毎日高校へ通う。

どんななんだろ?色々な表情で学校へ入って行き、夕方になると疲れた!でも満ち足りた顔で帰るお兄さんお姉さん。

私は東光生たちの登下校する姿を見るのが楽しみだった。



私だって小学校へ行ってた。でも中学校は行って無い。

中3の担任若い女性の先生で、そうゆう理由で不登校の私だけど2ヶ月に一度位来て1時間位話していく気さくな先生だった。

中3からは家で中間テスト、期末テストを受けさせて貰ってた。

一応録画して、不正せずにテスト受けてるよ?って証明は出したけど大丈夫!信じてるよ!って笑ってくれた。

そして冬、私は意を決して先生にお願いして、期末テストを学校で受けてみたいって頼んだ。


先生はいいよ!って言って、普通に登校して、みんなと受ける?

って聞いたけど…さすがに敷居が高い…。

中3の冬だよ?完全に人間関係固まってるこの時期に不登校児が…?


流石に私でも物怖じしたよw

土曜の午後、先生は期末テストの採点作業しながら5教科のテストを短時間で受ける。

病院も学校に慣らすためにも良い!って言ってくれたしね。

初めて、中学校の制服に袖を通す。

この日の為にあつらえた物。

両親の前でくるんて回るとパパもママも泣いていて…。

車で送って貰って、中学校に着き、先生に初めて3年の教室へ案内されて試験を受ける。

硬い椅子、冷たい机、知らない匂い。

そうだったな、学校って感じ。


一時から四時までで5教科受けて、途中一度だけトイレ行ってね。

先生は時間短く無い?って聞くけど中3位の問題だったら楽勝だったんだよね。


承くんが唸りながら、


承『紅緒さんが頭良いって時々忘れちゃうんだよね…?』


失礼だね?

それが、学校で受けた初試験。

うん、点数はトップだったみたい。

でも登校しない私一位じゃ納得いかないでしょ?

参考記録程度の順位は記録されなかった。


先生『高校はどうするの?』


別にこだわりなんて無い。

1月下旬に願書を出すんだって。


『今までのテストもだけど紅緒さんは良く勉強してるね?

だから内申重視のとこじゃ無ければ何処でも受かるんじゃない?

まあ、特殊だから要相談にはなるけど。

あまりそうゆうのうるさく無い学校何校かおすすめあるよ?』


あの東光生たちの満ち足りた顔ばっかり思い浮かぶ私の志望校は一つしかなかった。


『私、東光高校にします!』


『東光?近いし大らかなタイプの公立だから受け入れてくれそうだけど…良いの?

もっと偏差値高い高校いくらでもあるよ?』


『東光高校が良いんです。』


先生は笑って頷き、良いんじゃ無い?なんで?って聞いてきた。


私はなんか気恥ずかしいから、


『近いから。』


って、答えると、


先生『流川か!』


って。スラムダン⚪︎ネタってだれでも知ってるね?


そして、冬になり、ここ東光高校を受験した。

…あ!津南くん!入試の時ナンパしてきてた!今思い出した!

まあ、どうでも良いね。


中学校の卒業式は出なかった。

だって全然登校しなかった私がこんな時だけ出てくる資格は無いって思った。

自分の部屋でそんな事を思いながら、

もう一度だけ中学校の制服を着て卒業式を夢想した。


ママは永遠の卒業式出たら泣いちゃう!って言ってた。

そうなんだよね?そうゆうイベント私はしてこなかったんだ。

失った中学時代を惜しみながら、もう私は東光高校への期待でいっぱいだった。

そんな病弱な女の子はなし!



あとは承くんも知ってる話。

世間知らずで、脇の甘い頭でっかちな女の子が不器用で誠実な男の子に助けて貰ってドタバタ一生懸命に毎日を暮らすラブコメみたいな日々のおはなし!



はは!って笑って、

もう一度承くんに向き合う。


それでね?

最初の自己紹介では柄にもなくあがっちゃって?

固い言葉でね?もうこのキャラで通さなきゃ!ってお嬢様のような?クールキャラのような?すぐに地が出ちゃったけど。


そして、私は夢の為、彼氏が必要だった。

私はほんとポンコツなんだ。

そこで真面目で誠実な頼り甲斐のある男の子募集しちゃえ!


…この失策があんなに影響及ぼすとはね…。

私も承くんも遠い目をするよ。



ふふ!私は笑いながら承くんの目を見ながら、断言する。

言い切れ!


『…でもね、あそこで

募集したから、真面目で誠実な頼り甲斐のある男の子が私の所に来た!

承くんが来てくれた、無駄じゃなかった!』










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