第253話 命の花【side紅緒永遠】

※今回も人が亡くなる描写があります。


承くん?そろそろ泣き止んで?

うん、私はそこから真面目に勉強もリハビリも頑張った。


2週間ほどして、信子ちゃんの両親が病棟に挨拶に来た。

私のとこも来てくれて、


信子両親『信子と仲良くしてくれてありがとう、信子はね、いつも永遠ちゃん永遠ちゃんって。病院での話は全部永遠ちゃんだったよ?』


迷惑かもだけど、信子の少女マンガもらってくれないかな?

結構量あるから、ご実家に届けるけど?


私はもちろん頂くと答えた。


私は遺体に対面していない。

だから頭ではわかっているけどイマイチ実感が無い。

心のどこかで現実逃避なんだろうけど、

(本当は騙して退院してて、てってれー!ドッキリ大成功!って出てこない?)

なんて信子ちゃん両親の顔を見ながら空想していた。


信子両親『信子の分まで生きてね?』


(どうやって?どうしたら信子ちゃんの分まで生きれるのかな?)


私は考えた、考えたけどなんにも答えは出なかった。

信子ちゃんはどう生きたかったのだろう?


信子ちゃんの両親と連絡先を交換して、私は病室でひとり考え続ける。


信子両親『これだけ、信子が永遠ちゃんに頼まれたって言ってたから置いて行くね?』

前回参照


ってレトロな少女マンガを置いていった。ママの本だったらしい。

いまいちマンガ読むテンションじゃなくって、積みマンガにする。

私は友達…いや親友…ううん心友信子ちゃんの死が受け入れられない。

現実逃避しまくりjc。

リハビリと勉強に狂ったように取り組む事で目を逸らしていたんだ。



1ヶ月が経つ頃、私はびっくりする。

信子ちゃんの居ない生活に慣れてきてる自分が居たから。


やだ!嫌だよ!

あんなにいつも一緒に居て、なんでも話し合って?

夢さえも語り尽くした唯一無二の心友。

その子が私の中で薄くなっていく、それは薄情で、不義理な最低な事。


なんでだ?私の信子ちゃんへの思いはそんなものか?

私は、信子ちゃんへの思いが迷走してたんだ。


受け入れられない、でも忘れちゃいけない。

そんな矛盾した感覚。


私は積みマンガを手に取る、マンガのタイトルは『ハイカラさんが通る』


時は大正。「はいからさん」こと花村紅緒は竹刀、大槍を握れば向かうところ敵なし、跳ねっ返りのじゃじゃ馬娘。ひょんなことから知り合ったハンサムで笑い上戸の青年将校・伊集院忍が祖父母の代からの許嫁と聞かされる。忍に心ときめくものを感じながらも素直になれない紅緒は必死の抵抗を試みて数々の騒動を巻き起こす。伊集院家に招かれ、花嫁修業をすることになった紅緒だったがそこでも相変わらず騒動を起こしてゆく。しかし、やがて紅緒と忍はお互いをかけがえのない存在と思うようになるのだが、非情な運命によって引き裂かれてしまう。 忍の戦死の公報が届いたことにより、未亡人同然となった紅緒は忍を忘れ去ることなど出来ぬまま、それでも力強く生きる紅緒の姿に読むものは心動かされる。


やがて明らかになる真実。忍を恋慕いつつも、皆の幸せのため紅緒の下した苦渋の決断。そしてその先に待ち受ける運命とはいかに。


日課のリハビリは終わっているから、勉強時間もこの日は返上して漫画を一気読みする。


(信子ちゃんは私に彼女を見たのか…。)


私だってこんな風に、生き生きとハイカラな生き方を選んで精一杯生きたい…。

でも、信子ちゃん…私も同じ爆弾を胸に抱えているんだよ…。


漫画は面白い、生き生きと躍動する紅緒(私じゃないよ?)の笑いあり、涙あり、の感動巨編。

私は8巻全て読破した。

良い漫画は読了後余韻がある。

この後に思いを馳せたり、登場人物を思ったり、読み終わっちゃって寂しくなったり。

そんな私の余韻に浸る指先に何か引っ掛かる。


メモ?


信子ちゃんの字?メモには、






永遠ちゃんへ


永遠ちゃんに初めて会った時、私はこの漫画の主人公の花村紅緒みたいだなぁって思ったんだよ。

しかも苗字が紅緒でしょ?本当にびっくりした!

すごいね、こんな事あるんだね!

永遠ちゃんはきっとこんな風にアクティブで魅力的な女性になるんだろうなぁ。

こんな風にイキイキ、一生懸命に生きたい!

手紙ってなんか恥ずかしいね?読んだら返事ください。


信子より。


日付は亡くなる前日だった。


私は号泣した。

泣いて、鳴いて、哭いて、無いた。



私は死ぬまで生きなければならない。

叶うなら、自分の夢と信子ちゃんの夢。

それは普通の人にとって日常。

普通に学校へ行って?体育祭、文化祭、遠足、修学旅行、卒業式!

そして彼氏。

日常生活の延長にある夢。



私は夢と死の恐怖、この二つを両輪に走り出す。


ただ、どうしてもわからない。

日常生活の夢は健康になって退院したらなんとかなるような気がする。


自分の人生の夢。

自分が満足して、かつ信子ちゃんに会えた時、これやったよ!って誇れる夢。

自分の人生のテーマと言っていい。

私はそれを探し始めた。


秋になり、私に初めて一時帰宅話が出た。

帰りたい!懐かしの我が家!

…信子ちゃんが居たら語りたかったなぁ。



リハビリは気合い入れてやってる、もう自分のことは自分で出来る。

勉強だってしてる、実力テストとか学校から送って貰ってやったけど学力は高い方になっていた。

あとは家に帰って普通の暮らしが出来るか?

まずは日帰りって事になった。

なんだよ、一泊じゃないのかって思ったけど帰れるなら何でも良い。



一週間みっちりリハビリして、注意事項の説明を受けて送り出される。

ああ、我が家…。


家の前ではパパ会社の東光組のガタイの良いおじさま、お兄さんたちがお勤めご苦労様でした!ってね?


…うん、承くん、冷たい目しないでね?

冗談、でもみんな優しく私を迎え入れてくれた。

家は全く変わって無かった。

パパもママも従業員の皆さんも泣いて私を囲んでくれた。


…夢のような一時帰宅はあっという間に終わる。

三年ぶりとは思えない程自分の部屋は落ち着くし、キッチンも広間も玄関も全然変わってない!

変わったのは私を取り巻く環境だけ。

お昼、好きな豚カツを揚げたてで頂き、3時にプリンを2個食べて、夕方ペペロンチーノをたっぷり食べる。

病院の食事は味気ない。家のご飯さいこう!


私の行動をじっと見つめるパパ、ママ、従業員の皆さん。

私はみんなに何も返せない…。

ただ心配かけて、不安や恐怖を与えてしまうだけの厄介娘。

もし、私が健康だったら、もし私が普通だったら。

前にも思ったけど私ほど親不孝な娘は居ない…。



久しぶりに家に帰り、幸せを感じたもの1番痛感した事は自分がいかに家族やみんなに心配をかけて、金食い虫で、悲しませたり困らせたりする常習犯だってこと。



そんなことを考えながらまた病院の自分病室へ向かう。

帰るとは絶対表現したくない。


担当看護士のお姉さんがニコニコしながら言う、


看護士『久々の実家最高だったでしょ?』


『最高。』


看護士『また、ご飯食べて、リハビリして次の一時帰宅に備えよう!』


『ふう、また臭い飯を食う日々か…。』



承くんが呆れてる、


承『なんで反社サイドのコメントなの?』


だからごめんて!暗いのはいやなの!



それでね、その思った事をおばあちゃんに相談に行ったの。

私は信子ちゃんの夢を、自分の夢を探してるんだけど見つからない。

ねえ、おばあちゃん?私どうしたらいい?


おばあちゃんに促されて候補を上げる。

お医者さん…体力が無い…。大事な手術の時倒れると患者さんも死んじゃう…。

看護士さん…やはり体力が無い…。どっちが看護されるのか。

リハビリ関係の仕事も同じ、私の貧弱な体力、腕力じゃ無理だ…。


おばあちゃんは私に尋ねる


おばあちゃん『永遠ちゃんが1番気にしてる事はなんだい?』


『パパやママや私を可愛がってくれる人たちに、何も返せない…。

本当はお返しや良い思い出や楽しいイベントを一緒に過ごしたいと思ってるのに、私は皆んなを悲しがらせるだけ…。

他の子みたいにパパママやみんなを幸せにできない…。』


私は泣き出してしまう、自分の無力さに、自分のせいで皆を悲しませる事に。


おばあちゃんは本当に優しく言ってくれた。


おばあちゃん『子供は親にとって何よりの宝物、可愛くて可愛くて仕方ない。おばあちゃんも子供や孫が可愛くて可愛くて仕方ない。

…確かに永遠ちゃんの卒業式や結婚式とか見せるのは親孝行だけどそれに拘らなくても生きてるだけで、親は幸せなんさ。』


その生きてるでさえ、私は見通しがたたないんだよ…、

啜り泣く私をおばあちゃんは抱きしめて撫でながら何度も繰り返す。



『永遠ちゃんはお花、どんな花になるかな?

こぼれるように咲き誇る、優しい匂いの一輪の花かな?

他人と比べても仕方ないでしょ?

花はそれぞれに美しく匂いたつほど麗しい、

なんでか?それは限られた命を燃やして咲く命の花だからなの。』


泣きながら撫でられ、抱きしめられて私はおばあちゃんに抱きついて寝てしまった。もう中2なのに…。


でも、おばあちゃんの言葉は私のあるべき姿をイメージさせた。

私は花、命を燃やして咲く花。




…なんか恥ずかしいね?

承くん?花らしいね?

もう!からかわないで!?


そして二週間後、私が2回目の一時帰宅を済ませて、宿泊も問題なくこなせる!って証明して見せた!それを報告に行く!きっと喜んでくれる!

おばあちゃん!おばあちゃん?

ベッドには何も無く、横の棚にも何も無くなってる?



…おばあちゃんは昨日の晩、容体が急変して…亡くなったって言われた。

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