第252話 生き様の証【side紅緒永遠】

※人が亡くなる描写があります、ご注意下さい。


そして信子ちゃんの一時帰宅準備が始まる。

リハビリにも自然力が入るよね。

私も頑張って調子良くなれば一時帰宅!って気合い入る。

自然、元気に毎日を過ごしている。

おばあちゃんはニコニコして、元気ね?って褒めてくれる。

元気じゃないから入院してるの!あはは!なんて笑う日々。


自然テンション上がっちゃって、信子ちゃんとよからぬ事を企んじゃう。


『ね、信子ちゃん?違う階に行ってみない?』


信子『…怒られない?』


『ここは5階だけどリハビリ室は2階。

間違ったって事にして?』


やろうって事になった。

ふたりでエレベーターに乗り、3階で降りる。

3階は救急医療の入院病棟で、ここの階にしばらく居たんだけどその頃寝たきりだったからあまり何があるかわからない。

そろそろって廊下を歩き、ナースステーションを目立たないように通り過ぎる。


ここは良く無い。

看護士さん忙しそうで数も多く、すぐ見つかった!



看護士『こら!ダメだよ!

…紅緒永遠ちゃん?歩けるようになったねー!』


担当してくれた看護士さんだった。

ニコニコしながらも怒られた。

ここは忙しい所、救急医療は色んな患者さんが居る。

もし世界的な感染症やインフルエンザとか持ってる人居て、あなた達にうつったら大変!病室へ帰るよ!


私たちはこっぴどく怒られた。

でも、子供で退屈だから、最後に6階だけ行ってみたい。

4階はインフルエンザの院内感染で外部立ち入り禁止になってて入れないのがわかってたから。

またエレベーターで屋上の室内展望台(海しか見えないけど。)へ行くふりして6階で降りる。

6階に同年代の娘が居ないかな?出来たら綺麗なちょっと年上のお姉さん!お化粧とか?ファッションとか?高校生位の知らない世界教えてくれないかな?


信子ちゃんとそんな話しをする。

6階はどの階より静かだった。

ナースステーションに看護士さんは居るけど静か。

熱心にモニターチェックしてるから私達もこっそり抜けれる。



すぐに、理由はわかった。

この階には、お年寄りしか居ない。

病室の入り口で中そっと覗いておばあさんと目が合う!


『こんにちわ。』


おばあさん『…。』


なんで?

暇なのに人来たら嬉しく無い?

次の部屋も、次の部屋もそんな感じか具合悪そうな人が多い。



自然、私も信子ちゃんも気味悪くなって五階の自分達の部屋に逃げ帰る。

気味悪いって失礼だよね、撤回します。

…でも、他の病棟とは違ってた。奥に行くほど暗く、静かで…ふたりとも子供心にわかった。



信子『…こんな事言ったら失礼だけど…長く無いのかな?』


『…うん、待ってる…感じした。』


私たちはこの話しを二度としなかった。

でも、自分達の一階上はあんな世界になってるって思いもしなかった。

『死』を初めて感じた。



そして、信子ちゃんは家に帰る。

入院して三年、初めての一時帰宅!

たった1泊、でも待ち焦がれた1泊。

私は羨ましくてしょうがない。

信子ちゃんもニコニコ!色白の子なのに今日は血色が良い。


信子『お土産に何が欲しい?』


『自由。』


信子『それは外にいっぱいあるけど…。』


『うそうそ、ハミチキ食べたい、久しぶりに。』


信子『あー!良いね、買ってくるよ!』


病院に長く居るとジャンクな食べ物が恋しくなる。

揚げたてのジューシーな奴ガブリといきたい…。

信子ちゃんは羨ましくなるほどのハイテンションで懐かしの我が家へ帰って行った。


明日には帰って来る、でも明日の午後まで1人か…。

つまらない。

おじさま達が差し入れてくれてマンガは多く、それかママのレトロ少女マンガを一気読みしようかな?

私は積みゲーならぬ詰みマンガを消化する事にした。

おじさまたちは私を何だと思ってるのか少年マンガのバトルものばかり持って来る。


『ふむ、お前の血は何色だー!

…日常でも使うかもね?』


おばあちゃん『使うかい?』


珍しくおばあちゃんから来てくれた。

信子ちゃんの一時帰宅で寂しいんじゃないか?って思ってね?

そう!そうなの!



ひとりに飽きてた私はおばあちゃんと話し込む。

おばあちゃんは頭もよく、上品。

きっと若い頃美人で品のあるご綺麗な婦人だったに違いない。

おばあちゃんは色んな話しをしてくれた。

おかげで午後は楽しく過ごせた。おばあちゃんは、


おばあちゃん『…ひょっとしたら信子ちゃんは早く退院しちゃうかもしれないね?そしたら寂しいね?』


確かに、その可能性は考えて無かった…。


『でも、私もそうだけど退院したいよね、信子ちゃん私より長いから。

今日楽しいんだろうなぁ。』


おばあちゃんは優しい目で、私を撫でてくれて、


『永遠ちゃんも早く退院出来ると良いね?』


うん!

おばあちゃんは本当にいいおばあちゃん。

私は次の日も午前がマンガを読んで、午後はおばあちゃんの病室に入り浸り。



夕方、信子ちゃんは帰ってきた。


信子『ただいまー!』


『おかえり。どう?楽しかった?』


信子『そりゃあもう!飼い犬のイギーがね?』


私は渡された冷めたハミチキをモグモグ食べながら信子ちゃんのハイテンショントークを聞く、聞き手に徹する。


看護士『永遠ちゃん!もうこの子隠しもしないで病院外の物食べて!』


看護士さんに見つかるけどもうそんなの慣れっこ、どうって事ない。

私はもう少し肉を付けなきゃいけないくらいだもん。

看護士さんに言ってやった。


『シャバの味がする。』



承『だから…なんでカタギじゃない人の感想なの?』


承くんが突っ込む。

ごめんて、暗くなっちゃうからさ?



それでも、慣れない外出は疲れたのか信子ちゃんはヘロヘロ。

もう寝た方が良いよ?明日続き聞くよ?


次の日も、次の日も信子ちゃんは3年ぶりの我が家の話しをする。

さすがに飽きてきた私はおばあちゃんの部屋へ行こうって提案する。


おばあちゃんの部屋には珍しくお客さんが来てて、娘さん?とお孫さんがふたり。私たち位の女の子だった。


邪魔しちゃいけない。

部屋に帰ってマンガを読むことにした。


信子『永遠ちゃん?少年マンガ好きなの?』


『好きだけど…私のチョイスでは無いよ。』


信子ちゃんの本棚は少女マンガオンリー。

信子ちゃんは隙間あれば一時帰宅の話しをして来る。

まあ仕方ない、それだけ嬉しかったんだろう、念願の帰宅だもん。

ただ、その割に顔色があまり良く無い事だけが気になっていたんだ。



それから2週間、


信子『…永遠ちゃん!今週末、二度目の一時帰宅なんだよ!』


『…うらやましい。』


信子ちゃんの顔色は白く、あまり調子は良く無いのが見て取れる。

言葉の勢いと反比例して元気は無い。

こうゆう時はおばあちゃんに相談する。



『ねえ、おばあちゃん、信子ちゃんまた一時帰宅になったんだけど…調子は良く無いみたいなんだよね?家に帰る訓練とは言え無理しない方が…。』



不安を抱え、でも羨ましくて水を指してるって思われたく無くっておばあちゃんにこぼしちゃう。


おばあちゃん『…でも、永遠ちゃんも一時帰宅出来るって言ったら多少具合悪くても帰りたいんじゃ無い?』


『帰りたい!』


そっかあ、そうだよね。

私は自分の不吉な予感を見ないようにして、目を逸らす。

楽しんでおいで?お土産も要求せず帰る信子ちゃんを見送る。


マンガを読み、勉強して、リハビリ、リハビリ。

ネットサーフィン、リハビリ、勉強、マンガ、ゲーム。


夜に信子ちゃんは帰って来た。

翌日会いに行く、しんどそう。

無理しないで?話は調子良くなったら聞くから?


その日から信子ちゃんはみるみる調子が悪くなっていく。

今まで交互に遊びに行ったり来たりしてたのが全く来れなくなった。


一緒してた勉強リハビリもひとりになった。

まあカリキュラム違うし、リハビリ経過でする事違うし?

私は必死に目を逸らしていた。



そして、数日後、


信子『…永遠ちゃん、また一時帰宅…出来るんだ。』


『そっか、良いなー。もうお家慣れた?』


信子『ふふ、永遠ちゃん、おうちだよ?慣れるんじゃなくって帰るんだよ。

帰れるんだよ。

あ、ごめんね、私ばっかり。』


『ふふ!良いよ、楽しんでおいでよ?』


信子『永遠ちゃんにも来て欲しいな。

お家見て欲しいし、イギーにも会わせたい。』


『イギーに会いたい。信子ちゃん家行きたいな。

って言うか病院から出たい!』



あはは!笑い合う。

じゃ、明日に備えて早く寝なきゃだから。



うん、また明日!

またね!




次の日朝、


信子『じゃ、行ってるね?』


『行くって言うか?帰るんでしょ?』


信子『じゃ、おかえり!』


『どっちなの?帰るのか行くのか!』


あははは!


信子『…永遠ちゃん、ありがと。』


私はふふ!って笑って言う、


『何言ってんの。なんかマンガ持って来て?

少女マンガ。うちの人たち放っておくと少年マンガしか持って来てくれないの。』


信子『…私、永遠ちゃんみたいに綺麗に可愛くなりたい。

永遠ちゃんは少女マンガの主人公みたいだね。』


唐突に信子ちゃんが言う、私は返事できない。

一時よりマシとは言え、私はまだ貧相で人相の悪い一回も登校した事ない不良jcなんだもん。



信子『…じゃあ、またね。』



これが信子ちゃんを見た最後だった。


一泊して2日目、夜、容体が急変して苦しまずに亡くなったそう。

大好きだったパパとママ、おじいちゃん、おばあちゃんに囲まれて、

愛犬イギーの側で眠るように。



私は羨ましかった、私も死ぬならこんな病院の無機質な部屋じゃなくって、愛してる愛してくれる人に看取られたい。


承くん?なんでそんな泣いてるの?優しいね?信子ちゃんの為に泣いてくれるの?


承『…それもだけど…紅緒さんの…きもち…思ったら…。』


はは、信子ちゃんは暗い話やしんみりムードが嫌いだったから…ね?


承くんは泣きながら、


『昔、読んだ本にね、

良く死のうと思えば、良く生きなければならないって言葉があったの。

もちろん、望んだ形で人生終わるとは限らないんだけど、


「死に方は生き様の証」

だと思う。

良い死に方しようって思ったら良い生き方しなきゃでしょ?


信子ちゃんは優しくて、家族思いだから最後はそうゆう望んだ形で終えられたんだね。頑張ったね。』



承くんはまだ音も立てず号泣している。


長年思ってた事の答えをひとつ、承くんからもらった。

死に方は生き様の証…。極論だけど納得できる。

本当に私の好きな男の子は侍で異世界転生して来たんじゃないの?って思うほど漢度高い。


…信子ちゃんに会わせたかったな、私が病院から出て初めて好きになった男の子はこうゆう男の子だよって。

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