第23話 セムラさんの事が大好きなお父さんとお兄さんてどんな人なんですか?

正直雲平は当たりだった。

バット姉妹の目から見ても、身体強化にレアな雷魔法まで使う雲平は、レア中のレアだった。


だかそれを告げて「レアだからシェルガイなら幸せになれるゾ」、「婆ちゃんとシェルガイに住むカ?」と言ったが、雲平は未練すらなく「俺は日本に帰るよ」と言う。


「クモヒラはブレないなぁ」

「シェルガイは一夫多妻もやれるから、私とアチャンメを嫁さんにしてもいいんだゾ?クモヒラなら大歓迎だ」


談笑をしているが雲平はセムラを抱えているし、アチャンメ達は全周囲の索敵を怠らずに走っている。


もう遠目に城は見えてきていて、あと少しで到着する。

日付にして8日目。

元々ギリギリだったが、雲平が身体強化に目覚めてくれたお陰で、途中の遅れもあったが、それでも予定より3時間は早く城の見える場所に辿り着いていた。



だが新たな問題が生まれていた。

その問題は魔物の大量発生。


まだ波状攻撃を仕掛けてくるのではなく、ダマになっている感じなので問題ないが、人とはまた違う戦い方に雲平は疲れを感じてしまう。


アチャンメが「レーゼって魔物の国なのカ?」と驚きを口にした時に、セムラが「いえ、普段は墓所の最奥に封印されている、サモナブレイドが外に出ているからです。あの剣が魔物を呼び寄せています」と話す。


雲平は、サモナブレイドについて質問をすると、遥か昔…魔物が生まれる発生点がコジナーの国に出来てしまった事…、コジナーは国を捨てるでもなく、魔物と戦うでもなく、魔物を制御しようとして失敗した事。溢れる魔物で世界が滅びそうな時、神々がシェルガイに降り立って、レーゼには魔物を封じ込める剣サモナブレイドを授け、ジヤーには魔物を退ける神獣武器を授けた事、レーゼの王は自分の命を捧げる事でサモナブレイドを発動させて、コジナーの領土に魔物を閉じ込めた事を説明する。


「それでも、サモナブレイドの結界には大小の隙間がありますので、魔物達は外に出てきてしまいますし、小さな発生点は各地にあります」

「ゲートみたいなもんだナ」

「ノラゲートと同じだから、塞いでもまた別の所に生まれるし、放っておいても消えてまた生まれル」


だがこの説明では魔物が増えた理由にはならない。


「魔物達はサモナブレイドを目指します。サモナブレイドを破壊して、コジナーの結界を解きたいのです。レーゼには封印がありますので街まで入れませんが、周辺には集まってしまいます。なので普段は墓所の最奥に、剣自体を封印しているのです」

セムラの説明で、ようやく話が読めた雲平は「今は俺たちの足止めにもなって邪魔ですね」と言って、「アチャンメ、ペースはどうしよう?一気に街まで走って休む?」と確認をする。


「きっと街から先は乱戦だからナァ、ここで休んで一気に駆け抜けて、葬儀の場で姫様を見せよう」

「姫様、姫様が行けば戦争は止まるし、戦闘も止まるヨナ?」

「ええ、お父様が何を思っていても、国民の前で私がその考えを否定をして、お兄様やレーゼの民が真実を知れば、お兄様も共にお父様を止めてくださいます。今は恐らく私を失った悲しみで暴走をしています」


雲平は聞きながら、そんな簡単な話なのかと気になったが、家族の話である以上セムラを信じるしかない。


雲平達は魔物の気配も少なくて、兵士からも見えにくい場所を見つけたので、そこで夜を明かすことにした。


話すことはあるようでいて無いようでいて、雑談をしたいのだが、雑談の空気ではなく、バット姉妹は「兵員はどんな感じろうナ?」と聞いて、セムラが「恐らく弔問で各騎士団が式典装備で来ています」と返す。


「魔法師団は?」

「はい。出てきます」


「こっちはクモヒラのサンダー系と、姫様のヒールとウォールだけだからキツいな」


戦いの話は必要だが、話すたびに真剣な表情のセムラが表情を暗くしていくのは心苦しい、雲平はなんとか他の話題を振ろうかと思っていると、目の合ったセムラが恥ずかしそうに「雲平さん…腕ですか?」と言って袖をまくって二の腕を出してくる。


雲平は一瞬腕を見たがすぐに「違います!」と慌てて、「戦争に踏み切るくらいセムラさんの事が大好きなお父さんとお兄さんて、どんな人なんですか?」と聞いてみた。


「クモヒラ?」

「聞いても戦闘になったら敵は沢山なのがわかったし、聞いただけ不安になるし、でもアチャンメとキャメラルが居てくれたら負け無しだからさ」


アチャンメとキャメラルは顔を見合わせて「ニタァ」と笑うと、「まあナ!」「任せてオケ!」と喜んで雲平に抱きつくアチャンメとキャメラル。

雲平は慣れた手つきで2人の頭を撫でながら、「セムラさん」と聞き直すと、セムラは少し恥ずかしそうに、「はい。兄は…クラフティお兄様は今年25歳です。お互いに母は別の方で異母兄妹ですが、お兄様は私を妹と呼んでくださって昔から優しくしてくれてます」と言う。


「お母さん?」

「はい。母は私を産んで亡くなり、クラフティお兄様のお母様は流行病で亡くなりました。お兄様は私を産むまでのお母様から、本当の子と同じように愛してもらえたと教えてくれました。そして見た目は関係ない。私とは魂で繋がれた兄妹だと言ってくれています」


「凄い人ですね」

「はい。お兄様は剣も嗜みますし、魔法も使えます」


「セムラさんが生きてるってわかって、力を貸してくれたら百人力ですね」

「はい!」


その後は父の話になる。

寡黙だが優しい父の話を聞くと、雲平は戦争の始まりの意味がわからなくなる。

だが一つ分かった事はある。


セムラはレーゼを…父を…兄を愛している。

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