第33話【 ある女の子との出会い 】
「キャアッ」
何処からか女の子の悲鳴が聞こえてきた。
アルガロスとリッサが声のする方を見ると、少し先で女の子が倒れている。
そして、その回りにはガラの悪そうなハンターらしき男達が3人立っていて、女の子を上から睨んでいた。
その内の1人、1番身体が大きくて太った男が、口を歪めながらネチネチと文句を喚いている。
「フラフラ歩いてんじゃねーよ」
と言いながら、足で女の子の荷物を蹴飛ばす酷い行為。
しかし女の子は、蹴飛ばされた荷物の事は気にせず、男達に手を伸ばしながら……。
「か、返して下さい。それは…」
男達が、女の子の訴えを無視したまま歩き出そうとした時、コツンと何かが胸に当たった。
「ん?」
目の前には、腕を伸ばしている赤毛の少年が。
エルが拳を作り、腕を伸ばして男の胸に軽く当て、逃げ道を塞いでいたのだ。
そして男を睨みながら……。
「捕った物を返せ!」
アルガロスとリッサは驚いている。隣にいたはずのエルが、いつの間にか男達の所にいたからだ。
「ハァ? 捕った物? 何を証拠に言ってんだ小僧!!」
男は睨み威嚇しながら、腕でエルの拳を振り払おうとするが、何故だかビクともしない…。
「あ、あれ?」
エルは振り払おうとする男の行動は気にせず、自身に言い聞かせる様に平常心を保とうとしている。
先程のギルド・ハンター管理局の中での出来事を気にしているのだ。
『抑えろ、抑えろ……』
男は今度、両手でエルの腕を掴んでどかそうとするが、全く動かない。
『な…何だ? ビクともしねぇ……』
そんなやり取りをしている所に、リッサとアルガロスが走って来た。
そして、リッサが男達を睨みながら声を出す。
「捕った物を返せと言ってるんだ!」
「リ…リッサ……さん!?」
男達の怯えた声が小さく響く。
リッサはクラスBの実力のあるハンターで、しかもエインセルギルドのマスターだ。
力の差は歴然で、この街で活動しているハンター達のほとんどが、リッサの事は知っている。
男はポケットから盗んだ財布を出して、オドオドしながら拳を突き出しているエルに渡した。
エルは笑顔で優しく女の子に声をかける。
「これ君のだよね!」
「は、はい。私のです!!」
座り込んでいた女の子に財布を渡した後、エルは手を差し伸べて起き上がるのを手伝ってあげた。
「あ、有難うございます!」
リッサは男達に鋭い目つきで、言葉を投げる。
「で、突き飛ばしたこのお嬢ちゃんに、いくらで許してもらおうかぁ?」
男達はその一言で何かを察し、アタフタしながら有り金全部を……。
「示談成立って事にしといてやるよ。しかしなぁ報告は上げるからな! 次やったらよーしゃしねーぞ!」
ギルド設立時の決め事に、こんな項目がある。
・マスター、セカンドマスターは、民衆の自由と安全を守る役目も担う。と。
リッサが彼等のハンターカードを確認した後、男達は女の子にお辞儀をして謝り、走り去っていった。
女の子は何度も何度も、エル達に頭を下げている。
「本当に有難うございます! これ…お金よりこのお財布の方が大事なんです! 母の形見で…」
その女の子は財布を見つめながら、心から滲み出る安堵の笑みを浮かべていた。
「そうなんだ! 良かったね、盗まれなくて!!」
何故か助けた女の子の前で、目をキラキラ輝かせながら満面の笑顔を作っているエルがいる……。
そしておもむろに手を伸ばしながら、誰も予想出来ない行動に出たのだ。
「見つけた! 付き合ってよ!!」
それを聞いたアルガロスとリッサは超〜驚き、同じ言葉が口から噴き出る。
「ナンパか!?」━━━━━━━━━━━
◇◇◇3日後◇◇◇
昼前の太陽の光が小川を照らし、キラキラと楽しそうに川面を走っている。
チリチリチリ…チリチリチリ…。
心地良い虫の鳴き声が聞こえる小さな小川沿いの河原に、エル、アルガロス、リッサ、そして女の子の4人がいた。街近郊は出歩いても良いと許可が出ているからだ。
この女の子は、エルが3日前に ” 付き合ってよ “ と声を掛けた人。
本人曰く、” 友達になってよ “ って事だったらしい。
名前は、カルディア。淡いピンク色の長い髪だが、先はくせっ毛なのか、少しクルクル巻いている。
回復魔法系のスキルを授かった女の子で、地方からここバルコリンへとやって来て半年以上経つらしい。
しかし、魔法を上手に扱う事が出来ず、また、クラスも上がらない為、かなり落ち込み悩んでたみたいだ。
カルディアの年齢は、エルと同じくアルガロスの1つ下だが、ハンタークラスは、アルガロスより1つ上のE。
なので、アルガロス発案で自身の魔力上げとオーラ循環速度上げの訓練に来ているのだ。
“ 年下の女の子が自分よりクラスが上 ”
口には出して無いが、どうやらかなり悔しかったみたいで………。
アルガロスは、河原にある石を土手の上に置き、剣で斬り裂く訓練をしているが、これが中々難しい……。
木と違い、オーラ循環速度とその波を今まで以上に速く、鋭くしないと石が弾かれ、転がって行くのだ。
それを3日間続けているが、全く出来ないのでイライラしている。
アルガロスは空を見上げ、ジタバタしながら叫んでいた。
「くそーっ」
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