第32話【 殺意!? 】


 魔力が溜まり濃度が高まると、渦を巻く。

目には見えず密かに育ち、魔物が作られる事がある。


魔物の心臓は胸の真ん中にあり、そのうしろに魔力の塊が変化した ” コルディスコア “ と呼ばれる物質がある。


魔物が生きていく原動力となるこのコアは、魔物が死ぬと心臓から解離し、身体表面に移動する性質がある。


また体内から取り出されると、その魔力濃度により様々な鉱物へと変化する。そのほとんどは人間に利益をもたらす物質・鉱物等に変化するが、稀に害を与える物質・鉱物に変化する事もある。



◇◇◇◇◇◇◇



「おぃおぃ、無能なアルガロスじゃねーか」


 数人の男達に囲まれ、胸ぐらを掴まれたアルガロス。その男達とは力の弱いアルガロスを標的に、散々侮辱してきたハンター達だったのだ。


「コ、コバル……」


驚くアルガロスをよそに、コバルと呼ばれた男は、さらにキツく胸ぐらを握ってくる。そして、アルガロスを侮辱する様に言葉を投げてきた。


「 弱い奴がウロチョロしてると目障りなんだよ。ハンター辞めろって言ったよな! クズ野郎。お前の存在自体が邪魔なんだよ! 早く田舎へ帰れ!」



“ 邪魔 ”



何度も浴びせられた、屈辱的な言葉。

あの頃は自身の感情を押し殺して、受け流す事しか出来なかったが、


………。


アルガロスは鋭い目つきで睨み返し、コバルから見えない様に<ギュッ>と拳を握った。


そして……。


<ガッ>


『え!?』


突然見知らぬ腕が横から飛んできた。

よく見ると……。


コバルを殴ってやろうと拳を作ったが、横から手を伸ばしてるエルの姿が……。

エルがコバルの腕を掴んでおり、鋭い目つきで睨んでいたのだ。


突然の出来事で驚いているアルガロス。


『エ、エル!?』


エルは大切な仲間を脅し、侮辱する奴を許せなかったのだ。奴らのそんな行動に……無性に怒りが込み上げてきて……。


エルはコバルを睨みながら、言葉を吐く。


「手を離せ!」


「な、何だ小僧。死にてーのか?」


今度はエルを睨み、脅そうとするコバル。そして、腕を振り上げ殴りかかってきた。


それに対してエルは……、コバルの脳裏を砕く様に……憎しみを込めて睨み返してしまった。


怒りが……へと変化した瞬間だった。


「―――離せ!!―――」


<ゴオオオオー>


 局長室にいたグレインカブースが小さく反応する。強い魔力を感じたからだ。


『…ハイクラス同士のケンカか?』


モサミスケールも…エルが放つ魔力に眉を下げていた。


『【 ……………… 】』


避けようのない恐怖がコバルを襲う。

人間に睨まれたのでは無く、次元の違う、とてつもない何かに身体を引き裂かれた様な感覚に襲われたのだ。


「ヒッ、ヒヤァー」


悲鳴の様な声を上げながら手を離すコバル。

足がもつれて、尻餅をついてしまうほどに……。


その様子を見ていたアルガロスは、キョトンとしている。威勢の良かったコバルが、急に悲鳴を上げて尻餅をついたのだから。


コバルは震えながら立ち上り、ふらつきながら仲間を置いてその場から走り去って行く。


何が起きたのか分からず、慌てるコバルの仲間達。自分達の中ではコバルが1番腕力があり、気の強い奴だからだ。


「ま、待てよコバル。どしたんだよ!?」


走り去ったコバルを追いかけ、仲間達もアタフタと訳が分からず走り去って行った。


エルは走り去る彼等を見ながら、動かずその場に佇んだまま…。自分の手を……何故だか嫌う様に見つめている。


『……俺…どうしちゃったんだろう……。とんでも無く残虐な事を………』


アルガロスも何が起こったのか分からなかったが、

自分の事をかばってくれた行動に、お礼を言おうとエルの肩に手を置いた。


<ポンッ>


「ありがとなエル!」


エルの身体に、優しく暖かい何かが流れて来た様な気がして、怒りが収まっていく。

エルのそんな心の変動に気付き、モサミスケールは眉を下げながら一安心と言いたげな顔をしていた。


『【 ………これが仲間……か 】』


アルガロスのお礼の言葉に振り向くエルだが、その目が……、光ってる様に見えたのだ。


「えっ!?」


口から漏れるアルガロスの小さな驚き。しかし、その光は既に無くなっていた。


『気のせいか…』


「ん? どした??」


そこには、いつも通りのエルの笑顔があった。


「辛気くせーからおもて出ようぜ! エル!」


「そうだね!」





 エルとアルガロスは、人混みの中を外へと歩いている。


⇄「モサミ!? レアスキル持ってる人見つかった?」⇄


回りに気付かれず、モサミスケールと直接話す事が出来るテレパシーみたいな会話でそう問いかけた。


実はこのギルド・ハンター管理局に入る前に、モサミスケールに ” ボイス “ でレアスキルを持っている人を探して欲しいとお願いしていたのだ。


⇄【 いくら人が沢山いるからって、そう簡単に見つかるもんじゃないわい 】⇄


⇄「えぇー…、ハンター達がこんなに沢山集まるのはめちゃなのに? 」⇄


⇄【 …お主…、レアと言いたいだけじゃろ… 】⇄


モサミスケールの呆れた顔が、いたずらっぽくニヤッと笑うエルの頭の上に鎮座していた。


エル達がギルド・ハンター管理局から出て来た時、聞き覚えのある声が飛んでくる。


「エル、アルガロス! やっぱココに居たんだね!」


手を振りながら近寄ってきたのは、エインセルギルドのマスター、リッサだった。


「あっ! リッサねーちゃん!!」


エルのその呼び方にリッサは肩をすぼめ、こそばがゆい表情で笑顔を作ってはにかんでる。


「どしたの?」


「コレを渡しに来たのよ!」


リッサは手に持つ巾着の様な麻袋をエルに渡した。


<ジャリッ>


「ん?」


ズッシリと重みを感じる麻袋。中を確かめると、沢山お金が。


「えー?? 何これ!? お金じゃんか!?」


エルは驚きながら、リッサの顔を見上げた。

アルガロスもその麻袋を覗き込みながら驚いている。

そんなエルとアルガロスの顔を見ながら、リッサは二人の反応に微笑んでいた。


「倒したオーガの数が全部で73体。そのコルディスコアを換金したのよ!」


「な、何で俺達に?」


「ギルドメンバーみんなで話し合って決めたの。これは ” お団子代 “ として取っといてね!」


と、リッサはウィンクを。


本当は、ほとんどのオーガを倒して助けてくれた証拠としてエル達に渡すべきなのだが、エルの方に複雑ながあるようで “ お団子代 ” としたのだ。


「有難うリッサねーちゃん!」


満面の笑顔で素直にお礼を言うエルを見て、また身体がくすぐったくなるリッサ。肩をすぼめ、両手でいいよいいよと合図していた。


「アルガロス、持っといて!」


と言いながら、ポンッと麻袋をアルガロスに手渡す。


「な、何で俺なんだよ?」


「俺、良く物を落とすから!」


とエルは自慢げに胸を張る。

落とす事を自慢する奴って、どうなんだ?とブツブツ言いながらも、アルガロスは自分の袋に麻袋を入れた。


その時………、



<キャアッ>



何処からか、女の子の悲鳴が………。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る