第31話【 小さな異変 】
『ブルーモン領には “ シル ” と言う村は無い……か』
グレインカブースは、椅子に深く座り込み困惑した表情で天井を仰いだ。
『どうしたものか……』
『それに、ゼブロスから報告があった召喚魔法の件……』
グレインカブースは、悩んでいた。
オレンジゲートの発生は、誰でも認識出来る大きな変化であり、対処法が決まっているのでそれを遵守すればいい。
だが、小さな変化は見落としやすく、また流されやすく、稀に重大な結果を招く恐れがある。
報告にあったエルの出身地、召喚魔法、クラスGでありながらエインセルギルドを助けた行為等が、重大な結果を招くとは考えてないが……。
グレインカブースに心の揺らぎがあるのは確かだ。
『……レアスキルを持つ者は、およそ二手に別れる……か』
” 力を誇示する者と隠す者 “
昔、グレインカブースがまだ若かりし頃、教育の過程で聞いた言葉が頭をよぎっていた。
『特に隠す者には理由がある。召喚魔法だけでは無いが、レアスキルを持つと過度に期待され潰れていく者。また悪者に利用されたり、暗殺されたり……時には故郷まで襲われたり……』
『魔力が高ければ、そのスキルを使いこなす事で身を守る事が出来るが、そうでなければ狙われるリスクを伴う……。だから色々と隠してしまう』
『それでも、隠すな決まりだからと正論や常識を押し通すと、去っていく傾向があると……』
グレインカブースが熟考しても、結論の出ない悩みが頭を巡っていた。
『クラスG判定の微弱な魔力だから、レアスキルは使えないだろうが……、今回のオレンジゲートでの件を考えると……不確定要素が多すぎるな……』
『しかし……まだ上への報告はやめておくか…。未来ある若者だから……』
立ち上り、窓からキラキラ光る街並みを眺めていたが、何かを思い出したかの様に眉を上げた。
『……エルは…多言しないだけで召喚魔法の事を隠してる訳ではないから……』
『……奴と同一視されなければいいが……』
◇◇◇◇◇◇◇
建物沿いに並ぶ飲食店。朝食等で賑わうカフェ・カーネスのテラスに、一人で座るリッサの姿がある。
リッサは、難しい表情で小さなコーヒーカップを回しながら、ギルド・ハンター管理局のグレインカブース氏の言葉を思い出していた。
“「オーガを前にしてクラスFとGが、エインセルギルドを助けた行為とはどんなものなのか」”
リッサの答えは、オーガを倒してくれたとは伝えず ” 体力と魔力が回復する団子 “ の提供により、ピンチを切り抜ける事が出来たと報告していたのだ。
何故その様に報告したのか。
それは、エルからのお願いがあったからだ。
非力な自分が目立つと叩かれる恐れがあるし、襲われたりハンター達から排除されるかもしれないと。何故なら隠してる訳では無いが、召喚魔法スキルを持っているからだと。
リッサもハンター同士、良くレアスキルの話はする。そんな時も身の安全の為、隠しながら活動するハンター達の話は良く耳にしていた。
命を助けてくれた少年からのお願いを、聞き入れない訳にはいかない。だからメンバーにも口止めをし、報告はしなかったのだ。
局長から召喚魔法の件も聞かれたが、逆に驚いた行動を見せたので、怪しまれて無いだろう。
心は少し痛かったが、エルとの約束だから仕方がない。
それと……局長から頼まれた事がある。
暇な時間があれば、エル、アルガロスと行動を共にして欲しいと。“ ギルドに入れる ” と言うのでは無く、仲のいい友、先輩として声をかけてあげて欲しいと。
「ふぅー……」
「口には出してないけど……、観察してくれって事だよね……」
「ええー……」
1人で悶えるリッサは、椅子に浅く座り背もたれに身体を預け、足を組みながらダラけた姿勢で青空を仰いでいる。
ガラの悪い女の人…と見られてるのか、回りの客から冷たい視線を浴びているがお構いなしだ。
リッサは、しばらくその状態で流れる雲を見つめていた。
おもむろに身体を起こし、コーヒーを<グイッ>と飲み干して、手に持つカップを<コトン>と置いた。
「仕方ない。いっちょ行ってくるか」
バルコリン沿いに流れる川の向こう側には、まばらに行き交う人影が見える。いつもと違い、寂しさが漂う草原ではあるが、生き生きとした草木達が、楽しげに肩を寄せ合い揺れていた。
街の郊外以外へ出る事が規制されているので、人々が街中に溢れている。
賑わう商店や広場。
それはハンター達も同じで、ギルド・ハンター管理局の中も、時間を持て余す人達で溢れていた。
人が集まれば笑い話や自慢話し、情報交換等が始まる。特にハンター達の場合は血の気が多く、色んな所でケンカも起きる。
そんな賑やかな場所に、エルとアルガロスの姿もあった。
アルガロスの後ろからついていくエルだが……表情が冴えない。
⇄【 魔力と霊力が乱れとるぞ。大丈夫か? 】⇄
⇄「……さっきから急に……ね。でももう大丈夫だよ」⇄
そうモサミスケールと自分に言い聞かせ、歩きながら身体のバランスを保とうとしている。
原因は………。
昨日、魔力を使いすぎたからなのか、それとも他に原因があるのか………。
エルにはそれが全く分からなかった。
アルガロスが振り向き、眉を下げながら両手を上げる。
「ハンタークラスの再測定してもらおうと思ったけど…、これじゃあ無理だな」
エルとアルガロスは、ハンター達でごった返す中、測定してくれるカウンター迄来たが、長蛇の列が続いていたのだ。
アルガロスは首を振りながら、呆れた表情をしている。
「みんな考える事は同じって事だな。ちぇっ、行こうぜエル」
と、アルガロスがカウンターに背を向けた時、誰かが故意にぶつかって来た。
<ドンッ>
「おっと、ごめんな!」
と相手の顔を見る間無く咄嗟にアルガロスは手を上げ謝ったのだが、相手は容赦なくアルガロスの胸ぐらを掴んで来たのだ。
<ガシッ>
「おぃおぃ、無能なアルガロスじゃねーか」
数人の男達に囲まれ、胸ぐらを掴まれたアルガロス。その男達とは、散々アルガロスを侮辱していたハンター達だったのだ。
「コ、コバル……」
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