アセンブルを実行します!

 お世話になったムリヤさんと別れ、路地を経由してヘイズのガレージに辿り着く。

 セントラルの外周に位置するらしく、どこか寂れた感じだ。

 周囲には似たような建物が、ちらほら見える。


「NPCの経営するガレージより小さい?」

「あれは共有ガレージだからな。ここは私だ」

「専用っ」

「専用!」


 ゾエちゃんと揃って、専用の言葉に反応する俺。

 やっぱりね、響きが素敵だと思うんだ。


「J・Bもガレージを持っているのですか?」

「ふっ…当然だとも」


 ゾエの質問に対して、バケツ頭から涼しげな声を響かせて答える師匠。

 師匠のガレージ、予備のレールガンが保管してありそう。


「予備のレールガンを保管してある」


 さすが師匠だ。

 ロマンに生きる男、期待を裏切らないぜ。


「それは稀な使い方だが、専用のガレージは持っておくべきだな」


 ガレージへ向かいながら、俺に横顔を向けるヘイズ。


「お前が利用しているイーズギル26は、パーツを保管できん。換装したら、売却する他ない」

「え、そうなの?」


 イーズギル26は、気前のいいNPCの親子が経営するガレージだ。

 あそこの空気感を気に入ってるだけに、衝撃の事実だった。


「他のプレイヤーも利用する関係上、やむを得ない措置だ」


 なるほど。

 顧客のパーツを保管してたら、スペースが足りなくなるな。

 だから、専用のガレージを持ちましょうってわけだ。


「ガレージを購入せず、設計する猛者もいるぞ」

「すげぇ熱意」

「まぁ、ごく少数だがな」


 そう言って、ティタン用のゲート横に備え付けられた端末へ手を当てるヘイズ。


 軽快な電子音──人間用のゲートが独りでに開く。


 微かな照明に照らされた通路を進み、開けた空間に出る。

 4人が一列に並び立った瞬間、点灯する照明。


「お、おおぉ…!」


 まず、目に飛び込んでくる純白の巨人。

 鳥脚もとい逆脚で、左腕がパイルバンカーと一体化した特注仕様のティタン。

 言わずと知れたヘイズの愛機だ。


「すごいです!」

「ショップとは違った迫力があるな…」


 その隣には、頭部や腕部の欠けたティタンが立ち並び、天井からはライフルやハンドガンが釣り下がっている。

 いかにもガレージって感じだ。

 めちゃくちゃ興奮する。

 ここからパーツを見繕って、ゾエの機体を組む。


「ここから好きに選べ、と言いたいところだが…ピーキーなパーツも多い」


 ゾエに振り返ったヘイズは端末を右手に、左手で手招きする。

 とことこと近寄り、端末を覗き込むゾエ。


「ゾエの要望に合わせて私が組むが、構わないか?」

「はい!」

「よし、どんな機体がいい?」

「ゾエは──」


 微笑ましい光景を横目に、俺はガレージを見渡す。

 アセンブルの話も面白そうだが、この眼前の景色を目に焼き付けておきたい。

 ヘイズは逆脚を好むのか、逆脚ばかり並んでる。

 意外なことにパイルバンカーは見当たらず、射撃武器が多い。


 たまらない景色だぜ──視界の端で、ちかりと輝く重厚な砲身。


 4本の砲身を水平に並べた、おそらくはキャノン。

 目を惹かれるデザインだ。


「師匠」

「どうした、少年」


 ヘイズとゾエの背中を見守る師匠へ声をかけた。


「あの左端にいるティタンの兵装って何ですか?」

「あれか……少年、なかなかに鋭い嗅覚をしているな」


 指し示した先、直立する重逆脚の肩部ユニットを見て、師匠は唸った。


「あれは4連装タジマキャノン、クローバーラインだ」

「タジマ粒子か…」


 つまり、ナガサワさんの親戚だ。

 そう考えると新鮮味が薄れるなぁ。

 デザインは好きだけど、なんとも残念だ。


「そう邪見にするな、少年。あれもまたロマンの一つだ」


 師匠がロマンと認める武器だと?

 おいおい、面白くなってきたぜ。


「出撃中、クローバーラインは

「な、なんと…!」

「しかし、その火力は絶大だ。戦車型も大破は免れない」


 あのタフな戦車型を吹き飛ばす威力だが、弾数は1発。

 実用性なんて度外視してやがる。

 とんでもねぇ武器だ、最高か?


「ヘイズ、あれを載せたいです!」


 ゾエちゃんの無邪気な声、指し示したのはクローバーライン!

 おいおい、マジかよ。


「確かに高火力だが、出力不足な上に…あれは──」

「でも、絶対かっこいいです!」


 それなら仕方ない。

 かっこよさの前に、俺たちは無力なんだ。

 目を輝かせて迫るゾエに、額を左手で押さえるヘイズ。

 サムズアップだけ送っておく。


「分かった……高出力のジェネレーターに変更すれば、可能なはずだ」

「やりました!」

「ただ、エネルギーの容量が怪しい。両腕の武器は変更だ」

「むぅ…仕方がありません」


 ずいぶん余裕のない構成なんだな。


 興味が湧いて、後ろから覗く──タジマ云々の名前が並んでいた。


 エネルギー不足との戦いになりそうなラインナップ。

 これでピーキーじゃない?


「完成が楽しみだな、少年」

「うっす」


 この時の俺たちは、まだ知らなかった。

 恐るべきモンスターが誕生してしまったことを──

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