類は友を呼ぶ?

 友人との待ち合わせが楽しみで、予定より1時間前にログイン。

 気分は遠足前の小学生!


 そして、相棒のコクピットで目覚めた俺は──現在、セントラルにいます。


 ティタンのパーツを販売するショップに、白昼堂々います!

 最初はステルスアクションで切り抜けようと考えてた。

 しかし、NPCの経営するガレージから周辺を確認したら、そっくりさんデフォルトだらけだった。

 デフォルトの格好だとヘルメットを被ってるから表情も性別も分からない。


 その時、確信したんだ──このビッグウェーブに乗るしかないって。


 Vとかいう有名人も大変だ。

 まったく同情するぜ!


「レールガンってエネルギー武器なのか」


 機械油の臭いが漂ってそうなガレージを改造したショップには、よく分からない武器が並んでいる。

 俺の目の前にある長砲身のレールガンはエネルギー武器らしい。

 諸元表に載るタジマ粒子の変換効率とか、さっぱり分からん。

 先生の解説が恋しい。


「デザインは良いな、うん」

「分かるか、少年」


 この俺の後ろを取っただと!

 大したことじゃないな。

 振り向いた先に立っていたのは、バケツみたいな頭のサイボーグさん。


「良い目をしている」

「恐縮です」

「このXW155HRの良さに気付くとは見込みがあるぞ、少年」


 見込みだって?

 やはり、俺は選ばれし者だったのか。

 そんな気はしてたぜ。

 まずいな、また新手の宗教に捕まった気がする。


「でも、俺の手持ちだと購入は無理──」

「語るより、まずはを見たまえ」


 バケツ頭さんはコートの懐から端末を取り出す。

 思わず身構えるが、画面にはティタン・フロントラインのPVが映っているだけ。

 そういえば、藤坂のレビューで迷わず購入したから見たことなかった。


「…これはっ」

「気付いたか、少年」


 見慣れた放棄都市に降り立つ武骨なデザインのティタン。

 その手にはレールガン!

 砲身を青い光が迸り、チャージ完了。

 発射と同時に粉塵が舞い、閃光が走る!


 攻撃ヘリコプターの編隊が爆風に巻き込まれ──なんだよ、これ。


「か、かっこいい…!」


 完璧な販促だ。

 男の子の好きなモノを理解してやがる。


「ふっ…だろう?」


 隣に並び立ったバケツ頭さんは、諸元表を指差す。


「射程と弾速はレーザーライフルに匹敵する……多少、重量はかさむが、それも素敵性能ロマンの前には霞むだろう」

「レーザーライフル並み……とんでもねぇ武器だ…!」


 どう見ても相棒のライフルより強力──しかも、かっこいい。


 相棒に持たせれば、もう完璧だろ。


「どうだ、少年もXW155HRを使ってみないか? 私が指南しよう」

「し、師匠…!」

「ふっ…気が早いぞ、少年」


 と言いながらも、固い握手を交わしてくれる師匠。

 ノリが良い人に悪い人はいない。

 ただ、せっかく乗り気な師匠には悪いが、俺はレールガンを購入できない。


「でも、師匠……クレジットが、クレジットが足りませんっ」


 ゲリラ配信のミッションで稼いだ分を足しても届かない価格だった。

 無念!


「よし、私が手伝おう。善は急げだ、少年」


 マジかよ。

 どこまでも付いていきますぜ、師匠!


「よろしくお願い──あ」


 危うくレールガンのために、ほいほい師匠の後を追うところだった。

 目的を忘れるなよ、俺。

 師匠の善意はありがたいが、藤坂が待ってるだろ?


「どうした、少年」

「友人と待ち合わせ中でした…すいません」


 そう言って頭を下げると、師匠から漂う物悲しげな空気。

 良心が痛む。

 今度、必ず御供します!


「む、そうか……では、機会を改めるとしよう──」

「お前、俺が誰か分かってんのか!」


 無粋な声が師匠の声を遮る。

 店内ではお静かに、が読めなかったのか?


「も、申し訳ありません、存じておりませんっ」

「俺はV、トッププレイヤーに名を連ねるVだ! このショップの宣伝にもなるんだから、安く売れよ!」


 ショップの受付で、NPCの犬耳店員さんが俺のに絡まれてる。

 めちゃくちゃ気分悪いんだが?


「師匠」

「ああ、行くぞ、少年」


 迷惑そうな表情を浮かべる野次馬の間を縫っての下へと向かう。

 ここからはネゴシエイトのお時間だぜ。


「揉め事かね」


 師匠が紳士的に切り出し、犬耳を垂れさせていた店員さんは表情を輝かせる。

 人格者のオーラはNPCにだって伝わるものなのさ。


「あぁ? 誰だよ」


 人に尋ねるなら、まず自分から名乗るのが礼儀だぞ。


「ただの一般客さ。それで、値切りの交渉をしていたようだが」

「そうだよ。このぼったくり価格じゃ買えないからな」


 そっくりさんの指差した武器は、アンティークなデザインのハンドガン。


 名前はHG66-FLAMEROCK──よく耳にした名前の正体は、こいつか。


 今の手持ちで足りる価格が記されていた。

 そこで素朴な疑問が浮かぶ。


「値切ってまで欲しいのか?」

「おまっ人権だぞ?」


 どんな理由であれ、最低限の礼儀は守って交渉しようぜ。

 それを直球でぶつけたら、間違いなくこじれるから言わないが。


「師匠、ここはを勧めるべきでは?」

「ほぅ…やってみよう」


 さすが師匠、平和的な解決策に頷いてくれる。

 お客様に足りないのは、ロマンと余裕だ。

 弟子1号は譲れないが、同志は多くても困らない。

 お前もレールガンの虜になれ!


「な、なんだよ」


 身構えるなよ、俺のそっくりさん。


「HG66は確かに強力だが、ここにあるXW155HRも良いぞ」


 師匠が指差した方向を、そっくりさんの視線が追う。

 そして、長砲身のレールガンが放つ存在感に釘付けとなる。

 まずはデザインで心を掴む!


じゃね──」


 同時に、俺と師匠はラリアットを繰り出した。

 野郎の顔面と顎にクリーンヒット。

 宙を一回転し、ショップの床でノックアウト。


「お、お客様ぁ!?」


 犬耳店員さんの悲鳴を背に、師匠と拳をぶつけあう。

 すっきりしたぜ。

 今度から口には気をつけるんだな──


「待ち合わせ場所はではないぞ」


 殺気!

 まずい、やられる!


「大人しく待っていろ、と言ったはずだが?」


 さすがに問答無用ではなかった。

 恐る恐る振り向けば、ショップの前に佇む長身の人影。

 黒いロングコートを纏い、メカメカしい狐の面で顔を隠している。

 だが、声で分かった。

 今日の藤坂は、ご機嫌斜めだぜ。


「少年…が友人か?」

「うっす」


 緊迫した空気を醸す師匠は、逃走の構えだ。

 俺は土下座に入れる体勢で待つ。


 野次馬が見入る中──鳴り響くサイレンの音。


 ふと、アルビナ先生のありがたい言葉を思い出す。

 セントラルで揉め事を起こすと治安当局が来るって。


「はぁ……当局を撒くぞ」


 そうこなくちゃ!

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