第699話

「…開けてみても?」

 当然クッキーをそのまま渡された訳ではありません。

 紙袋に入れて口をリボンで結んで閉じてありますね。早く中を確認したい気持ちでいっぱいです


「開けてください。そして食べてください」

 ええ、もちろん食べるつもりですよ。


 自分の分ですかね?袋に入ってない裸のクッキーがエミリーの手元に現れました。

 そしてエミリーがクッキーを少しずつかじってます。小動物感があって可愛いですね。


 私もさっそく…袋を開けるといい香りがしてきますね。中を見ると、クッキーが10枚くらい入ってます。


「これがエミリーの焼いたクッキーですか…それでは頂きます」

 取り出してみると直径は4cmくらいですかね、シンプルな丸い形のクッキーです。


 それでは、いざ実食…ふむ、サクッとした歯触りと噛む度に鼻に抜けるバターの香り…口の中には甘さが広がり、かといって甘さがしつこ過ぎる事も無く…ついつい何枚でも食べたくなるこのクッキー、これは一言でいって最高ではないでしょうか?


「どうですか?」

 私が黙って食べていたので不安になったのでしょうか?エミリーが心配そうに聞いてきました。


「ふぅ…大変美味しゅうございました」

 思わず目をつぶって余韻に浸ってしまいましたよ。


「…もういいんですか?」

 もしや私が一枚しか食べなかった事も気になってます?


「エミリーが私の為に焼いてくれたクッキーなんですよ?

 こんな貴重なクッキーは一日一枚ずつエミリーへの感謝を込めてゆっくりと食べさせて頂きます」

 なんなら食べる前と食べた後に感謝の舞を踊りたいくらいですね。


「また大袈裟な事いって…ただのクッキーなんだから気にしないで食べてくださいね」

 エミリーは分かって無い様ですねぇ…


「エミリーが私の為に焼いてくれたクッキーがただのクッキーな訳ありませんよ。

 私にとってはエリクサーよりも価値があるクッキーです」

 宝箱から幾らでも出せるエリクサーと、エミリーの手で作られたクッキーでは比べるまでも無いですね。


「それクッキーの価値が高過ぎませんか?それかエリクサーの価値が低過ぎですよぉ」

 何を言ってるんですか…


「そんな事ないですよ。好きな子が焼いてくれたクッキーにエリクサーが適う訳無いじゃないですか」

 こんなの分かりきった事ですよ?


「ちょっと待ってください……今はクッキーとエリクサーを比べてる…それで私が焼いたクッキーはエリクサーより価値があって…好きな子が焼いたクッキーもエリクサーより価値があって…」

 何やらエミリーが考え込んでますねぇ。


「それだと、まるでミヤマさんが私の事を好きって言ってるみたいじゃないですか…」

 どうやら考えた結論が出たみたいです。


「好きですけど?」

 考えた成果ですかね?ちゃんと正解に辿り着いてますよ。

 エミリーが正解に辿り着いたんですから、私も誤魔化さずに認めましょう。


「何でそんな事をサラッと言っちゃうんですか!」

 何でって言われても…改まって言うと恥ずかしいんですもん。

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