春は出会いと別れの季節
新生活と出会い
春になり大学へ入学。
地元を離れ、都会へやって来た。
山と川だけの地元と違い、なんでもそこにはあった。
大学のオリエンテーションで、受講すべき一般教育と専門科目を選択をして提出。
まだこの時期は、学内でも同じようなぼっちがうろうろしている。
学食へ行き、資料を眺めながらぼっち飯。
まずい、粉だらけのお茶をすする。
「やべえ。どう考えても詰め込みすぎた」
毎日九〇分の授業が、朝から晩まで。
まるで高校と同じ。
いや、六時限のある日は、気が付けば十九時半まである。
「うーん。でもどうせ、家に帰ってもやることないし、学食の定食ですませば、安上がりだし良いか」
なぜか声に出して納得させる。
大体そう言うときには、人に聞かれる。
「一年生? 大学に住むの」
その女の人は、大人の人で良い匂いがした。
「えっと、授業を詰め込みすぎて」
「ふーん。専攻は?」
「システム制御です」
「へー。難しい事をするのね。あっ私二回生。デザイン科の
へー。デザイン。そう言えば、そんな科があったなあ。
ユニバーサルとか、多様な人々が利用しやすいよう都市や生活環境を創るとかって言っていたな。
「もう。キミなに君? こっちが名乗っているのにだんまり?」
「あっ。すみません。一年の
「へー。かっこいい名前。履修表見せてみ」
「これです」
彼女に渡す。
「へー。三回生で単位制覇が目標かな。四回生は、ゼミだけに集中をするんだ。私、去年はよく分からず。あまり取っていなかったんだよね」
うろ覚えだが、彼女の言う回生という言い回しが気になる。
「ひょっとして、出身は関西なんですか?」
「そう。なまってる?」
「いえ。学年のことを何回生って、言っていたので」
「なんかね。何年生って言うと高校生みたいな気がして、地元で言っていた回生を使っちゃうのよね。ガキだとか思ったでしょ」
そう言って少し赤くなり、舌を出す。
「いいえ。なんだか、かっこいいですね」
「そう? 良かった。同士が居た」
話をしながら、食べ物を口に運び咀嚼をする。
その姿が、少しエッチで目を引かれる。
「うん? なあに。見つめられると、少し恥ずかしいんだけど」
「食べ方が綺麗で、その色っぽいなと思って」
そう言うと、彼女は少し固まり、恥ずかしそうに御礼を言ってきた。
「そう? ありがと」
その後、少し話をして、混み始めた学食を後にした。
その晩、地元で大学へ行った幼馴染み、
メッセージツールで連絡をしていたが、電話に切り替えてきた。
背後に見える、見慣れた部屋。
高校の卒業後。付き合っていたわけではないが、二人とも漠然と、これからも共に付き合っていくような気がして、離れる前に体を重ねた。
「履修表を全部埋めた? バカじゃない」
「仕方が無いだろ、相談をする相手も居ないし」
「都会なんかに出るからよ。私は咲希や結菜と決めたのよ」
咲希の名前を聞いて、沙織さんを思い出してドキッとした。
なぜか、琴乃には言えなかった。
学食であって、話をしただけの関係。でも……
それが何か、自身で理解をしていなかった。
だが、去年履修をしていない教科が意外とかぶり、彼女と出会う。そして食事を繰り返し、その中で大きくなっていく気持ち。
子供の頃から、小学校中学校高校と、そのたびに交友範囲は広がり、新たに増えた知り合い。
その中で、変わらずそばに居た幾人か。
そして、琴乃はずっと特別だった。
そう、長い付き合いの中で、家族のようなものになっていた。
だけど家族とは違う。
高校卒業をして、あの日。それを理解をした。
意外と華奢な肩。
感じる体温。
それは、長い付き合いでも知らない物だった。
彼女との関係は、確かにそこで変わった。
より愛おしく。
だけど、さらに広がった世界。
その中での出会い。
沙織は、琴乃よりも。さらに強烈に、僕の心を引きつけた。
それは一人で暮らす寂しさから来たものか、何か運命的なものなのか。
それは分からない。
彼女は一つ上だが、経験は無く。
ぎこちなく迎え入れた。
「本当は、美大に行きたかったの。でもそれじゃ食えないとか言われてね。渋々デザイン科。でも来たおかげで、君に会えた。これは嬉しいことだわ」
そう言って、微笑む彼女。
ああ駄目だ。
――彼女を手放したくない。
そして、一つの出会いを受け入れるために、一つの別れを伝える。
「こっちで好きな子が出来た。ごめん」
「バカじゃない。そんなもの、すぐに捨てられるわよ。――待っているから」
彼女はそう言って、電話を切った。
そんな言葉が、現実になったのは三年後。
彼女は、就職をした先で、いい人が出来たらしい。
「絵をね、描く人なの。共に歩いて行くには、そう言うことが大きいのよ。ねっ。理解をしてくれるでしょ。あなたなら……」
「理解できないよ……」
その言葉が言えたのは、電話を切って、そう何分後だろう。
故郷への甘えはあるが、こっちで就職をして、広がる世界に期待をしよう。
勝手なもので、彼女に振られてから思い出す琴乃の事。
それを何とか、振り切る。
だが……
「今更……」
知らなかったが、僕は女々しく。くだらない男だったようだ。
素直に、前を向けば良かったのに、さらに落ち込むことになる……
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お読みくださり、ありがとうございます。
すみません。また短編です。
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