第12話 榎宮先輩

 「一つはっきりさせておきたいんだ。彩莉に対しての君の気遣いは恋愛感情から来るものなのかな?それとも、ただのお人好しなのかな?」


 予想もしないいきなりの質問に、返す言葉を見つけられなかった。

 彩莉先輩の方に目線を向けると、チラチラとこちらを窺い答えを待っているようだった。


 「えっと……自分でもどちらなのかは分かりません……」


 簡単に返せる問でも無いし、自分の気持ちに素直になったところでその正体など分からなかった。

 

 「でも彩莉先輩には昔の笑顔を取り戻して欲しくて、今の関係になったのは事実です」

 

 そう返すと榎宮先輩は目を細めた。

 見つめ合うこと数秒、先輩は笑顔を浮かべて言った。


 「君が彩莉のことをしっかり考えてくれてるようで安心したよ〜。これで君も彩莉を見守る会の会員だ!!」


 そう言って先輩は、俺の肩に手を置いた。


 「なんなのそれ……」

 「文字通り彩莉を見守っていく非営利団体だよ。今作った」


 どうやら彩莉先輩も知らないらしかった。


 「いいかもしれませんね、二人で彩莉先輩を笑顔にしましょう」


 榎宮先輩の表情から本心でそれを望んでいるだろうことは疑う余地もなかった。


 「君とならいい協力関係を気づいて行けそうだよ」


 そして榎宮先輩は、彩莉先輩を置いてけぼりにして俺の手を握るのだった。


 ◆❖◇◇❖◆


 私の手帳のカレンダーには星のついた日が一日だけあった。

 それは六月半ば、奏の誕生日。

 恋人同士ならハートマークになっているかもしれないその日は相変わらず星マークのままなんの進展もなかった。

 それでも小さい頃からずっと続けてきたそれは、今年もするつもり。


 「でも何をプレゼントするか迷っちゃうなぁ……」

 

 何かこうギュッと奏の心を鷲掴みに出来そうなものがあったらいいなぁ。


 「ねぇお母さんあの人、一人でニヤニヤしてるよ〜?」

 「コラ、知らない人を指さすんじゃありません」


 通りがかった子供にそう指摘され、慌てて表情を引き締める。


 「一歩前進する起爆剤みたいなものはないかなぁ……」


 ん〜、悩みながら見つめたお店の窓に映ったのは自分自身。

 奏に好きになって貰いたくて、可愛いくなるよう努力はしているつもり。

 もういっそ、自分自身をラッピングしてプレゼントしちゃったり……ってダメダメ、何考えてるんだろ……。

 窓に映った自分は勝手に赤面していた。

 

 「お客様、何か御用ですか?」

 「な、なんでもないですー」


 店員に声をかけられ、慌ててその場を去る。

 奏の誕生日までは二週間とちょっと、いつもなら何を送ろうかもう決まっているはずなのに今年はまだ決まりそうになかった。

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