11(終)

「…で、お前」


榛名聖特製のロイヤルミルクティーを優雅に啜ったあと、近江涼介が唐突に口を開いた。


「さっきからなんで赤面してんの?」

「えっ?」


指を刺されて数度瞬き。わかってた。自分でもわかってたけど、他人からも指摘されるなんて。


「だって、だって…」


言われて余計に照れ臭くなって、両手で顔を覆う。3人は何事かとまじまじと私に注目している。


「だって、初めてなんだもん。友達(小声)っていわれたの…。」


きゃっ言っちゃった!恥ずかしい。

さっきの近江涼介や、榛名聖の言葉を思い出してニヤついてしまう。ああ、恥ずかしい!…けど、悪くなかったり。


1人興奮してふと顔を上げると、予想外にも冷ややかな哀れみを浮かべている3人。


「お前…可哀想なやつだな…。」


金髪の心底悲しそうな声が、ポツリと響いた。同時に、心の中のゴングも高らかに鳴った。


「うるさい金髪!アンタだけは友達(小声)じゃないわ!」

「あんだと!?つーかなんでさっきから友達って言う時小声なんだよ!」

「そんなの恥ずかしいからに決まってるでしょ!?

ハッ…てゆーか思い出した!友達ならなんで植木鉢事件の後から、私のこと無視してたわけ!?おかげで私クソ程寝不足なんですけど!!」


3人の位置をなぞるように、ぶんぶんと突き出した人差し指を振る。3人は顔を見合わせて、「ああ、アレ」と頷いた。


「ま、1番は藤澤ちゃんにまた被害が出ないようになんだけどぉ」


榛名聖がにっこりと笑みを深めて、近江涼介の肩をポンと叩く。それに頷くように近江涼介は口を開いた。


「窮地に追い込まれれば、少しは人を頼るようになるだろ?」


近づいてきた近江涼介が、「ちゃんと助けてって言えたな」と小さい子を褒めるみたいに私の髪をかき乱す。


『何人かかってこようと、1人でぶっ飛ばしてやるし』


そんな風にイキがった私を諫めるため?

今まで誰も助けてくれなかったから、頼ることもなかったから…人を頼ってもいいんだよって、教えてくれたの?


ふっと視界が暗転して、世界が閉じていく。遠くで3人の慌てる声が聞こえてた。そう言えば私、昨日から一睡もしてないんだった…。


心が解れて暖かくなる心地よさに、私はその後朝まで爆睡したのだった。3人のうち誰かが先生に話をして両親に連絡を入れてもらったようで、目が覚めたらベッドの上だった。


復讐のためのエサだと思ってたH2Oは、こうして私の友達になったのでした。



――第二話Fin.

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姫君の憂鬱 @chiyuki_lovestory

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