第3話 まあ茶でも飲んでいきなよ。麦茶だけどな!

幸いまだ誰の目にも映っていないようだ。

このクソ遅い夜中にわざわざ様子見に来る人もそういないか。


「あー、じゃ部屋行くか。そういえばアンタって名前何て言うの?」

「山田花子」

「役所かよ」


マンションのオートロックを開ける。

あ。

窓から外に出たんじゃん。

鍵ないわ。


「鍵ないからマンション入れない。どうしよ」

「ほんと何しとん」

「ね。何しとん」

「しょうがないなあ。ほら、一回外出るよ」


家に帰るのにフロントに入ってまた外に出るとかいうね。

外に出ると山田は部屋の位置を改めて確認してくる。


「あんたの部屋ってあそこ?なんかちょっと光が漏れててカーテンがバサバサしてる」

「うん。そこそk」

「よいしょぉ」


体が抱えられたと脳が認識する前に既に視点が地面に向けられたと脳が認識する前にいつの間にか自分の部屋の高さまで私と山田が飛んでいたという事を脳が認識する前に私はベランダへと連れてかれていた。


「胸、触んないでよ」

「あ、ごめん」

「うっそー」


ベランダの床が無い方にぶら下げられた。


「や、やだなぁ。冗談じゃないですか…。ほら、まだお茶もだしてないのに」


ベランダの床がある方に引きずり込まれた。

1夜で2回も臨死体験してたまるかって。


これ以上、山田の機嫌を損ねないように余計な動きはせずに冷蔵庫にしまってあった麦茶をコップに注いで山田に献上する。


「こういう時ってもうちょっとマシなものが出てくるもんじゃないの?」

「そんな上等なものがあるように?」

「見えない」


2人で顔を合わせながら大笑いする。

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