自裁

ああやって ずっとずっと

いつまでも飽和しない腹づもりか

(今日もまた アポトーシス自殺型細胞死の星

 瞳閉じれば 宙に黙然と浮かぶ)


命に架された屋根の上

私は身動みじろぎもせずにうつむきながら

しばし 蜥蜴とかげの顔で眺め入る……

引力の誘惑に逆らうことなく

地の底めがけてけ墜ちてゆく

あの 心の空の

惜し気もなく 独りかげるのを


ああ あすこに見えるのは

この夢の町の時計を止めに歩く

慰め色の漂流者……?

いくら歩けど飽きもせず

どうやら またやって来たらしい

今度こそ やれ今度こそと

やっとのことで重い腰を上げて

渋々辿り着いたのかもしれぬ……

私の息の根を 日めくりを そして

しんの臓を 悉皆すっかり止めてしまうために!


往け 寄る辺なき虹の流人ながれびと

我が自裁を叶えるため

人知れずカチリカチリと動くせいの時計を

微塵に 塵埃と粉砕したまえ!


……おお の風来坊の

未だかつてなく 如何とも形容し難いほど

黒く ああ 黄金の黒に輝き始める!

来たれ 罪深き私の永遠なる終幕よ!



(遠い夢からの最期の覚醒)



我が夢! 我が愛!

我が甘美なる果てなき罰よ!

私は遂に 天上の炎の鳥を殺め

大いなる絶望の斧を手に入れたのだ

……私の心に巣食うお前たちの脳天を

この神器で叩き割ってやるために!

これを優しさと呼ばずして何と言おう?

闇は蛮勇という人工の駄熱を奪い

人間という化け物をこの世から駆逐し

生のカオスを真綿の情で安穏となだめる!

これこそ福音にあらずして何であろう?

自裁こそ聖句の頂点でなくて何であろう?










  頭上に振り下ろされる斧

     

        束の間の獰猛な鈍音

     





     全き静寂 ────






ベランダに踊る早朝の風

遂に生を脱した肉塊の肌を

飄々と ひゅう と舐める


 コイツはとても喰えたもんじゃねえ


と 不満気に独りごちた風は

この地球上の 八十億の人のあわい

たいそう気味悪そうに

逃げるように 去っていった……



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