二十一年 十一月  「裏庭になごり雪」

 冬枯れの梢を覆う雪の寒々とした写真がお題です。春近しの俳句を詠めということでしょうか。なごり雪は春の季語「雪の果て」の傍題です。


   ぬかるみのどろぬくかりし涅槃雪ねはんゆき ☆並選


 涅槃雪ねはんゆきが春の季語です。涅槃とは終わること。仏教の言葉です。御釈迦様が亡くなった御命日(涅槃会)が旧暦の二月十五日だったので、その前後に降る雪とも言われますが、その冬最後の雪を指し「雪の果」の傍題となります。名残の雪、別れ雪、忘れ雪なども、同じく雪の果の傍題ですが、どれもカッコ良くて胸がときめきます。

 寒さの緩む頃の雪は直ぐに溶けて泥濘ぬかるみになります。その泥は真冬とは違って温かく感じられただろうって、なんで他人ごとなのよ。カッコつけといて並選でした。


   濡れ縁の吾子の長靴なごり雪 ☆並選


 季語は「なごり雪」です。吾子が主役なので、平仮名で可愛くしてみました。濡れ縁というのは、集合住宅では聞きませんが、一般家屋の各部屋から突き出した縁側(ちっちゃいベランダ)のことです。雨戸を閉めるとここだけ雨に濡れてしまうので「濡れ縁(側)」といいます。なごり雪の降った翌日、その濡れ縁に可愛いうちの子の長靴が干してある、という句です。子どもの長靴ってカラフルで可愛いので、もう春になるんだなという喜びも詰め込んだ句でしたが、並選でした。


   草々のロゼット青し斑雪はだれゆき ☆☆☆☆☆ 天


 驚くなかれ! 天、取っちゃいました。一生取れないと思ってたのに! まだ絶望的初心者なのに! ええっ? なんで? ……俳句はどうでも、天はすごい、って今、思いましたね? この正直者どもめ!


 季語は「斑雪」です。まだらに降り積もった春の雪、または溶けかけてまだらに残っている雪を言う(俳句歳時記・春 角川書店編より抜粋) あちこちに雪の残骸の残る裏庭を歩いてみると、雪の溶けた地面にはいろいろな草の円く拡げたロゼットが見つかります。雪解けの風はまだ冷たいけれど、もう春ですよと、ちいさなロゼットたちが教えてくれます。


 *ロゼット………… ロゼットとは冬を越すときに、茎がほとんど伸長せず、根に直接葉がついているようにみえる根出葉の状態を指します。冬をロゼットで過ごす草をロゼット植物といい、その代表がタンポポです。


 この句は天ということで、夏井先生から丁寧な感動的な講評をいただきました。

https://ouchidehaiku.com/contents/495282 感謝と感激。そんなに良い句だったのかと、本人が一番驚いております。ありがとうございました。

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