SA 27. 勘違い?
ダンの至極真面目な反応に、サラは口に含んだ物を噴き出さなかった自分を内心で称賛した。手放しで褒めたたえた。これが腹に一物のあるメンバーであれば、もっと面白い演技で返すのだろうが、ダンは誠実で必要な嘘以外はつけないのだ、そうなのだ。
今度はアンジェラがきょとんとする番であった。目をまん丸くして瞬きをし、あれだけ視界から外していたダンを見て、
「付き合って、ない?」
素で返していた。
「ないな」
ダンは鷹揚に頷いた。
「サラより連絡が多いと聞きましたが?」
「まあ、一応このエリアの窓口は俺だからだろう」
そう言われてみればそうである。そして、そう言われればおしまいなのである。
「通話の際は席を外すとも?」
「コイツがいると会話に割り込んだ挙句に、スマホを奪われる」
けれども、心が乙女なアンジェラは果敢にも追撃を敢行し、華々しく玉砕した。
儚くも散った少女漫画心か。「そんな……」とこぼし、しばらく呆然とダンを見詰めていたが、その視線が横に滑り、サラを捉える。
聞いていた話と違うと恨み言を垂らす眼光を、一切合切無視し、サラはレモネードを一気に煽った。甘い液体が無遠慮に押し寄せた喉がむずがる。
「よかったね、サラ。お兄ちゃん離れしなくてすむみたいよ」
アンジェラのほがらかな笑顔の影に青筋が立っていた。
虚を突かれてダンが、この上もなく珍しいきょとんとした顔をさらす。
彼の類まれなる表情をぜひとも写真に納め、今後の脅し道具に使おうと思うも、サラにはレモネードを飲み干すという使命がありままならない。拒絶したいと騒ぐ喉に無理やり甘い液体を通し、努めて冷静に、口を開いた。
「そんなこと言ってないし、思ってないもん!」
テーブルにからのプラスチックのコップを勢いよく叩きつける。反動で残された氷がわずかに跳ねた。
「お前、俺のことをそんな風に思ってたのか?」
出会ってからこの方まで見たことのないくらいに眉尻が下がっている。眼差しまでどこか和やかで。これは、あれである。独り立ちしたと思った弟妹が頼ってくれた時の兄姉の顔だ。サラに兄弟はいないが、きっとこんな感じだ。
だがしかし。
「思ってないって! それにさっきからお兄ちゃんっていうけど、わたしとダンは同い年!」
「精神年齢的な?」
「アンジェラうるさい!」
きゃんきゃんと騒ぐサラを周囲の視線が刺してくる。当人は気にする素振りもなく、ダンも気付かない振りをしているのか宥めもしない。
アンジェラは鼻を鳴らして立ち上がり、
「ヒューストンの分のご飯と飲み物、取って来ってきます」
と、鼻歌を歌いそうな足取りでレジへと向かっていった。
サラは半眼にダンを見据えた。
「勘違いしないでよ」
アンジェラが忘れていってしまったスマートフォンを指でいじりながらぶうたれる。
「はいはい」
ダンはあの眼差しはやめていたが、そこはかとなく嬉しかったのか、サラの頭に手を乗せてわしゃわしゃと撫でまわす。
「分かってる?」
「分かってる、分かってる」
言葉を二度繰り返されるのが面白くない。
それから何度も「違う」「勘違いしないで」を口にするサラに対して、「はいはい」とダンは相槌を打ち続け、数分後に戻ってきたアンジェラを半ば呆れさせたのだった。
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